スイスの視点を10言語で

サイバー攻撃はスイスでも可能か?                      

ハッカーなどサイバー犯を見つけるのは難しい imagepoint

先々月、エストニアの政府機関や民間企業のサイトに対してサイバー攻撃が行われた。

これを受けて、「ハイテク国」スイスでもこういった攻撃を避けられるのかという問題が浮上してきた。

 まさにこれらの問題を扱う「ジュネーブ・セキュリティー・フォーラム」に集まった、インターネット・セキュリティーの専門家に「サイバー攻撃」の現状について聞いた。

 5月上旬に起きた、エストニアに対するロシアからのサイバー攻撃を「初のサイバー戦争」と形容する専門家もいる。エストニアがソビエト時代の記念碑を撤退するという決定を受けて、3週間にも渡って一度に大量のアクセスを集中させてインターネット・サイトやネットワークがシステムダウンさせた。エストニアの政府機関、主要銀行、新聞社のサイトなどが停止に追い込まれた。

各国の準備は十分?

 フォーラムに参加していたコンピュータ・セキュリティーの専門家、フィンランド人のミコ・ヒッポネン氏は「ほとんどの国の国防省はこのような攻撃からサーバーをどう守るかを研究している」と説明する。ペンタゴンの最近の報告によれば、中国などの軍隊はサイバー攻撃専門の攻撃ユニットを設けているという。

 「この問題の重大さにもかかわらず、深刻に受け止められていない」と語るのは元王立国際関係研究所(ロンドン)の役員のジョージ・ジョフェ氏だ。同氏は昨年夏に、イスラエルとレバノン間に起きた活動家間のサイバー紛争を挙げた。

サイバーテロリスムは有り得るか?

 ストックホルムの国際平和研究学院のアリソン・バイル氏は、将来コンピュータ攻撃は貧しい国や特定の国に属していない武装集団の武器となるだろうと見る。「豊かでハイテクな国々に対する貧しい国からの不均衡ゆえの戦争となる」と分析する。

 しかし、前出のヒッポネン氏はサイバー・テロリストの出現については懐疑的だ。「テロリストは物理的に何かを破壊し、死者を出すことで恐怖とパニックをかき立てるのが目的です。サイバー攻撃はサーバーをダウンしますが、それ以上は狙えない」と指摘する。

 エストニアの件のように、デオロギー闘争や文化的な対立から国際関係が悪化している土壌でこそ、サイバー攻撃を受けやすいという。ヒッポネン氏は2006年ヨーロッパで起こったマホメットの風刺画騒動では、風刺画を最初に掲載したデンマークのメディアを中心にサイバー攻撃が行われたと指摘。

 確かなことは、この問題は始まったばかりだということだ。現在、限りなく情報システムが接続されているオープンな社会では今後、更にコンピュータ・システムに依存していく。その結果、社会がサイバー攻撃に対して更にもろくなっていくことは間違いない。

 「我々はデジタル軍備競争という時代に入りました。サイバー攻撃が巨大な経済打撃を与えることが可能」とみるのは世界中の電子認証局にルート承認サービスを提供するワイズキー( WISeKey )のカルロス・モレイラ最高経営責任者( CEO )。同社はジュネーブ・セキュリティー・フォーラムの発起人でもある。

スイスの対応は…

 さて、スイスではエストニアで行われたようなサイバー攻撃に対応できるのかどうか。スイスで情報保護を調整する「情報安全のための録音・分析局」(Melani)の責任者、ルイディ・リッツ氏に聞いてみた。

 「現在のところ、このような攻撃を防ぐことはできません。国の機関や民間企業のサーバーを麻痺させるような攻撃に対応するのが難しいのは、情報局からは『正当な来訪者』と『敵意を持った来訪者』の区別が付かないから」と説明する。

 さらに「情報システムの麻痺を防ぐ唯一の方法はホストサーバーの数やバンド幅(無線通信に利用される一定の周波数帯)を増やすこと。攻撃が来たと思われる国当局と即時に接触すること。国際的な協力をすることにより、サイバー攻撃をするハッカー行為を行ったコンピュータを見つけ出すのに役立ちます」と語った。

swissinfo、フレデリック・ビュルナン 屋山 明乃 ( ややま あけの ) 意訳

- 第1回ジュネーブ・セキュリティー・フォーラムはジュネーブの国際展示場、パレクスポ(Palexpo)で行われた。

- 同フォーラムは社会の安全を脅かす、あらゆる新しい脅威や危険を特定、分析し、政治的、経済的、技術的にどう対応するか解決策を練るのが目的。

- 同フォーラムの事務局長、元大使のダニエル・シュタウファー氏はスイスで開催された世界情報サミットを組織した1人でもある。

- 政府当局はインターネットなど情報に関する公共施設を保護するため、サイバー犯罪に対する調整ユニット(Cyber Crime Coordination Unit Switzerland )をつくった。

- さらに、2003年10月に政府は財務省の管轄下に、連邦警察とスイス教育・研究ネットワークの協力を得て、情報が録音、分析される情報局、メラニ(Melani)を設置した。

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部