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女性の人身売買の実態

コリナ・ミルボーン氏 ( 左 ) とマリー・クロイツァー 氏がナイジェリア出身の女性を囲む Ecowin

女性の人身売買は高い利益を生む商売だ。多くの国際条約などで禁止されているにもかかわらず、ヨーロッパ諸国での女性被害者はあとを絶たない。

オーストリア人のコリナ・ミルボーンとマリー・クロイツァー両氏はその著作『女性という商品 (Ware Frau ) 』で、女性の人身売買の実態を暴いた。

 EURO2008が始まるのは6月だが「今からその準備は始まっている。女性たちがすでに開催地に集中して運び込まれている」とミルボーン氏は指摘する。同様にスイスの複数の女性団体もキャンペーン「女性の人身売買に反対するEURO08」を起こし、インターネットのプラットホームやホットラインなどを通して活動を始めた。

国が仲介者

 『女性という商品』の著者2人は、ナイジェリアを中心としたアフリカから、ヨーロッパ向けの人身売買とヨーロッパにおける強制売春について、被害者、売人、客などと接触しその実態を調査した上で、各国の法体系や警察を批判した。

 「国が仲介業者」と扇動的な表現でミルボーン氏は言う。
「アフリカからヨーロッパへの合法的入国を拒否する限り、女性の人身売買は助長される。しかも、ビザを非合法に売買する取引にこれらの国の役人が関わっている」

 政府も人身売買を取り締まってはいるとミルボーン氏は認めるものの、大規模な犯罪組織の取り締まりに留まり、被害者への配慮は不十分。女性たちは加害者が怖く、証言や起訴を拒むと指摘する。

 女性の人身売買は高い利益を生む商売だ。人身売買と売春は、麻薬売買と武器売買を合わせた以上の売り上げがあるとさえいわれる。欧州連合 ( EU ) によると、年間12万人の女性がヨーロッパに連れてこられ、売春を強制されるという。そのうちスイスに来るのは3000人ともいわれる。

元売春婦が仲介人に

 著者がアフリカで調査したところによると、女性たちの多くが地方出身者で、父系制度が支配するため、女性が職業に就くことが難しい環境にあることが分かった。
「自分で決めるのではなく、家族によって身売りされる」
とミルボーン氏は指摘する。

 調査当初、アフリカの仲介人のネットワークが女性の手に握られていることが不思議だったという。
「しかし、それには内部的な理由があったのです。何度も繰り返されるトラウマにさいなまれた女性たちには、親に暴力を振るわれた子どもがその子どもを叩くというメカニズムが働いているのです」

 アフリカ人の売春婦がヨーロッパでその借金を返済した後、その世界から「足を洗おう」としても、合法的な職業には就けない。
「結局、自分を虐待した売春の世界に戻り、今度は虐待する側になる」

被害者救済策

 人身売買ルートはナイジェリアや他のアフリカ諸国からイタリアへ一直線でつながっている。1980年代からイタリアのトリノが「積荷地点」となり、他のヨーロッパ諸国へ流れていく。イタリアに隣接するスイスは特に重要な地点となっている。

 非合法に流入する外国人の取り締まり政策によりスイスは、強制売春の被害者を非合法入国者とみなし国外追放しているのは問題だと「女性情報センター ( FIZ ) 」は指摘する。また、女性団体の「女性の土地 ( Terre des Femmes ) 」も、人身売買と強制売春の被害者が全員スイスに留まれるような配慮を政府に求めている。現在のところ、裁判の証言をすることを受け入れた被害者だけに滞在が認められているが、加害者による制裁を怖がって証言する女性は少ない。
 
swissinfo、スザンネ・シャンダ 佐藤夕美 ( さとう ゆうみ ) 訳

『女性という商品』( Ware Frau. Auf den Spuren moderner Sklaverei von Afrika nach Europa, Ecowin Verlag 2008 )

著者
コリナ・ミルボーン 政治学者兼ジャーナリスト グローバル化と人権、移民問題の専門家。
マリー・クロイツァー 政治学者兼ジャーナリスト 女性の人権、開発政策などの専門家。

「女性の人身売買に反対するEURO08」キャンペーンは、25の人権擁護団体、女性団体などが行っている。人身売買と強制売春についての啓蒙と女性の被害者の保護や買春客に対する情報活動が主な項目。10月まで継続の予定。

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