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東日本大震災を経て、日本とスイスの絆はより強く

震災での日本人の落ち着いた態度が海外では評判だった。それを日本の大使として誇りに思うと小松大使 swissinfo.ch

東日本大震災から2カ月が経過する。スイスは、地震発生後、救助隊をすぐに送った国の一つ。その後、募金活動も大きな広がりを見せた。スイスの反応、今後の2国間の協力、エネルギー政策などについて、小松一郎在スイス日本国大使に話を聞いた。

特にスイスと日本の2国間関係では、「東日本大震災は不幸なできごとだが、その中でスイスと日本の絆はさらに強まった」と語る。

swissinfo.ch : 福島原発事故に対するスイス側の反応をどう思われますか。

小松大使 : スイスは、ヨーロッパの一部隣国などに比べるとバランスの取れた、現実的な反応を行ってきていると思います。

ただ、そのスイスにしても、一時的に日本向けの郵便物の取り扱いを停止したり、航空会社「スイスインターナショナルエアラインズ ( Swiss International Air Lines/SWISS ) 」が東京行直行便を暫時香港経由便に変更したり、また東京から大阪にスイス大使館が暫定的に移ったりということがありました。これらの措置が、予防的な意味で行ということは理解できますが、本当に必要なものであったのか、疑問に思います。

しかし、現在これらの措置はすべて正常に戻りました。

swissinfo.ch : スイスは東日本大震災発生後直ちに救助隊を派遣するなどの援助を行いました。現在、福島第一原発問題が完全に収束していないといった状況の中で、スイスが今できる日本への支援とは何でしょうか。大使は何を期待されますか。

小松大使 : 救助隊を始め、励ましのメッセージ、非常に寛大な額の義援金、心温まるチャリティーコンサートなどの募金活動、これは本格的なものから草の根的なものまで実に多くの活動ですが、そうした支援をスイス全国からいただきました。このことに深く感謝しております。

また、東日本大震災は不幸なできごとですが、その中でスイスと日本の2カ国はさらに絆を強くしたと感じています。

そして今後の日本の復興をスイスが助けて下さるとすれば、松本剛明外務大臣がインターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙への寄稿文で述べたように、「新たな復興に向けて歩み始めた日本を支援したいとお考えいただけるのであれば、どうぞこれまでどおり日本においで下さい」ということ、それから「沢山ある日本の優れた製品をどうぞ買って下さい」ということをスイスに対してもお願いしたいと思います。

日本の製品に関する放射能の影響を心配する声も聞きますが、それは国際機関の基準に則って安全性が明確にされています。

また、この放射能に関してですが、現在の放射線量を東京とベルンで比べると実はベルンの方が多少高いのです。ですので、無用な懸念をもたれることなく日本にお越しいただき、日本とのビジネスも活発にやっていただきたい。これが一番日本を助けて下さることになると思います。

swissinfo.ch : 福島第一原発事故後のスイスの原発に関する議論をどのように思われますか。また、日本の今後のエネルギー政策はどのようなものでしょうか。

小松大使 : 今回の事故を受けてスイスで原発に関する議論が巻き起こったのは、当然だと思います。スイスや日本のような民主主義国家においては、エネルギー政策のあり方を含め、最終的決定は国民が行うものだからです。

エネルギー政策については、地球温暖化といった地球規模の課題に対処するためCO 2の排出すなわち化石燃料の使用を如何に抑えるかが、世界的な課題となっています。それゆえ「エネルギー・ミックス」を選択せざるを得ない。化石燃料によるエネルギーを代替するための候補の一つとして、菅直人首相も再生可能エネルギーの開発と研究にもっと力を入れる必要があると述べています。

ただ、短期間に国内需要の相当部分について、再生可能エネルギーでまかなえるよう移行することは現実的ではありません。スイスは日本よりも多くの割合で再生可能エネルギーを利用していますが、それでも全需要の2% 程度に過ぎません。そのため、菅直人首相が国会で述べているように、「最適化されたエネルギー・ミックス政策を続け、 ( 原発の ) 安全基準を高めていくしかない」ということです。

swissinfo.ch : スイスと日本は、ロボット工学など科学技術面で非常に優れたレベルにあります。現在または将来、復興で何か技術協力を行えるのではないかと思いますが、そうした動きはありますか。

小松大使 : 1年半前に日本とスイスの経済連携協定が発効しましたが、その前に科学技術協力協定も発効しています。こうした中、色々な分野の科学技術協力が実際に行われており、今後再生可能エネルギーなどの分野でも協力が進むとよいと思います。

京都で毎年開催される「STSフォーラム( 科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム) 」は「ダボス会議の科学技術版」といわれています。例えば、このフォーラムにスイスから既に2回参加されたマウロ・デランブロージョ教育研究庁長官は、そうした機会に日本の関係者と協力推進のための話し合いを持たれています

swissinfo.ch : さて最後に、スイス在住の日本の方々は、今回深く落ち込んだりまたは元気を出して募金活動をやったり、いずれにせよ皆さん大きな打撃を受けられました。大使から一言メッセージをいただけますか。

小松大使 : 東日本大震災は地震のエネルギーでいうと阪神淡路大震災の1000倍、津波の高さも16メートル以上、さらに原発事故が重なるという未曾有な災害です。こうした中で日本人が落ち着いて取り乱すことなく対処し、さらに他者への思いやりにあふれていたということが、世界中のマスコミで大きく取り上げられ、賞賛の的になりました。

スイスでも同じで、これは日本の大使として非常に誇らしく思っており、機会あるごとにそのことを申し上げております。

スイスにはこうした同じ資質を持った日本の方が、スイスでの仕事のため、またスイス人と結婚されるなどして沢山住んでおられます。実は在スイス日本国大使の任務について以来、スイス人から聞く日本のイメージは非常に良い。それはひとえにスイス在住の日本の方々の行動が賞賛に値するものだからだと思います。

スイス在住の邦人の方々の中にも、ご家族ご親戚が被災され、つらい目に遭われた方も多いと思いますが、どうか今後も日本人の真価というものを発揮し続けていっていただきたい。また、何かお困りのことがあれば、大使館に領事部もありますので、ぜひご遠慮なく相談していただければと思います。

1951年、兵庫県生まれ

1972年、外務省入省

1986年、ジュネーブ国際機関日本政府代表部勤務

2002年、在アメリカ合衆国大使館特命全権公使

2003年、欧州局長

2005年、国際法局長

2008年より、在スイス日本国特命全権大使 (  リヒテンシュタイン公国兼任  ) を務める。

ベルンにて

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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