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冬に備えて ~ アルプス山岳地帯の冬の暮らし

ヴォー州レザン(Leysin、Vaud)にあるヴェルモン駅付近から眺める秋景色 swissinfo.ch

秋深まるヴォー州レザン(Leysin、標高1263m)。私が住むレザンから眺める秋の景色は、広葉樹林の広がる標高1300m辺りまでは黄色や褐色に紅葉しますが、そこから森林限界の1900mまでは針葉樹林で、カラマツが黄色に色づく以外は緑色のままです。もみじの紅葉が鮮やかな箕面市で育った者にとって、この景色は美しいとは言え、少々ものたりなさを感じます。アルプス山岳地帯の短い秋は、居住者にとって長い冬に備える季節です。今日はその様子や、積雪地帯で暮らすようになってから冬に心がけていることなどを紹介します。

 落葉の時期、レザンの住人はにわかに忙しくなります。主要道路は、週1~2回、コミューン(役所)の落ち葉清掃車が清掃しますが、住まいの周辺は、家主や建物の管理人の仕事です。落ち葉を家の道端に集めておくと、清掃車が来て片付けてくれるアメリカとは異なり、レザンでは各自で町はずれにあるごみ処理場へ持っていかなければなりません。秋になると降雪期を迎える前に、雪害から樹木を守るために庭木を剪定し、灌木も冬囲いします。この他、夏の間美しく咲いたゼラニウムを冬越しさせたい場合、冬が来る前に物置に入れて保管しておくと、ゼラニウムは春の訪れとともに復活します。

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 毎秋、コミューンが行う大切な仕事の一つに道幅を示す「杭」を打ち込む作業があります。除雪作業が頻繁に行われると道幅がわかりにくくなります。こんな時、6~8mの間隔で立てられたこの杭が道幅を示す大切な役割をします。今年は10月の第4週から作業が始まりました。この杭が立つと、雪の季節はもうそこまで来ています。

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 また、コミューンでは融氷雪用の塩の準備をします。レザンの麓エーグル(Aigle)から車で東に15分ほど行くとベー(Bex)という町があります。この町には15世紀に塩を含んだ水源が発見されたのをきっかけに発展した岩塩坑(Saline de Bex)があります。ベー岩塩坑の1年間の塩の生産量は3万トン。6~7千トンが水の浄化や硬水の軟化に、3トンが食用に、2.5トンが動物の飼料に使われますが、驚くべきことに、岩塩坑が生産するほとんどの塩は道路の融氷雪用に用いられるのです。少し話はそれますが、冬の間、車道や歩道に散布された塩により迷惑をこうむるのが犬たちです。塩の撒かれた道を歩くことにより、足の裏の“肉球“の間に塩が入り込み痛みを引き起こすのです。

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 さて、山岳地帯で暮らすようになってから、毎年、雪の季節に大変気をつけていることがあります。冬場へ向かう自分への「おさらい」の意味も含め6点ほど紹介します。

1.外出する際の鍵の持ち方です。洋服やバッグのポケットに確実に鍵を入れたことをしつこいほど確認します。ポケットはファスナー付が一番理想的です。この理由は積もった雪、特に新雪の上に鍵を落とすと音もしないで「あっ」という間に埋まってしまい見失うことがあるからです。一瞬の出来事です。

2.食品は普段より多めにストックします。大量に雪が降る時や雪あらしの時に停電する可能性があります。最近では、ガスコンロより電気コンロを利用している家庭が多く、停電してしまうと調理ができません。一番良いのは、フォンデュ用のチーズを冷凍しておくことです。この際、フォンデュ用の固形燃料も忘れず常備しておきます。

3.冬場は車のガソリンをいつも満タンにしておきます。毛布などもトランクに入れて非常の場合に備えます。雪が降り始めた時点で、路上駐車の場合にはウィンドー・ワイパーを立て、ワイパーがウィンドーに凍りつくのを防ぎます。

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4.外気温が低く、凍える日の外出には必ず手袋を着用します。素手で金属製の手すりなどには触れません。一度、手すりに手がくっ付いてしまいそうになり慌てたことがありました。

5.大量の降雪があった場合には、普段から知っている道のみを歩きます。実際に体験した人から聞いた話ですが、雪が深く積もっていて側溝があるのに気づかず落ちてしまい、這い上がるのに苦労したそうです。また、小さなお子さんは、除雪した雪を積み上げてできた雪山で遊ばせないことです。レザンは、冬の間、児童公園も堆雪場として使用するため注意する必要があります。特に春が近づき雪解けが始まると、この雪山の中が空洞になっていることがあり落ち込んでしまう可能性があります。

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6.ブラックアイスと呼ばれる凍結があります。一見、道路が濡れているだけのように見えるのですが、実は凍結していると言う、車の運転には非常に危険な状態で注意を怠ると事故に繋がります。雪の期間、車はタイヤ(及びチェーン)、人は靴、が事故から身を守る大切なポイントです。靴に関しては、最近ではクランポン(アイゼン)が内蔵された靴が販売されていて、以前のようにクランポンをわざわざ取り付ける必要がなくなり便利になりました。

 レザンでは2013年10月12日にすでに積雪がありました。そして、10月27日に夏時間が終わり冬時間(日本との時差は8時間)となり、日が暮れるのが一段と早くなっています。11月に入り、レザンにある自動車整備工場は、タイヤ交換をする顧客の対応に大忙しです。人々は冬へ向かう準備を確実に進めています。

 スイス人の友人は「赤い実」がたくさん実る年は、非常に厳しい冬になると言います。そう言えば、今年、レザンの森では、赤い実がいつもより目立ちます。彼の話では、2013年の冬は降雪量が多いというより、気温が低く厳しい冬になるだろうとのことです。この予想、大変気になります。今年も気を引き締めて冬を過ごします。

小西なづな

1996年よりイギリス人、アイリス・ブレザー(Iris Blaser)師のもとで絵付けを学ぶ。個展を目標に作品創りに励んでいる。レザンで偶然販売した肉まん・野菜まんが好評で、機会ある毎にマルシェに出店。収益の多くはネパールやインド、カシミア地方の恵まれない環境にある子供たちのために寄付している。家族は夫、1女1男。スイス滞在16年。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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