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英EU離脱は、英国の政治制度に対する民主的な緊急の訴え

英国のEU離脱決定は、英国だけでなくは欧州全体を大きく揺さぶった Keystone

英国の欧州連合(EU)からの離脱を問う国民投票で24日、有権者の52パーセントが離脱を支持した。しかも投票率は72パーセントと、英国史上最高を記録した。

 だが、今回の歴史的決断において、約3300万人の投票者はEU離脱という「一つの答え」を出しただけではない。英国そのものや英国の民主制、そして欧州の在り方について多くの新しい課題を突きつけたのだ。

英国の問題

 英EU離脱の国民投票は、かつて世界の支配者だったこの大国の姿を、鏡にはっきりと映し出すことになった。そして二つの大きな分断をまざまざと見せつけた。一つは英国社会の中の分断。もう一つは地理上の地域の分断だ。

 社会の分断とは、オープンでリベラルな社会・経済を目指すコスモポリタンな人々と、保守的かつ内向的で移民に対して批判的な立場を取る人々との間の分断だ。地域の分断とは、英国、スコットランド、北アイルランドの境界線に沿って走っているものだ。

 これら2種類の分断がもたらす影響は非常に大きい。社会の分断は、伝統的な政党を危機的状況に追い込む。中でも最もあやうい状況にあるのが、野党・労働党だろう。

 今後さらに明確になる地域の分断では、スコットランドと北アイルランドが英国から独立する可能性があるということだ。それは、保守派のキャメロン首相が歴史書への掲載を望まないようなシナリオだ。

民主制の問題

 今回の英EU離脱が浮き彫りにしたもう一つの点は、今日に至るまで英国ほど、選出された国会議員からなる議会制民主主義を尊重してきた国は、欧州には他にないということだ。およそ650万人の英国民はここ数十年間、「勝者がすべてを手にする」の原則に従って、多数派が選出した歴代の首相に統治の権限を委ねてきた。

 しかし、多くの国民には、ロンドンで行われた数多くの政策にも、さらにEU内で同じ英国の政府が参加・決定した政策にも、こうした英国式の統治制度の「利点」が反映されていないと感じられた。

 従ってEU離脱は、制度への民主的な緊急の訴えであり、これまで力がないと見なされてきた国民による政治参加への方向を継続的に強化していくものとして考えるべきだろう。こうした文脈からは、今回のEU離脱を問う投票がキャメロン首相からの、(上から提案された)国民投票だったことは、あまり良いことには思えない。

欧州の問題

 欧州の政治統合プロジェクトは、この数十年間、進展と強化だけを経験してきたのではない。後退や困難にも遭遇してきた。すでに早い時期から欧州ではEUのさまざまなテーマに関する国民投票が「痛いまでに」否決されてきたという過去がある。だがそれでも毎回、政治や社会的権力は、どうにかその後の困難を切り抜けてきた。

 例えば、デンマークとアイルランドが行った国民投票で欧州条約改正が否決された後や、フランスとオランダが行った国民投票で欧州憲法が否決された後もそうだった。

 しかし、今回の英EU離脱決定の後ではこのようにはいかないだろう。なぜならEUの他の国のナショナリストと保守派の勢力が、すでに英国と似たような国民投票を要求しているからだ。しかし、まず英国はEUからどのように離脱するのか、またその後どうEUと折り合いをつけていくのか、解決策を見つけなければならない。そして、それだけで何年もかかることはまちがいのないことだ。

(仏語からの翻訳・編集 里信邦子)

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