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スイスで自殺ほう助がタブーではない理由

安楽死 スイスで規制されない理由

デビッド・グドール
オーストラリアの研究者デビッド・グドール氏(104)。2018年、スイスで自殺ほう助により自らの人生を終えた。不治の病は患っていなかったが、高齢を理由に安楽死を希望していた © Keystone / Georgios Kefalas

自殺ほう助が合法化されているスイスで、ヌーシャテル州が自殺ほう助とそれを行う団体を法律で規制するよう求める州のイニシアチブ(国民発議)を提起した。ただこれまでも同様の試みが失敗に終わっており、今回も実現の見込みは低い。

スイスの26州はそれぞれ、委員会が国の法案を起草するよう提案できる。

ヌーシャテル州は自殺ほう助の条件を法律で規制し、自殺ほう助団体の法的な位置づけも定めるよう求めている。

ヌーシャテル州は、自殺ほう助団体によって自殺を支援する人の輪が拡大している現状を懸念し、イニシアチブを立ち上げたと説明。さらに高齢の患者はこうした団体のサービスに依存していると訴える。

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不明瞭な法的位置づけ

イニシアチブは全州議会(上院)に提出されたが、目立った成果は上げられなかった。現在は国民議会(下院)で審議が行われている(2019年5月時点)。ジュネーブ大学のサミア・ハースト・マジノ教授(倫理学)は、もし州のイニシアチブが採用されたら驚きを持って受け止めるだろうと話す。

教授によると、自殺ほう助の規制をめぐる議論は今回が初めてではない。「これまでは毎回、現行法で十分だという結論に落ち着いた」という。欧州人権裁判所がスイスに対し、法的位置づけがあまりにも不明確だと批判しているにもかかわらず、だ。

なぜ規制されない?

スイス連邦政府は以前、自殺ほう助を規制しようとしたが、2011年に断念した。それに先立ち、チューリヒ州では自殺ほう助と安楽死ツーリズムの禁止を求める2件のイニシアチブ(住民発議)が住民投票で否決されている。

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ルツェルン大学のベルンハルト・リュッチェ教授(法学)によると、自由な自殺ほう助の現状を良しとする人たちは、法的規制が自殺ほう助の足かせとなってしまうのではと懸念する。職業倫理で自殺ほう助は十分規制でき、政治的な規制は必要ないとの声もあるという。リュッチェ教授は「これに加えて連邦内閣では、組織化された自殺ほう助を法規制することで品質証明のスタンプを与えてしまう、それは避けるべきだという議論も出た」と話す。

スイスのシステムは信頼に依存

国家が苦しみの種類と程度について法的パラメーターを作り、それによって個人が自殺ほう助を受けられるかどうかが決まるー。ハースト・マジノ教授は、スイスがそんな仕組みになればパラダイムシフトが起こると指摘する。

「我が国のモデルは当事者2人、つまり介助者と自殺者の両者の信頼で成り立っている」。自殺ほう助においてはこれまで、自由権の観点から、自殺者が介助者の助けを得て自死に至る権利はないとしている。 「自殺ほう助に何らかの法的規制を作れば、積極的な自殺ほう助の権利が進展しやすくなるだろう」と分析する。スイスでは現在、薬物を直接投与したり飲ませたりする積極的な自殺ほう助は法律で禁止されている。

専門機関

ハースト・マジノ教授によると、ヌーシャテル州のイニシアチブは、自殺ほう助団体という2番目の「痛いところ」を突くものだと指摘する。

スイスはもともと、自国が持つリベラルな立法に基づいた、いわゆる「ラストフレンド・サービス」、つまり身近な誰かが本人の希望に沿って自殺の手助けをする、そんな仕組みを想定していた。だから、組織化された自殺ほう助団体が登場するとはだれも予想していなかった。ハースト・マジノ教授は「これはパラドックスだ。一方では有能な人材を欲しがり、その一方では親友というシナリオに固執する」と話す。

ハースト・マジノ教授は、専門職としての自殺介助者育成が解決への糸口だと提案する。極端な提案だと自身でもわかっているというが「自殺介助者の資格を取れる世界初で唯一の国になるだろう」と期待を込める。

スイスでは、利己的な動機で他人を自殺させたり、自殺を手助けしたりすると法律で罰せられる。 逆に、他人の利益を目的とした行為は罪に問われない。

スイスでは、複数の自殺ほう助団体がある。対価としてお金を受け取ることが「利己的な動機」に当たるのか否かは長い間不明だった。しかしその先例ともなりえるのが最近、不当に利益を得た罪で起訴されていた自殺ほう助団体ディグニタスの創設者が無罪判決を受けたケースだ。

(独語からの翻訳・宇田薫)

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