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ローザンヌ国際バレエコンクール、勝つのだと信じて

8年間ジュネーブのオペラ座「グラン・テアートル」の専属ダンサーを務めた後、もう1つの好きだった道、自動車レーサーを3年間やったアレン氏。その後今のダンス学校を創設。自分を信じて歩いてきた人である swissinfo.ch

若いクラシックダンサーの登竜門「第35回ローザンヌ国際バレエコンクール」が1月29日からローザンヌで始まる。今年は日本から11人が参加し、7日間に渡り入賞をめざす。

この7日間ダンサーたちを指導する「ティーチャー」デイビット・アレン氏にアジアのダンサーの特徴や、最近の傾向などを聞いてみた。アレン氏はイギリス人で、現在は生徒180人を抱えるクラシックバレエ学校「ジュネーブ・ダンス・センター ( Geneva Dance Center )」のディレクターでもある。

swissinfo : 2004年からローザンヌ国際バレエコンクールで、ティーチャー ( teacher ) を努めていらっしゃいますが、具体的に何をなさるのですか?

アレン : コンクールの7日間、毎朝1時間半のトレーニングを女子ダンサーにします。それと男子ダンサーには「ヴァリアシオン」という、1分半の長さの一連の動きをコンクールの一環として与えます。

ヴァリアシオンはすでに審査員が並んでいる前で、ダンサーは初めて見る一連の動きを習い、15分後には、1人で踊ってみせるというものです。15分という短い時間の間に、しかも審査員が目の前にいるというストレスの中で、知らない動きと流れをいかに習得し、自分のものにできるかという能力を測るものです。

swissinfo : ティーチャーとして男女のダンサーをずっと見てきていらっしゃいますが、昨年6人の入賞者の内4人が中国、韓国、日本のアジア人 でしたし、今年も65人の参加者のうち、19人がアジア人です。なぜアジア勢がこのところ優勢なのでしょうか?

アレン : アジア人は厳しく練習をするという一言に尽きると思います。それは見ていて分かります。

それに比べ、ヨーロッパ人は厳しくやらなくなりました。ダンスをやっているヨーロッパ人がこんなにいるのに、コンクールで入賞しないのは、精魂を傾けていないからです。ヨーロッパの子供は、厳しすぎるとか、時間がないとか色々愚痴を言って怠ける傾向があります。それに、ダンス以外に水泳とか、音楽とか色々同時にやりすぎる。アジア人はダンスだけに集中するのではないでしょうか。

とにかく20年前、アジア勢はひどい遅れをとっていましたが、今は追いつき追い越しました。

swissinfo : ところで、コンクールで教えていらして、アジア人とヨーロッパ人の表現の違いなどを感じられますか?

アレン : 違いがはっきりあります。女子では、アジア人は上半身の形が美しいのが特徴です。首、胸、腕の形がとてもきれいです。ヨーロッパ人はそこが少し劣ると思います。

swissinfo : なぜ上半身がきれいなのでしょう?

アレン : 恐らく、上半身の練習に力を入れているのではないでしょうか。とにかく見ていてとてもきれいで感じがいいのです。

swissinfo : でも、よく日本人は機械的で感情表現が下手だという批判を聞いていましたが。

アレン : 私が言いたいのは、感情表現というより、腕のポジションなどがとてもエレガントだということです。

クラシックでは、難しいテクニックで腕を保っていても何でもないように、いかにも簡単そうにエレガントに見せることが大切で、それがアジア人は優れているということです。

死にそうに難しい動きやテクニックでも、それを乗り越えて何でもないように見せることが、クラシックの基本です。難しいことをそのまま難しいと見せてはならないのです。

swissinfo :  アジア人の優れている点を御指摘いただき、うれしいのですが、クラシックではあくまで妖精のように細く、軽やかな体つきが大切。アジア人は体つきでヨーロッパ人に少々劣るというようなことがありますか。

アレン : いいえ、この頃それもなくなりました。女子の体つきは、背も伸び足も伸びて見劣りしません。

昔は、アジア人は上半身はいいのに、アンドゥオーという足を外側にスッと伸ばす動きや、ポワントゥという爪先立ちが下手だといわれていましたが、随分良くなりました。特に韓国人はとてもいい。中国人もいいです。日本人は少し、この点が弱いかと思います。

swissinfo : 男子は、アジア人とヨーロッパ人とで何か違いがありますか?

アレン : 男子は皆同じであまり民族的違いは感じられません。ただアジアの男子は課題種目に、動きが多くテクニックをより必要とする『ドンキホーテ』などを選び、『白鳥の湖』などは選ばないという傾向がありますが。

それより、男女の差がこのところ、顕著です。男子がここ10年間でグーッと伸びてきて、すばらしい例外的なダンサーが出てきています。どころが、女子は高いレベルにいるのに皆似ていて、これといった子が出てこなくなりました。ローザンヌコンクールが始まった頃は天才的な女の子が毎年出ていましたが。

swissinfo : ところで昨年から、ビデオの予備審査で残ったダンサーおよそ65人がローザンヌに来るようになりましたが、この制度をどう思われますか?

アレン : 個人的には良くないと思います。ビデオの撮り方、カメラの質などといった技術的な差がでてくる上に、10月から1月末までの4カ月間で生徒はまたぐっと伸びるのです。特に若い子は。それが、こういったシステムだと審査員には汲み取ってもらえないでしょう。

以前の方式だと、1日目で大多数が落とされるのでかわいそうだといいますが、それがコンクールなのです。やはり、審査員の前できちんと踊って評価されるべきです。

それに、以前のシステムこそ現代的なのです。今求められているダンサーは、2週間で与えられた役をこなし、すぐ舞台に立てるということが大切。2カ月間も振付師を雇うお金などどこも持っていないのです。

だから新しい状況で、新しい動きをすぐに習得できる才能が要求されています。これを以前はコンクール中にやっていたのです。短いコンクールの期間に、ストレスのかかっている状況で伸びていく才能を発見していたのです。

swissinfo : コンクールを控えて、ダンサーにアドバイスをいただけますか?

アレン : 自分を信じること。自分は入賞するのだと信じて臨むことです。「ローザンヌコンクールは有名だから、参加するだけで意義あり」なんていう弱気ではだめです。コンクールなのですから、勝つのだと信じて臨むのです。

そしてコンクールの間中、今日はきのうより上手に踊ると自分に言い聞かせ続けること。1日、1日良くなっていくと信じていくことです。そうすると本当に伸びるのです。コンクールはチャレンジの場。その間も伸びていく、刺激の渦の中にいるのです。

swissinfo : 最後にプロを目指す若いダンサーに贈る言葉がありますか?

アレン : まず、プロになれるには80%の練習と20%の運だということです。他の世界でも同じですが、ダンサーの数はますます増え、レベルはますます上がっています。だからこそ、こうしたコンクールやオーディションがあるのですが。

だいたいオーディションでは50人の中から1人しか選ばれないのです。そうした時、あの子がいい。あの子に興味があると審査員に思わせないといけません。どうすればいいか。引き付けるのです。自分を信じて「私を見て」という気持ちを体で表現するのです。「だめかもしれない」と思っていると体に現れます。

また、経済的にもプロのダンサーであり続けることは大変なことです。例えばジュネーブの劇場は60年代45人のダンサーを抱えていましたが、今は20人です。競争は激しい上に、私のところのようなカンパニーが何か上演しようとすると、1回で、1000万円かかる世界です。

だから、プロをめざすには、「どのようなことがあろうと、自分はプロになる」と思うことです。もしそう思えないのだったら今すぐやめた方がいい。これが私の若いダンサーに贈る言葉です。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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