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世界的に民主主義離れの傾向 崩れ落ちる平和の礎

Swissinfo 編集部

9月15日の国際民主主義デーに際し、スイスの政治学者クロード・ロンシャン氏は「現在、世界中でオートクラシー化(独裁化)が広がっている」と警鐘を鳴らす。支配者が権力を独占し、思いのままに行使するこの支配形態は、必ずしも独裁政治に直結するわけではないが、民主主義の崩壊が始まっていることには間違いない。

スイスインフォの直接民主制の特集「#DearDemocracy(直接民主制へ向かう)」の記事です。この特集では外部の識者が様々な見解を述べますが、スイスインフォの見解とは必ずしも一致しません。

 「民主化」は政府が民主主義の政治体制を形成していく過程を指す概念で、一般的にもよく知られている。民主化は、平和と繁栄への道だ。

 その一方で、民主化と相反する「オートクラシー化(独裁化)」という言葉は最近まであまり知られていなかった。しかし研究プロジェクト「バラエティー・オブ・デモクラシー」(V-DEM)がまとめた年次報告書「万人のための民主主義?」の中では、この概念が重要なキーワードになっている。民主制度を国際的に比較した過去最大規模の同プロジェクトでは、世界中の民主主義の専門家3200人に意見を聞いた。

 「オートクラシー化」が急に浮上してきた理由は、2017年に行われたこの調査で178カ国中、24カ国に民主制度の縮小傾向が見られたためだ。これは民主制度が拡大している国の数と同じだった。

停滞する民主化の波

 ソビエト連邦崩壊後、民主化の波が起こり、東欧の共産主義諸国は自由な市場経済と政治競争が保障される自由民主主義の道を歩み出した。

 しかし自由は得たものの、多くの国では経済が思うように発展しなかった。明るい未来への展望は、この先に立ちはだかる問題への悲観へとすり替わり、新たに「強いリーダーたち」に希望を求めるようになった。

 民主制度の拡大・縮小化があった国々を人口の比率で表すと、縮小化が進んだ国の割合の方が高い。この傾向は2016年以降2年連続で見られ、今回は特にその傾向が顕著だ。1970年からの民主主義の発展を表すグラフでも同様の動きが読み取れる。

グラフ
グラフ左: 民主制度が縮小傾向にある国の数(赤色) 民主制度が拡大傾向にある国の数:点線(灰色) グラフ右: 民主制度が縮小傾向にある国が世界人口に占める割合(赤色) 民主制度が拡大傾向にある国が世界人口に占める割合:点線(灰色) zvg

 オートクラシー化は弱小国だけに見られる傾向ではないとゲーテブルク大学の調査に参加した民主主義の専門家は言う。2017年には、世界各国の中でむしろ人口の多い国々でこの傾向が強かったという。ナレンドラ・モディ首相が率いるインド、ドナルド・トランプ大統領が率いる米国、ミシェル・テメル大統領が率いるブラジル、そしてウラジーミル・プーチン大統領が率いるロシアがその例だ。これはオートクラシー化がアジア、アメリカ、欧州で広がりつつあることを意味する。

独裁政治と隣り合わせ

 オートクラシー政権(独裁政権)の典型的な特徴は、自由の抑圧、メディアの監視と制限、そして反対派の弾圧だ。

 オートクラシー化とは、民主主義の原則に従った国を独裁傾向の政府幹部が統治するようになること意味する。

 V-DEMの年次報告書には、具体的な調査結果が記載されている。それによると、2017年、最も抑圧されたのは「公の場で個人の意見を述べる自由」だった。「集会の自由」は広範囲で制限され、アンケートに答えた専門家らが最も危惧しているのは、科学分野での規制が出始めていることだった。

名称:バラエティー・オブ・デモクラシー(V-Dem、民主主義の多様性)

規模:政治学に関する過去最大級の国際研究プロジェクト

目的:民主主義の形態を正確に統計化すること

協力者:研究者3千人。教授20人が指揮

測定の基準:400項目の指標(客観的指標200項目、主観的指標200項目。後者は5倍のウェートを掛けて換算)

測定の内容:世界200カ国における過去120年間の民主主義の質

刊行物:スウェーデンのゲーテブルク大学発行の年次報告書。1500万のデータポイントを包括したデータバンクもインターネットで公開。アクセスは自由で無料

発信先:政治、経済、市民社会、政治学、社会学、歴史学などの関係者

(出典:ダヴィット・アルトマン氏、V-DEMの共同プロジェクトマネージャー)

 またそれに並行して、オートクラシー主義者は法治主義を縮小する傾向にある。そうなると裁判所の独立性や国際法の考慮といった側面が危ぶまれることになる。この二つは民主主義制度の中でも特に重要、かつデリケートな構成要素だ。

選挙は改善するも民主主義には至らない

 選挙の発展に関して言えば、年次報告書の著者らはそこまで悲観的に見ていないようだ。国際的な研修制度や監視活動が実を結び、選挙は以前と比べはるかに公正に行われるようになった。問題は、メディアに自由が許されていない点だ。メディアは上から圧力を掛けられるか、意見の形成が人為的に操作されてしまう。

 選挙を正しく行うだけでは民主的な環境を保障できないことはよく指摘されている。そのためには憲法で守られた市民権と議会が政府を監視できる枠組みが欠かせない。

 だが正にこれがネックになっている。その結果、最悪の場合には民主的な権利を持つオートクラシー政権か、あるいは専制君主を持つ民主主義が台頭することになる。

自由民主主義から完全な独裁制へ

 同報告書では専門家が世界178カ国を均一に評価し、4段階に分類した。

完全な民主主義:選挙制度が整い、自由と平等が保障され、市民が積極的に政治に参加し、社会がうまく機能している状態。39カ国(世界人口の14%)はこの条件を完全に満たしていた。

選挙だけの民主主義:公正な選挙は行われているが、自由民主主義に特徴的な条件は一部しか満たしていない。56カ国(世界人口の38%)が該当。

選挙だけのオートクラシー: 選挙は行われているが、おおむね理不尽で不公平な社会を正当化するために利用されている。56カ国(世界人口の23%)がこの段階にある。

完全なオートクラシー: 選挙は行われるが、表面的な意味しか持たない。自由が保障されず、二大政党制のような民主主義的機構やメディアの独立性に欠ける。27カ国(世界人口の4分の1)がこの段階に分類された。

 民主主義かオートクラシーの二つに大きく分けると、昨年の時点で95カ国が民主的国家に分類された。つまり世界人口の約半数強が民主主義と関係する国家で暮らしていることになる。

欧州の現状は?

 幸いなことに、欧州には完全なオートクラシーは既に存在しない。しかしロシア、ベラルーシ、ウクライナ、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、セルビア、モンテネグロ、コソボは、まだ「選挙だけのオートクラシー」の段階だ。これは欧州とアジアの中間に位置するトルコに関しても同様だ。10年前まではトルコ、ウクライナ、セルビアは「選挙だけの民主主義」の段階だったことを考慮すると、オートクラシーがじわじわと広がっているのが分かる。

 現在、欧州で「選挙だけの民主主義」に分類される国家は、ブルガリア、ルーマニア、モルドバ、マケドニア、クロアチア、ユーゴスラビア、スロベニア、ポーランド、リトアニアだ。10年間の推移を比較すると、ユーゴスラビアの他にもスロバキア、ポーランド、リトアニアが格下げされてここに分類された。自由民主主義の特徴が著しく蝕まれた結果だ。

 民主化が成功した最も重要な例はアルバニアだ。2017年に初めて完全な民主主義国家に分類された。

 オートクラシー化は、セルビアとユーゴスラビアの例を見ても分かるように、忍び足で広がっていくことが多い。

模範的なスイスの民主制度 但し弱点も

 民主制度を国際的に比較したこの年次報告書の中で、スイスは非常に高い評価を得ている。それによるとスイスの民主制度はノルウェー、スウェーデン、エストニアに続き4位にランクインしている。

 V-DEMのプロジェクトによると、スイスの強みはとりわけ国民の政治参加だという。この項目に関してスイスは世界で1位だった。この項目には当然、市民の決定権が含まれる。また、地域レベルや社会的に政治参加できる点でもスイスは好成績を収めている。

 総体的に見て、スイスは直接民主制の項目で高得点を得たため、5位のウルグアイを抜いて4位に輝いた。しかし地元自治が人員不足のため完全に機能していない点がマイナス評価を受け「表彰台」を逃した。

 他にも、スイスの民主制度の弱点として平等権が指摘されている。この項目の世界比較でスイスは8番目で「しか」ない。外部者の権利が十分に保障されていないのがその主な理由だ。このカテゴリーで模範的な国はルクセンブルクとノルウェーだった。

 スイスの難点は、地元自治に対する評価だ。全体で21位と明らかにランクが低い。

 現代のスイスの特徴は、町や村が次第にベッドタウンと化している点だ。それに関しては地方自治に焦点を当てた大型特集で詳しく述べられている。民主制度を背負っていく意欲にあふれた後継者が少なくなっている。それがスイスにとって真の時限爆弾と言えるだろう。

(独語からの翻訳・シュミット一恵)

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