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ヌーシャテルの和心エステ

サロンでは聡子さんの施術だけでなく、美しい笑顔や日本的気遣いにも癒される swissinfo.ch

2012年秋、ビュリ聡子(Satoko Burri)さんから、ヌーシャテルにエステティックサロンを開いたというお知らせメールが送られてきた。かねてより、スイスで日本人によるマッサージやフェイシャルなどの施術を受けてみたいと思っていた私は、その朗報に狂喜。なかなか訪れる機会がなかったが、今年になってようやく、聡子さんのサロン「Pau(è)mes d’Asie」(ポ(エ)ム・ダジィ)訪問が実現した。

 サロン名の「ポ(エ)ム・ダジィ」は、2つの意味を持つ。一つは、「Paumes d’Asie」(ポム・ダジィ)、つまりアジアの手のひら。お客様をケアし、癒やすために手のひらは必要不可欠なもの。一方、カッコ内のèを加えると造語で「Pauèmes d’Asie」(ポエム・ダジィ)。綴りは違うが、「詩」という単語、「Poème」(ポエム)に引っ掛けてある。

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 「アジアの詩」が意味するものは、今や日本国外にも愛好家が増えつつあり、アジアの定型詩で代表格となりつつある「俳句」である。5・7・5という短いモーラ(拍)から成り立つ小さな詩は、人との出会いの素晴らしさや四季の美しさを盛り込み、読む者を共感させながら奥深く広がる世界にいざなってくれる。聡子さんは、俳句のようにお客様との出会いを大切にし、貴重な癒しの時間を共有したいと願い、このように含みをもたせた名前をサロンに付けた。

 日本では、ブライダルアドバイザーや空港でのグランドホステスとして働いていた聡子さん。生き生きと充実した毎日だった。その後、一切の仕事を辞め、カナダ留学で知り合ったスイス人ジェロームさんと結婚するためにスイスに渡った。二人の子供に恵まれた彼女は、育児と家事に追われながらも、40歳までに何か新しい分野の仕事にチャレンジしたいと思い始めた。会社勤めをするより、まだ小さな子供達の傍にいたい。自宅で就労できて、尚且つ自分に向いている仕事は何だろうか……。元々接客業が好きで美容に興味があった彼女は、エステティシャンになろうと決意した。

 聡子さんは、国際エステティック連盟INFA(International Federation of Aestheticians)のエステティシャン・コスメティシャンの免許試験合格を目指し、ラ・ショー・ド・フォンにあるAdage-Ylangという国際美容学校の夜間コースで1年間、懸命に学んだ。帰宅しても長時間勉強しなければならなかったが、子供達の声が聞こえると集中力が落ちるため、完全密閉型のヘッドフォンを音楽無しで被って机に向かっていたと、笑って話してくれた。また、同じ姿勢で座り続けていたため足がむくんでしまったこともあったという。

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 昼間のコースは毎日または週に数日授業があり、サロンで実習を受けることができたが、夜間コースの授業は週にたった一度。理論の自習はもちろん、実技に於いても自宅でひたすら練習を積み重ねる必要があった。幸い、実技に関しては夫や友人達が、快く協力してくれたため、彼らに施術をすることによって技術を磨いていった。

 国際免許試験は、昼間・夜間コースとも、同条件で行われる。実技・筆記・口頭の三種類が有り、聡子さんの通った夜間コースでは、5人中、聡子さんを含む2人が見事合格した。また、彼女は帰国の度に様々なコースに通い、霊気や心理カウンセラーの資格も取得した。こうして、2012年にエステサロンを自宅に開設。客は友人知人を中心に、口コミで増えつつあるという。

 ポラントリュイから電車に乗ること1時間半。春の兆しが漂う穏やかな晴天の下、ヌーシャテルの御宅にある「ポ(エ)ム・ダジィ」にお邪魔すると、聡子さんが美しい笑顔で迎えてくれた。まず、肌の様子などを聞く簡単なカウンセリングがあり、その後、自宅の一室を改装したサロン内へ。白を基調としたシンプルな部屋で、我が家にいるような気持ちになり、心落ち着いた。彼女はただ決められた手順で施術を行うだけでなく、いかに客が居心地良くサービスを受けられるか、空間の在り方にも気を使っていると話していた。

 施術メニューは豊富で迷ってしまうが、今回は欲張ってフェイシャルケアとボディマッサージの両方をお願いした。

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 フェイシャルのコースでは、クレンジング後に蒸気を顔に当て、十分毛穴を広げてからパックをする。彼女の繊細で丁寧な指使いにあまりにも癒やされてしまったのか、つい、うたた寝をしてしまった。ボディマッサージ中に寝たことは何度もあるが、顔面をマッサージしてもらっている最中だったので、自分でも驚いた。

 しばしの休憩を挟んで、今度はボディマッサージ。まず仰向けになり、お腹からマッサージが始まった。お腹のマッサージは初めてだったが、内臓がスッキリと軽くなっていくような気がした。それから背中や腕、足の爪先に至るまで念入りにマッサージ。至高の幸福をなるべく長く味わっていたいと思っていたが、やはりこちらも途中から心地よいまどろみの中へと誘われたのは言わずもがな。目が覚めると既に施術は終わりに近づいていた。

 聡子さんは言う。

 「エステで体だけでなく心も癒したいと考えるのは、大切な事です。なんとなく体が疲れている時に顔や体のマッサージをしてもらって、体じゃなくて、心が疲れていたのかと気づく事があるかと思います。それは機械では感じられない人と人の触れ合いで、人の手の温もりがあってこそ感じられる気持ちですよね。私はこれまで皮膚や筋肉について勉強してきましたが、そのような理論的なアプローチだけでなく、心や心から繋がる体やお肌の不調など、様々な角度からお客様を見ているつもりです。そして、その方がどうしたい、どうなりたい、何が必要か、という表面的な事だけでなく、口に出して言わない、言えない心の深い場所を探り、理解しつつ癒していきたいし、そういった信頼関係をお客様一人一人と持てるエステティシャンになりたいと思っています」

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 国際ディプロマを取得し、サロンが軌道に乗っていても、聡子さんは謙虚で勉強熱心だ。中国医学の本を読んで良い要素を取り入れたり、次回の帰国でも、さらなる知識や技術を身につけるため、学校に通うそうだ。

 「ポ(エ)ム・ダジィ」では、古今がバランス良く共存している祖国日本のように、スタンダードなマッサージと並行して、新しい形のエステ、例えばまつ毛エクステンションなど、スイスではまだ新しい分野の施術をどんどん取り入れている。今後は、日本での勉強の成果を活かし、小顔矯正や霊気を取り入れたマッサージもメニューに加えたいと抱負を語ってくれた。

 心理カウンセラーの資格を取得したのは、自分本位ではなくお客様中心のケアを心がけたいからだという。日本人の真心がこもり、日本流のおもてなしが最も際立つ職業、接客業を天職とした聡子さんの施術が、これからも数多くのスイス在住者の心身を癒してくれることだろう。

 取材に快くご協力下さった聡子さん、そして聡子さんのご主人ジェロームさんに厚く御礼申し上げます。

マルキ明子

大阪生まれ。イギリス語学留学を経て1993年よりスイス・ジュラ州ポラントリュイ市に在住。スイス人の夫と二人の娘の、四人家族。ポラントリュイガイド協会所属。2003年以降、「ラ・ヴィ・アン・ローズ」など、ジュラを舞台にした小説三作を発表し、執筆活動を始める。趣味は読書、音楽鑑賞。

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ビュリ聡子(Satoko Burri)

PauemesdAsie@net2000.ch

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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