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世界初、オープンデッキ付き2階建てロープウェイがスイスに登場!

暦は8月を迎え、本来ならば夏真っ盛りと言いたいところであるが、とても良く晴れ渡り、気温が30度を越える日々が続いたかと思えば、数日後には急激に温度が下がって、雨が降ったりやんだりと、肌寒い日が続く事も多く、今年は涼しい夏を過ごしているという印象も強い。とは言え、スイスの夏はアルプスの山々に登山鉄道を利用して登ったり、風光明媚な風景を見渡しながらハイキングをしたりなど、美しい景色と自然を身近で満喫できるのが、アトラクティブなポイントでもある。


美しきフィアヴァルトシュテッターゼーを背後に、オープンデッキのロープウェイが山を登る swissinfo.ch

 スイスの山々には、「世界一の〜」「世界初の〜」というコンセプトで創り出された乗り物や観光名所がある。そのいつくかは、童話の世界に出て来そうな魅力的な町で、カペル橋がある事でも有名なルツェルンから近い地域に点在する。ルツェルンの町からも見渡せる、2つのピークを持つピラトゥス山(Pilatus)には、世界一の急勾配を登る登山鉄道が頂上まで走り、また、標高3020メートルのティトリス(Titlis)の山頂までは、世界初の回転式ゴンドラがくるくると回りながら登って行き、山のてっぺんまで人々を導く。ちなみにこの山の上には、断崖絶壁にかかる長さ約100メートルの、ヨーロッパ一高い場所にある吊り橋、「ティトリス クリフ ウォーク」(Titlis Cliff Walk Bridge)」が2012年の冬にオープンし、こちらも観光名所となった。

 また同年6月、スイスの人々は、またまた凄いものを作り上げた。中央スイス、フィアヴァルトシュテッターゼー(ルツェルン湖)の南に位置する標高約1900mのシュタンザーホルン(Stanserhorn)に、世界で初となる、オープンデッキ付きの2階建てロープウェイ「CabriO(カブリオ)」が誕生し、スイス国内でも話題を呼んだ。

 CabriOの名前は、オープンカーのカブリオレ(Cabriolet)にちなみ、名付けられたのだそうだ。元々は100年以上も前から、シュタンザーホルン山頂のホテルへ登るための交通手段として、3つの区間に分けたケーブルカーが運行されていたそうだが、これらは一部区間を残して廃止され、1975年にはロープウェイが開通。その後、観光用の大きな目玉となる2階部分に屋根の無い、開放感いっぱいのオープンデッキのロープウェイの建設計画が入念に立てられ、2012年に完成した。

 今月の記事では、日本語のガイドブックにはまだあまり詳しくは紹介されていない、スイスの人々の間で人気のシュタンザーホルンと、新しい観光の目玉となったオープンデッキのロープウェイについて、筆者の体験を交えながら、今回の前編と次回の後編に分け、みなさまへお伝えしてみようと思う。

 シュタンザーホルンまで登るには、麓の町シュタンスから出発。シュタンスはニトヴァルデン準州の州都で、ルツェルンとエンゲルベルク(Engelberg)の間に位置する。頂上までは、クラシックなスタイルのケーブルカーと、2階建てロープウェイを乗り継いで行く。スイス連邦鉄道(SBB)のシュタンスの駅から目と鼻の先に、シュタンザーホルンへと登る専用の駅(Stanserhornbahn)が設けられている。駅舎はスイスらしい雰囲気の、花々で彩られた可愛らしい小さな建物だ。

花々に囲まれた、シュタンザーホルンへと登る専用の駅 swissinfo.ch

 頂上までのチケットは駅の切符売り場で、往復のチケットを通しで購入できる。ここから最初の駅ケルティ(Kälti)までの区間1556mは、100年以上の伝統を持つレトロなケーブルカーで登って行く。

 訪れたのは、今年7月の良く晴れた日。2年前にオープンした新しいロープウェイには、他の有名な観光地とは異なり、団体客や外国からの旅行客はまだ少ないようにも感じ、むしろスイス国内からと見受けられる観光客たちに遭遇した。配布されている旅行ガイド用のパンフレットには、ドイツ語、フランス語、イタリア語、英語、中国語での案内が記載されていたのだが、残念ながら日本語の表記は見当たらなかった。駅周辺は平日にもかかわらず、世界初の新しい乗り物に乗車しようと試みる多くの人々で賑わい、駅へ到着した後、約1時間後に出発するケーブルカーとロープウェイに乗車するための時間の整理券を渡され、乗り物の乗車券はそれとは別に、切符売り場で購入。スイスでは珍しいとも感じる、長い待ち時間を経て乗車した。

 途中駅までは、窓ガラスの無い、歴史が刻まれた小さなケーブルカーに、ゴトンゴトンとのんびり揺られ、眼前には緑色に広がるスイスの田園風景と、遠くには湖、そびえ立つピラトゥスの山を眺め、カウベルの音色を聞きながら、ゆっくりと登ってゆく。

窓ガラスの無い、レトロなケーブルカーの中から眺める、美しい田園風景とピラトゥス swissinfo.ch

 乗り換え地点のケルティに到着すると、お目当てのCabriOが目の前で待機。キャビンはオープンデッキの2階席部分が30名、ガラス張りの1階部分が60名で、計90名が一度に乗車できるという。2階部分へは1階真ん中の階段から登り、上下それぞれは移動が可能。通常のロープウェイが1本のケーブルでつり下げられているのに対し、CabriOは上下2カ所がケーブルで挟み込まれるような状態で運行されている。

 ケルティを出発し登り始めると、2階席のオープンデッキの乗客たちの間から、大歓声があがった。CabriOには車掌ならぬ、案内役のガイドのような役割をする係の人も乗車しており、主にドイツ語で説明をしてくれる。ちなみに帰りの下り便では、ドイツ語に加えて英語での説明もしてくれた。担当する乗務員によって、多少のサービスの差は生じるようだ。日本語の案内が無い事に少々残念に感じないでもないが、備え付けのテープで説明を聞く事に比べると、生の声での案内は、観光気分がずっと高まる。

 かなりのスピードを上げて、ロープウェイは上へ上へと登ってゆく。オープンデッキからは、眼下に美しく青く輝くフィアヴァルトシュテッターゼーと、小さくなった遠い町並みを眺めながら、眩しい太陽を浴び、爽やかな風を直に受け、大自然に囲まれたスイスの風景の美しさにあらためて感動する。山頂までの約10分間は、まるで空中散歩をしているようで、あっという間だ。実は筆者は高いところがかなり苦手なのだが、あまりの景色の素晴らしさに高い場所にいる恐ろしさも忘れ、オープンデッキのロープウェイを満喫した。

CabriO 2階オープンデッキからの眺め swissinfo.ch

 山頂に到着すると、高所に突き出すように設置された展望エリアがまず目を引く。緩やかな円形の形をしたこの場所からは、壮大なアルプスの山々がぐるりと見渡せる。ここは、床の部分が細かい穴が空いた状態になっており、すき間から下をのぞいてみると、自分がどのくらい高い場所にいるのかを実感させられる。他の山々の展望台同様、その場所からどちらの方角に、どの山々が眺められるといった案内が表示されているのだが、大変興味深く感じたのが、母国である日本への方角と、東京までの距離までが記述されていた事。その案内によれば、東京までは9652kmなのだそうだ!

シュタンザーホルン展望台、地図を見ながら、どの山が見渡せるのかを確認するのも楽しい swissinfo.ch
足がすくみそうになる展望台、絶景! swissinfo.ch

 展望台にはトイレ、土産物屋、屋内の食堂と、屋外のカフェテラスなどの休憩エリアがある。絶景を眺めながらのランチタイムは最高に食欲も進むのであるが、こちらもご多分に漏れず、スイスの山の観光地では地上と比較すると、価格が驚くほどに高額で、ミネラルウォーターを1本購入するのにも、町のスーパーの数倍の値段である事を、頭に置いておかねばならない。

 スイスの山の観光は、雄大な景色を眺めるだけではない。人々は美しい風景を堪能した後、歩きながら周りの自然と触れ合う。この展望台のある場所からも、緩やかな坂道を登りながら歩いてみると、二手に分かれるハイキングコースが現れた。次回の後半では、珍しい高山の花々と豊かな自然に囲まれた初級者向けのハイキングコースと、もう一つ高い場所にある展望台の様子等もご紹介しようと思う。夏のスイス、山の観光の1日を、よろしければ次回も是非、おつき合い下さい。

スミス 香

福岡生まれの福岡育ち。都内の大学へ進学、その後就職し、以降は東京で過ごす。スイス在住11年目。現在はドイツ語圏のチューリヒ州で、日本文化をこよなく愛する英国人の夫と二人暮らし。日本・スイス・英国と3つの文化に囲まれながら、スイスでの生活は現在でもカルチャーショックを感じる日々。趣味は野球観戦、旅行、食べ歩き、美味しいワインを楽しむ事。自身では2009年より、美しいスイスの自然と季節の移り変わり、人々の生活風景を綴る、個人のブログ「スイスの街角から」をチューリヒ湖畔より更新中。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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