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「与党」のないスイス連邦 内閣はどう意思決定するのか

11日行われる新閣僚選挙では、現職の7人が再選される公算が大きい Keystone / Alexandra Wey

スイス連邦議会は11日に新しい連邦閣僚7人を選出する。今回の注目は、10月の総選挙で大勝した緑の党が閣僚ポストを得るかどうかだ。

スイスには議会過半数を握る「与党」や「連立政府」はない。スイス連邦内閣は彩り豊かな団体だ。それはスイスの折り合いをつける能力の高さを映し出す。直接民主制を安定させる根源でもある。

スイス連邦内閣が今日のような政党構成に至るには長い道のりだった。7ポストの配分を決めるのは政党の政治的勢力だ。それは連邦議会に占める議席数だけでなく、直接民主制の手綱を取る能力によっても測られる。すなわち、国民投票で過半数票を集める能力を備えているかどうか、だ。

この動画は、スイスが現在の連邦国家の形になった1848年以降、7人の閣僚ポストがどのように配分されてきたか、その政治メカニズムの歴史を解説する。


スイス連邦内閣は、7人の構成員が皆同じ権利・権限を持つ。

スイスには政府の首長がおらず、国家元首もいない。

信任ないし不信任投票の仕組みはない。

各閣僚は各省(Departement)を担当する。だが意思決定は閣僚全員が共同で下す。週に一度、密室で閣議を開き、討議・採決する。

各省が議会に提出する法案は、まず連邦内閣で過半数を得る必要がある。意見が割れていても、過半数で決まった後は内閣の総意として議会に法案を提出する。

その結果、全てのプロセスにおいて内閣内での一致と妥協策がまとまる。意思決定メカニズムの根底にあるこの原則を、専門家は「調和的民主主義」と名付ける。合議制とも呼ばれる。

このため全ての政党、少なくとも全ての主要政党を代表する内閣の構成が絶対的に重要だ。内閣提出法案が可決される可能性が飛躍的に高まるからだ。

それによって第一に、内閣の決定が議会の過半数というハードルを乗り越えることができる。第二に、内閣の決定が国民投票で覆されるのを防ぐことができる。議会決議に異を唱える国民投票(レファレンダム)が提起されるのを避けなければならないのだ。

レファレンダムの存在は、スイスと他の代表制民主主義国との最も大きな違いだ。連邦閣僚を選出するのは連邦議会で、国民は直接関与しない。だがダモクレスの剣は閣僚の全ての決定の上にぶら下がっている。連邦内閣は法案を成立させるために、議会の過半数を獲得する以上のことをしなければならない。

こうした事情から、時代と共に連邦内閣はその構成を適合させてきた。1848年の内閣発足時は急進民主党が全7ポストを独占していた。当時の連邦議会は同党が絶対過半数を握り、連邦レベルでの国民投票やイニシアチブ(国民発議)のしくみもなかった。それから100年以上かけて次第に政党が増え、1959年に現在の4大政党による構成、通称「マジック・フォーミュラー(魔法の公式)」が完成した。

7ポストを4党で分け合う「魔法の公式」は今日まで続いているが、配分は少しずつ変わってきた。議席占有率の変化に伴い、60年間で国民党とキリスト教民主党のポストは1対2から2対1に逆転した。

2019年総選挙で緑の党が大勝したことにより、再び配分が変わる可能性がある。だが変化が起こるのは今すぐではなく、少し時間がかかるだろう。ポスト配分の変化には常に時間がかかるからだ。


(独語からの翻訳・ムートゥ朋子)

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