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女性が男性より左派政党を好むのはどうしてなのか

学生
若い女性は育児休業の拡充、脱原発、給料格差の是正などを支持する傾向がある。このため左寄りの政党に票が流れる Keystone

今年5月初め、男女別の投票行動に関する大規模な調査結果が各国メディアをにぎわせた。調査によると、女性は男性に比べ、より左派に票を投じる傾向が見られた。特にスウェーデン、ノルウェー、オランダで以前から見られる傾向だが、スイスでも2015年末の総選挙で似たような現象が起きた。

スイスインフォの直接民主制の特集「#DearDemocracy(直接民主制へ向かう)」の記事です。この特集では外部の識者が様々な見解を述べますが、スイスインフォの見解とは必ずしも一致しません。

 調査の結論はこうだ。現代の女性は社会・環境・ジェンダー問題について男性より進歩的な考え方をするため、(リベラルな)左派に好んで投票する。

 しかし、全ての国に当てはまるというわけではない。アイルランドやイタリア、ベルギーではこの傾向は全く見られないからだ。

 スイスではどうか。15年の国民議会(下院)選挙の投票動向調査「Selects」によれば、(左派の)社会民主党と緑の党の候補者に投票したのは男性より女性の方が多かった。つまり投票行動の「ジェンダーギャップ」がみられたのだ。

 中道の自由緑の党、中道右派のキリスト教民主党への投票数は、男女比が同じだった。右派の国民党はとリベラル右派の急進党は男性が好んで投票した(詳細は色つきの囲みを参照)。

スイス発の最新の研究結果

 政治学を研究するチューリヒ大学の学生たちがこのほど、最新の研究結果を公表した。15年のスイスの総選挙の投票行動を調べたもので、調査を行ったのはシリヤ・ホイザーマン教授(スイス政治学)とアシスタントのトーマス・クレールさんだ。

スイスの主要政党

国民党(SVP/ UDC、保守右派)

社会民主党(SP/ PS、左派)

急進民主党(FDP/ PLR、リベラル右派)

キリスト教民主党(CVP/ PDC、中道右派)

緑の党(GPS/ Les Verts、左派)

自由緑の党(GLP/ Vert’libéraux、中道派)

市民民主党(BDP/ PBD、中道派)

社会民主党青年部(JUSO/ JS、左派)

 研究チームの一人、ミア・エイヒミュラーさんは、スイスで男女の投票行動がなぜ異なるのか、原因を探った。

 彼女の綿密な調査の結果、以下のことが分かった。投票行動の差を生むのは、社会、環境、ジェンダー問題の三つに対する考え方だ。例えば育児休業の拡充、脱原発、賃金格差是正を求める人は、より左派に投票する傾向がある。これは女性も男性も一緒だ。

 ところが男女で比べたとき、上記の様な政治的意見を持つ女性の数は男性よりも多かった。この違いが投票行動に現れているという。

 投票行動に影響しそうな他の要素は重要ではないことが分かった。特に結婚しているかどうか、労働市場に参入しているかどうかなどといった要素だが、これは相違の原因とはならないという。

他の西欧諸国でみられる傾向

 その他の一般的な研究では、より深遠な分析がされている。それは「現代のジェンダーギャップ」で、今日の若い女性が昔の若い女性とは異なるということを意味する。

 特に若い女性が左派に投票する傾向が強まっているという。顕著なのはスウェーデン、アイスランドだが、最近オーストリアでもこの傾向が見られる。

 英マンチェスター大学のロザリンド・シャロックス氏ら社会科学者たちは、宗教への信仰心が薄まっていることが背景にあると指摘する。つまり欧州の新しい世代の中で、社会保守的な価値が後退しているということだ。

 対照的に共感を集めるのが(自由主義の中で社会福祉を重視する)社会自由主義だ。ジェンダーの観点から言えば、(富の)再分配に女性の支持が増える一方、男性は自己責任が重視されるべきだと主張する。

スイスの特徴

 一方、スイスにはこうした推察は当てはまらない。これは前述の三つの政策分野において、中道・キリスト教民主党と中道右派・急進民主党が取る政治的スタンスに関係する。

 急進民主党は、欧州諸国に散らばる姉妹政党に比べ経済界とのつながりが近い。一方、キリスト教民主党は、ジェンダー・環境・社会問題で大きく右寄りに路線変更した。

 キリスト教民主党の連邦内閣閣僚、ドリス・ロイトハルト環境・運輸・エネルギー・通信相がこの議論について発言した。ロイトハルト氏はドイツ語圏の日刊紙NZZ日曜版のインタビューで、2010~11年、7人の閣僚のうち初めて女性が過半数の4人を占めたことに触れ、これは政府の対応が勇気あるものだったと評価。スイスが脱原発に舵を切ったとき「内閣の過半数を女性が占めていたことは極めて重要な要素だった」と語った。

(独語からの翻訳・宇田薫)

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