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スイス 武装した永世中立国2 スイス兵の愛国心

スイス軍の兵士
スイス兵の心の中。愛国心?義務?職業としての兵士? Keystone

スイスは国民皆兵で兵役がある。兵学校を経て、復習のための兵役をおよそ27歳になるまで定期的に行う。いざというときには、成人男子の全員が兵士として戦えるようにと連邦制度が始まった時から続くシステムだ。

普段は民間人として職業を持つスイス兵。市民兵などと訳されるが、兼業兵の方が分かりやすい。兼業兵により構成されるスイス軍は、その質が高いと評価される。民間企業で身につけている技術が、軍隊で生かされるからだ。

 20歳に達した成人男子は、兵学校で18週間もしくは21週間の教育を受けた後、毎年復習するための定期的な兵役がある。兵学校と兵役をあわせ、祖国に仕える日数は300日。これは一般の二等兵の場合だが、将校クラスは教育も兵役もこれ以上を強いられる。近年は、兵学校と兵役を一気に終わらせることができる一貫兵役制度も導入され、兵役の形は多様化している。
 「スイス 武装した永世中立国」のシリーズ第2回は、300日間の一貫兵役を行う兵団に従事する3人の職業軍人にインタビューした。

新しい制度 一貫兵役

 2004年から導入された一貫兵役は、21週間の兵学校を経て引き続き兵役に服し、義務である300日を21歳までで修了するもの。2500人の青年が希望するという。歩兵、救援兵、パイロット兵など一般軍と同じ働きをする兵士のほか、外国大使館、領事館の監視やダボス会議など国際会議でのセキュリティー管理をする隊もある。

 チューリヒにある歩兵団Ber Kp104-1はチューリヒ市警察と協力し、市内にある8カ所の領事館のパトロールと監視を担う。チューリヒ市内にある防空壕の中にある駐屯地で、軍隊や愛国心に対する思いを語ってくれたのは、アラン・ラック少尉 (22歳)、パトリック・フォーゲル中尉(27歳)と兵士の教育を担当するロベルト・マンネス下士官(57歳)の3人だった。

スイスインフォ: 軍人を職業として選んだ理由を教えてください。


ラック少尉: まず、軍隊が好きだからです。軍隊が、非常に組織だった機関であることが好きな理由です。また、セキュリティーという職業に興味があるからです。

フォーゲル中尉: 兵学校を卒業し、もう少し自分を試してみたかったので、士官の教育を受けました。どんどん昇進して行くことができましたが、苦しい訓練をクリアするのが楽しかったのです。専門学校で機械技師としての勉強もしたのですが、セキュリティーという職業が自分に合っていると思って軍人になりました。

スイスインフォ: お二人のお話を伺うと、まずはセキュリティー関係の仕事に就きたくて職業軍人になったという印象を受けますが、スイスに対する愛国心はありますか。


フォーゲル: 愛国心もありますよ。わたしのアパートの部屋にはスイスの国旗も掲げてあります。でも、愛国心から職業軍人になろうという考え方をするのは、いまのスイス人らしくないですね。

外からの脅威などは、非現実的と言えます。冷戦時代とは違うのです。いまのスイスではテロリストやデモ隊などから市民の安全を守るという必要が出てきました。わたしは、国内の安全を守ることで国を守っていると思っています。

ラック: 若い兵士のやる気を引き立てるという仕事に価値を見出しますね。今わたしは、自分と同じ世代の兵士を指導しているわけですが、わたしは彼らをよく理解できると自負しています。軍隊には、士気の低い将校もいますが、軍はやる気のある指導者によって導かれるべきです。

スイスインフォ: 軍人でも政党員になれると聞いていますが、政治には興味がありますか。


フォーゲル: 特定の政党には所属していません。国民投票などの議題にはいつも注目しています。もっとも、特定の政党を支持するのではなく、議題によって自分の考えで投票します。

スイスインフォ: 指導的立場にあり、二等兵たちが抱える問題に直面することがあると思いますが。


ラック: 普通の職場と同じような問題がここにもありますが、ここは300日もの長い間兵役を送る兵団です。特に問題になるのはガールフレンドとの関係ですね。兵士たちは20歳から21歳と若いのですが、すでに同棲している人も多いのです。長い間ガールフレンドに会えないため、彼女がほかに好きな人ができるのではないかという不安をいつも抱えています。経済的にも苦しいと思います。

スイスインフォ: 改善できればと思うことはありますか。

ラック: 私自身はこの生活に満足しています。食事も美味しいですし、ある程度の娯楽もあります。(編集部注 :兵士が待機する部屋には、世界各国のテレビ放送が100局以上観られるテレビが2台あり、その1台ではプレイステーションが遊べる)

しかし、この兵団の2等兵は軍隊から出る最低の給料、58フラン(約5千円)だけではやってゆけないでしょう。兵学校を卒業して、就職することもなく兵役をしていますから、職場からの給料は普通の兵士と違って、ありません。おまけにガールフレンドと同棲していたら、アパート代で給料は消えてしまいますよ。

スイスインフォ: 次はマンネス下士官に伺います。下士官自身が軍人になろうとした理由と今の若いスイス人のそれとは異なると思いますが。

マンネス下士官: 私の祖父はドイツ軍に所属していたので第一次世界大戦に出兵しました。伯父はナチス政権下、ロシアへ派遣されました。伯父からは、有名なロンメル将軍のことをよく聞かされたものです。父はスイス兵として、大戦中はスイスを守りました。3人から、わたしは軍の良いことばかりを聞かされ、幼いころからすでに、軍人になろうと思ったのです。

スイスインフォ: 愛国心についてはどうでしょうか。

マンネス: 今の若い人たちにも愛国心はあると思いますが、たとえばスイス国旗が掲揚された時の心臓の鼓動の強さは、わたしの世代とは違います。

わたしの時代の人間はスイスはすべてにおいて一番で、疑問を持つこともなく愛することができました。現在は、わたしでさえスイスに対して、一部批判的になることもあります。外国のすばらしさも認めている若者は、なおさら冷静にスイスを見ていると思います。

青年男性の6割だけが兵役に服するという現状は、憂慮される事態ですが、兵学校に来る彼らはやる気のある青年であると期待されます。(編集部注:体力や病気などの面から、不適合とされ市民護衛団に入団する青年もいる。96年からは自分の主義で入隊を拒否し、老人ホームなどでの社会活動を軍隊の代わりとすることも認められるようになった)

スイスインフォ: ここで兵役を勤める兵士は、非常に長い間、兵士としての義務を強いられていますが、普通の兵役とは違った面で、運営の難しさがあるのではないでしょうか。

マンネス: 軍隊生活がルーティーンにならないよう、プログラムを組んでいるつもりです。我々は、連邦議会の要請を受けて領事館の監視をしていますが、監視以外にも兵士としての訓練もしています。訓練では、実戦で役立つことを第一に考えています。また、戦闘機に乗るなどアトラクション的訓練も組み入れ、魅力あるものにしています。

2週間から3週間ごとに兵士が入れ替わる普通の軍隊では、兵士が生活に慣れたと思ったら兵役が終わってしまうため、軍を指導する側にとっては一貫兵役は統制しやすいですね。

スイスインフォ: 政府は経費削減を理由に、職業軍人を増やす方針でいます。

マンネス: スイス軍は兼業兵で成り立っているますが、軍隊として最も理想的な形だと思います。兼業兵の軍だからこそ質が高いと評価されているのです。他国軍は軍人の集まりですが、スイス軍は、たとえば1個隊の兵士が力を合わせれば、家が一軒建つと言われます。それぞれの分野での専門家が集まった、実践集団なのです。

軍隊はセキュリティーという職業?

 愛国心に燃えているはずだという前提で話を伺ったが、3人とも興味は別のほうに向いているような印象を受けた。もちろん、愛国心はあるという。一部の兼業兵が、兵役を単なる義務と取らえ、いやいやながら兵役に服するのとは違い、軍に対する愛情と忠義心が高いのは、職業軍人として当然のことかもしれない。しかし、彼らの忠義心とは、一般の会社人が自分の会社に持つ愛情に、むしろ近いのかもしれない。
 外からの脅威は「ありえない」と考える3人。国内の安全を守ることが、スイスの防衛につながると考え、軍隊をセキュリティー職とみなしているのが印象的だった。

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swissinfo 佐藤夕美(さとうゆうみ)

20歳の成年男子が18週間もしくは21週間軍隊の規律や訓練を受ける。04年はおよそ2万5千人が軍隊教育を受けた。
復習兵役は6〜7回 1回は19日間。04年からは新しく一貫兵役というスタイルも導入された


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