スイスの視点を10言語で

外国人犯罪者の国外追放強化イニシアチブ、きっぱりと否決

外国人犯罪者の強制送還は、2015年3月にできた法律で十分だと政府は主張していた Keystone

四つの案件が国民に問われた28日の国民投票で、一番注目されたのは「外国人犯罪者の国外追放強化」を求めるイニシアチブのゆくえだった。大量の難民が欧州に押し寄せ、ドイツ・ケルンで新年に起きた犯罪などもあり、スイス国民は安全性に関し感情に流されやすい中での投票だったからだ。しかし、これは58.9%の反対で、きっぱりと否決された。

 チューリヒとジュネーブの駅構内に先週、スイス国旗の白十字がナチスを暗示する鍵十字に変化したものが掲げられ、大きな波紋を呼んだ。これは、右派国民党が提案した「外国人犯罪者の国外追放強化イニシアチブ」に対する抗議行動の一環だった。

 もともと2010年の国民投票で、「外国人犯罪者を国外に追放するイニシアチブ」はすでに可決されていた。当時はむしろ、コソボ共和国などからの難民による犯罪に対する反感から、スイス国民はこの国民党のイニシアチブ(国民発議)に賛成した。この結果を受け、5年かけて連邦議会は法案を練り、「強制送還によって著しく不当な立場になると判断された場合は、国外追放しない」という例外を盛り込んで2015年3月に、法律を成立させた。

 ところが、この過程の間に、この法案が2010年のイニシアチブをきちんと反映していないとして、国民党は新しく、外国人犯罪者の国外追放を「強化した」案をイニシアチブとして、2012年に成立させた。

 国民は今回、この強化イニシアチブを否決したわけだが、この結果に胸をなでおろした関係者は多い。なぜなら、強化イニシアチブは細かな犯罪リストや規定などを憲法に盛り込むことを謳(うた)っており、そのこと自体が問題にもなり得るうえに、こうした犯罪リストなどに従って司法の判断抜きで、自動的に国外追放を要求している点など、可決されれば大きな問題を引き起こす可能性もあったからだ。さらに、対外的にも欧州人権条約などに抵触する可能性もあった。

結婚を罰しないイニシアチブ、否決

 最後まで票が割れ結局、ぎりぎり50.8%で否決された第2番目のイニシアチブは、「夫婦・家族のために 税制上で結婚を不利にしないこと」を謳ったものだった。

 スイスでは、結婚した夫婦が同居しているカップルに比べてより高い税金を払わせられている。累進税率を採用しているこの国では、同居カップルが個人単位で課税されるのに対し、夫婦ではそれぞれの所得の合計金額に課税されるからだ。

 しかし最近、多くの州で州税の改善が行われたため、残る問題は、連邦税において共稼ぎの夫婦と退職した夫婦がより高い税金を払わせられていることだ。そのうえ、年金においても結婚しているか否かで差があり、退職した夫婦の国民年金の額のほうには上限が設けられている。こうした状況を「まるで結婚が罰されているようなものだ」として、キリスト教民主党がイニシアチブを提案していた。

 ところが、イニシアチブの反対派は、この税制上の不平等よりも、キリスト教民主党による結婚の定義「継続的かつ法的に認められた男女の生活共同体」を狭義だとして非難した。そのためか、何度も取り上げられて来た税制上の不平等は、ぎりぎりまで票が割れながらも、結局改善されなかった。

 イニシアチブは、憲法改正という重大事であるため、投票者と州の過半数以上の賛成が必要とされる。今回のこの案件は、州の過半数が賛成したものの、投票数では0.8%の差で否決。そのため、全体としては「否決」という、きわめて例外的な結果となった。

食糧投機禁止イニシアチブ、否決

 第3のイニシアチブは、「食糧への投機禁止イニシアチブ」だった。突如、食糧価格が跳ね上がって貧しい国の人々が飢えるという状況が、過去2回(2007〜08年と10年)起こったことから、社会民主党青年部は「スイスに本社・支社を置く金融機関(銀行、投資信託など)が、自己または顧客の利益に関わらず、また直接間接を問わず農産物原料や食糧関連の金融商品に投資できなくなること」を求めた。

 しかし、州の過半数以上と投票者の605%の反対で、イニシアチブは否決された。だが、もともと社会民主党青年部も、今回すぐに可決されるとは考えていなかった。むしろ提起することで、国民と政府の意識を変えたいと考え、こう語っていた。「連邦議会は、国際的で複雑なこの問題から目をそむけようとしている。しかし、これは直視しなくてはならない問題だ」。また、スイスがこの食糧投機において中心的な役割を果たしている点も指摘していた。

 一方、内閣を含む反対派は「イニシアチブが通過すれば、農産物へ投資する金融派生商品を国際取引している国内の当事者たちが直撃される。また、スイスにある関係企業が海外に移転する可能性も出てくる」と危惧していた。

ゴッタルド第2道路トンネル建設のための改正法案、可決

 アルプス縦断ルートを通る車両の約6割が通過するゴッタルド道路トンネル。しかし、老朽化が進み補修の必要がある。そのため連邦政府はこの補修工事の間、南北を結ぶ重要な交通を確保するために第2道路トンネルの建設を提案した。また、将来的には、二つのトンネルはそれぞれ一車線になり、その結果、衝突事故も減ると政府は訴えていた。

 だが、この案に左派と環境団体などが反対した。トンネルがもう一つできれば、交通量はかえって増え、アルプス地域の環境汚染が進むからだ。しかし、連邦議会でのトンネル建設のための改正法案の通過ははばめなかった。その通過直後に、約50の環境・自然保護団体が、法案に反対するレファレンダム「ゴッタルド第2道路トンネル」を成立させた。

 この成立には当時、必要な署名数の5万人を大幅に超える12万5千人もの署名を集めている。しかし今日の投票で国民は、環境保護より、経済的かつ現実的な解決策を求めてか、57%で第2トンネル建設に賛成した。

 なお、今年の投票率は63%と、過去20年来の高い数字を記録した。

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部