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不動産×ブロックチェーン スイスのプロップテックは規制当局を説得できるか

ビットコインのイメージ写真
仮想通貨やブロックチェーン技術は不動産投資の起爆剤になるのか? 123RF

超低金利で不動産バブルに沸くスイス。その恩恵により多くの人が預かれるよう、スイスのブロックチェーン企業が不動産と技術を融合させる「プロップテック」の先進的なビジネスを打ち出す。だが規制当局はブロックチェーン技術を奨励する一方で、未知の技術に厳しく監視の目を光らせる。

 各国の低金利政策は不動産投資への魅力を高めている。ことさらスイスでは、居住や賃貸用に家を購入する人は少なく、むしろ資産を分散化する一手段として不動産が活用される。世界で2兆8千億フラン(約311兆6千億円)、スイス国内で322億フランの不動産市場のうち、大半を機関投資家が占拠する。

 スイスの仮想通貨企業、スイスリアルコイン外部リンク社は非定住者にも不動産投資への道を開こうとしている。その宣伝文句はブロックチェーン業界では既におなじみだが、その斬新な技術が機能するかどうかは今のところ未知数だ。

 リアルコイン社は、不動産投資をより身近なものにすると同時に、仮想通貨の相場変動の大きさを和らげる一石二鳥を狙う。

 その仕組みはこうだ。まずリアルコイン社がスイスの商業用不動産に投資するファンドを設立する。投資家は同社の発行するトークン「スイスリアルコイン」を購入すると、ファンドに投資する権利を取得。どの資産を購入・売却すべきかの決定権を持ち、ファンドの運用実績をリアルタイムで把握できるようになる。

規制当局の疑惑の目

 だが透明化を進め、仲介者を除くことでコストを抑える構想は難航。規制当局や既存産業から向けられる懐疑的な視線を振り払えずにいる。

 連邦金融市場監査局(FINMA)は今のところ合法性を確認する「ノーアクションレター」を同社に出しておらず、監督の対象外としている。このため同社はファンドや上場取引所の設立を検討せざるを得ない。

 「革新的で安全に資する仮想通貨の構築方法に関し、FINMAが迷走していることには驚きと落胆を覚える」。スイスリアルコイン社の最高経営責任者(CEO)、ブリギット・ルーゲンビュール氏は「安全に死する仮想通貨に対するスイスの不透明な監督枠組み」と題するブログ外部リンクの中で、こう非難した。「我々は第一人者。残念ながら、我々が創造する新しい資産階級に見合う規制枠組みがまだ存在しない」

 FINMAはスイスリアルコイン社の動きに対するコメントを拒否した。多くの仮想通貨関連企業は、FINMAの監督方針が曖昧すぎると不平をこぼす。FINMAは2月に仮想通貨を使った資金調達「イニシャル・コイン・オファリング(ICO)」に関する指針を発表。だがスイスリアルコインは、指針の策定は必ずしもFINMAがその規制スタイルを新しいビジネスモデルに合わせようとしていることを意味しない、とみる。未登録業者の闇商売を許さない構えだ。

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 他のブロックチェーン企業は商品を証券として届け出ることを選択した。トークンエステート外部リンクはその一つ。不動産取引に特化した取引所を立ち上げようとしている(下記のインフォボックス参照)。

 スイスリアルコインのICOには待ったがかかっているが、同社はファンドの立ち上げやスイスでのビジネスを諦めていない。複数の形態で始めることも考えている。

 ルーゲンビュール氏は、スイスの不動産価格に連動させれば、他のどの仮想通貨よりも相場を安定させることができると信じる。ビットコインなど他の仮想通貨はあまりに変動が大きく、投資家を悩ませている。

 スイスリアルコインの弱点は、取引所での人気が高まり、コイン価値がスイス不動産のそれを上回ってしまう可能性があることだ。そうならないよう、コイン価値が上昇した場合は自動的にコインが発行される。コイン価格の上昇を抑える傍ら、コインで不動産を買えることから不動産価格の上昇を促し、コイン価格と不動産価格のバランスを取ることができる。

 ルーゲンビュール氏は「現実の世界では、スイスの政治的な安定性や強固な経済を背景にスイスフランは安定した通貨となっている」と話す。「スイスリアルコインはそれと同じような安定性を実現する」

未解決の疑問

 プロップテック(資産と技術の融合)は業界に革命をもたらし、より良い方向に導こうとしている。スイスの不動産投資の専門家、セドリック・ヴァンクレール氏は、ブロックチェーン技術が大きな利益をもたらすと確信する。一方で解決されていない疑問が残っているとも指摘する。

 第一に、法的文書を作成する費用を抑えるほかに、不動産の購入・開発・管理にどれだけにコスト抑制効果があるか未知数だ。ヴァンクレール氏はブロックチェーンやスマートコントラクトについては素人だが、これら新しい技術が不動産価格に紐付けられた仮想通貨の安全性を高め、ひいては投資家のためになる仕組みには大きな関心を寄せる。特に仮想通貨が持ち主を点々とするなかで、第三者が取引を保証する必要がないのは画期的だ。

 仮想通貨が簡単に売り買いできる限り、潜在的には変動が大きくなる。ヴァンクレール氏は、仮想通貨の発行業者がそれにどう対応するのかも疑問視する。もし大量の投資家が一斉に通貨を売り浴びせたらどうなるのか?

 「ブロックチェーンは不動産セクターにおいても利益を上げるための技術的な進歩になる。それは十分に解っているが、他の新しい技術と同じように、不動産市場で実際に運用すれば必ず地雷が爆発する」(ヴァンクレール氏)

スイスのプロップテック企業

スイスリアルコインの他にも、スイスには不動産業界でブロックチェーンを活用する「プロップテック(Proptech)」が多くある。

トークンエステートは、ブロックチェーンが不動産投資分野で支配的な役割を果たすようになると賭けている。不動産への投資を簡単に取引できるようにする仮想通貨の取引所を目指す。

同社の創立者兼CEOのヴィンセント・トルーシェ氏はスイスインフォの取材に、「ほとんどの投資では、多くの人々には手が届かないような最小投資額など、参入障壁があります」と話す。ブローカーや銀行銀行、取引所など多くの主体が取引に関わることで、取引費用は5%ほど膨らむ。ブロックチェーン技術を使えば、より効率的に取引できるという。

ブロックチェーンは、単に物件を売買したい人や家主にとっても魅力的な機能を備える。ツーク州のEleaLabs外部リンクは、不動産価格や賃貸利率のデータを集め、利用者が比較できるようなプラットフォームを構築する。

Eleaによると、通常の価格比較サイトとの違いは、利用者が互いにやりとりできる範囲だ。Eleaでは不動産の状態や、これまでの賃料支払いや物件の使用状況などから借主への信頼度をブロックチェーン技術を使って明示し、これらの情報に基づいて賃貸料を交渉できるようになる。

また利用者は自身のデータを独自に管理でき、サイト管理者など第三者に個人情報を託す必要がない。

不動産データのプラットフォームを運営するeLocations外部リンクは、独自の仮想通貨の発行に向け準備中だ。創業者兼CEOのマーク・リーベ氏は、ツークで開かれたブロックチェーンサミットで「我々はこのプラットフォームを育て、ブロックチェーン技術を活用するために適切に投資している。不動産市場で多くの投資家を苛立たせる取引の遅延や間違いを減らすことにつながる」と語った。

eLocationsは、世界的でリースされる商業用不動産のデータベースを構築。紙ベースのリース契約をブロックチェーンを使ったスマートコントラクトに置き換え、管理業務の迅速化を目指している。

(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)

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