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ステファン・ランビエールと荒川静香、対談で「共演」

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トリノオリンピックの金メダル受賞者荒川静香さんと、昨年10月競技生活に終止符を打つと宣言した2度の世界チャンピオン、ステファン・ランビエールさんの初対談が実現した。

スイスのショー「アート・オン・アイス」に出演するためローザンヌに滞在中の2人は、今までゆっくり話したことがなかったという。

「私の冷たくクールな感じの演技と反対にステファンのパッションある演技が組み合わさったら、面白いものができるのでは」と荒川静香さん。2人の共演も夢ではないようだ。

swissinfo : ステファンさんはフラメンコが、荒川さんはトゥーランドットの演技が今も多くのファンの目に焼きついています。こうした曲との出会いについて話していただけますか?

ランビエール : 

日本のショーに出演中、フランメンコのダンサー、アントニオに出会って、スペイン的なものをやりたいと言ったら、あの曲「ポエタ」を紹介してくれたのです。ホテルでCDを聴くとすぐに、自分が氷の上で演技している姿が頭に浮かんできました。

僕にとって曲選びのポイントは、それを聴いたらすぐに自分がスケートするイメージが浮かんでくるかどうかということです。そして、音楽との完全なハーモニーを感じ、個々の動きが音楽と一致し、音楽に従って動いていくことが一番大切なことです。

荒川 : 

私も「トゥーランドット」を初めて聴いた時、自分が動いているビジョンが描けたのは、ステファンと同じです。時には、これだと思った最初のイメージと滑り出した後とで、違ってくる曲もありますが、「トゥーランドット」の場合は、2001年に使った時から心地よく滑れ、滑っているというより音楽と一体化している感じが忘れられなかったので2003~4年のシーズンにも使いました。

2006年のオリンピックでは初めは違う曲を使っていて、オリンピック前、1月のトリノ合宿で会場に着いてから、会場の雰囲気もあって「あの曲でどうしても滑りたい」と思い、コーチに相談して復活させました。ですから私の場合、あの「トゥーランドット」には運命的な繋がりを感じます。

swissinfo : 音楽に限らず、プログラムの衣装、振り付けなど創作過程にどの程度参加されるのでしょうか?

ランビエール : 

僕はできる限りすべてを自分でコントロールするようにしています。プログラムは自分の子どものようなものなので、あらゆる細部をコントロールしたいと思います。

自分がどのように見えるか、ヘアースタイル、衣装、すべてを検討します。表現からパーソナリティーが感じられることが大切なので。例えば今回の「タンゴ」では、厳格な人物像を表現したいと思ったので、衣装も振り付けもこの人物に一致するように工夫しました。

オリンピックのゼブラ ( シマウマ模様 ) の衣装も僕のアイデアです。ビバルディの「四季」を聴いたとき、まず馬のイメージが沸き、次いで深い自分の内部はゼブラを感じていた。それも特別な、飛んで別世界に行けるようなゼブラで、このイメージを実現しようと、衣装や振り付けをしました。

荒川 : 

なるほど、こんな話があったのですね。今まで、なんでゼブラなんだろうと思っていました ( 笑い) 。しかし競技に使うプログラムを、ここまで自分でコントロールできる選手は多くいないですね。

私の場合は振り付けのコーチからアイデアを出してもらっていて、専門の振付師についたのは20歳になってからです。今ではショーの半分ぐらいは自分で作りますが、新しい動きや表現を習うのが好きなので、ほかの人のアイデアを取り入れて、新しいものを作っていくというパターンが多いです。

自分が感じたもので滑るパターンもありますが、そうすると結局それはすでに自分の中にあるものだから、新しく感じられない。だから今でも、ほかの振付師が新しい私を引き出してくれるようにして作ってくれるのが好きです。

swissinfo : 今の時代のフィギュアスケートは、技術とアート面の折り合いが常に問われますが。

荒川 : 

優勝したスケーターが時代のルールやスタイルを作ると思います。例えば昨年は、4回転とかハイテクニックを重視した人が失敗して、かえってアーティスティックな面を磨いていた人が優勝した。そうすると昨年はアーティステック重視の年と言われるのです。

ランビエール : 

問題はトリプルアクセルをやっても失敗すると評価されないので、リスクを避けようとする人が増え、技術が進歩しないことです。今トリプルアクセルができるのは、浅田真央さんとか少数の選手しかいない。だからこうした高い技術を持つ選手をもっと評価するシステムを作るべきだと思います。

荒川 : 

とにかく、今の時代は、優勝するには、アート面を磨いていればいいとか、テクニックを磨いていればいいとかという2者選択的な道はなく、自分はこっちで行こうと決めてやっていくしかない複雑な時代です。

ところでステファンは理想のシステムはどんなものだと思う?

ランビエール : 

僕はテクニックだけをきっちりと見るショートプログラムと、完全に自由でアーティスティックなフリープログラムを作るべきだと思う。今は2つとも、時間の長さが違うだけで、( 評価の仕方は ) まったく同じものだから。僕の考えるフリーは、使われたテクニックで評価されるのではなく、アーティスティックな表現面で評価されるものができたら理想だと思う。

荒川 : 

あっ、それはいい考えね。

swissinfo : お2人のお話が大変盛り上がっていますが、いつかペアーで、または別々でもリンク上で同時に演技する可能性はありませんか?

ランビエール : 

もし彼女と演技するなら、たくさん練習してもっと上手にスケートができないとだめだと思う。本当にもっと練習しなくては ( 笑い )。

彼女のスケートは完璧で、まるでリンクの上を飛んでいるみたいだから。まるで夢のようにうまく、しかもとても簡単そうにやっている。演技後もリラックスしていて、そのリラックスさが、次の出番を待つ僕にエネルギーを与えてくれます。

荒川 : 

じゃ次は、チョコレートもあげるわね。

ランビエール : 

おー、ありがとう。

荒川 : 

ステファンのファンは日本に非常に多く、日本でショーをやっているのに、スイスの国旗がずらりと並んでいる。だから、ステファンを中心にした、アート・オン・アイスのようなものが日本でやれて、そこで2人で演技できたら、ファンの方に喜んでもらえるのではないかと思う。実際、私の冷たくクールな感じの演技と反対にステファンのパッションある演技が組み合わさったら、面白いものができるのではないかと思いますね。

でも、ダンスはステファンの方がうまいので、私のほうがいっぱい勉強しなくては。ステファン、先生になってね。

ランビエール : 

オーケー。じゃ一緒に練習して共演プログラムを実現させよう。

swissinfo : 最後にお互いの相手の魅力を語っていただけますか?

ランビエール : 

アート・オン・アイスに参加している少女のスケーターが「アイ・ラブ・シズカ」と言っていた。子どもが言うことは真実だよ。僕もまったく同じで、君はすべての動きが、クリアーでピュアー ( 無駄がなく純粋 ) だと思う ( 荒川さん笑う )。本当だよ。 ジョークを言っているんじゃないよ。

僕からもチョコレートをプレゼントするよ。ローザヌにはおいしいチョコレート屋があるし、君がそのピュアーなスケートを続けていけるようにね。それと、トリノオリンピックで優勝したときは、僕も本当に誇りに思った。金メダルを受け取るべき人が受け取ったとうれしかった。

荒川 :

ありがとう。ステファン。

ステファンの最大の魅力は、すごいパッションを感じることです。彼は、観客だけでなくほかのスケーターなど、すべての人を引き込むパッションとすごい力を持っているスケーターです。

競技者であった時もエンターテイナーで、競技から引退すると聞いたとき、スター的な競技者がいなくなってしまったと思いました。あれだけ、競技なのに競技を感じさせず引き込む選手はなかなかいない。それが、今ショーの世界に入ってどんどん磨かれて、エンターテイナーとしてパッションが増しているなと感じました。

ランビエール : 

チョコレートは絶対にプレゼントだね。

荒川 :

最後に、彼はそうした王者の風格があるにもかかわらず、リンクを1歩出ると、サービスがよくてファンを大切にする。そういう色々な側面をみせてくれる人間としてのステファンが、みな好きなのだと思います。

ローザンヌにて 司会 swissinfo、里信邦子 ( さとのぶ くにこ ) 

1985年4月2日、スイスのヴァレー州、マルティニに生まれる
1992年、7歳でフィギュアスケートを始める
2005年3月、モスクワでの世界フィギュアスケート選手権大会で1位、19歳
2006年2月、トリノ冬季オリンピックで銀メダル
2006年3月、カルガリーでの世界フィギュアスケート選手権大会で1位
2007年3月、東京での世界フィギュアスケート選手権大会で3位
2008年1月、ザグレブでのヨーロッパ選手権で2位
2008年10月、左内転筋の負傷のため、競技生活に終止符を打つと宣言

2009年1月28日に始まったスイスのスケートショー「アート・オン・アイス ( Art on Ice ) 」は、プロ宣言後初めてのスイスでのショーとなった。技術面もさることながら、アーティスティックな表現は高い評価を得ており、「リンク上のプリンス」と呼ばれている。
( 出典ステファン・ランビエール公式サイトなどから )

1981年12月29日、東京に生まれる
1986年、5歳でスケートを始める。その後小学3年で3回転ジャンプをマスターし、天才少女と呼ばれた
1994~96年、全日本ジュニアフィギュア選手権で3連覇
1997年、ジュニアからシニアへと移行し、日本選手権で初優勝
2003年、ユニバーシアード、冬季アジア大会にて優勝
2004年3月、ドルトムントで行われた世界選手権で3回転-3回転のコンビネーションジャンプを決めワールドチャンピオンを獲得
2006年2月、トリノ冬季オリンピックで、ショートプログラム及びフリースケーティングでも自己ベストを更新し金メダルを獲得
2006年5月にプロ宣言をし、国内及び海外のアイスショーを中心に、テレビ・イベント出演。現在はイタリア、トリノがあるピエモンテ州の観光大臣も務め、さまざまな分野にも精力的に挑戦している。「アート・オン・アイス 」には、ステファン・ランビエールと共に数多く出演している。プリンスホテル所属。 ( 出典 荒川静香公式サイトなどより )

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