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ジュネーブ州、在仏スイス人児童の越境通学を制限へ

ジュネーブの小学校
今後、国境のフランス側に住むスイス人児童・生徒はジュネーブの学校に通えなくなる Keystone

ジュネーブ州政府は、フランス在住のスイス人児童・生徒に対し同州内への越境通学を今後認めない方針を固めた。これまで容認されてきたこの「例外ルール」が撤廃されれば、子供たちは地元の学校に通うことを余儀なくされる。これにより影響を受ける子供の数は、1500人に上るとみられる。

 子供を、居住地ではなく境界線の向こうの州や国にある学校に通わせる。100キロメートルにわたるフランスとの国境線を持つジュネーブ州では、よくあるケースだ。フランスに住む多くの子供たちが国境の向こう側、つまりジュネーブ州で学校生活を送る。

 以前から賛否両論あったこの慣行だが、先日、ジュネーブ州政府がついにこれを制限する方針を明らかにした。「フランスに住む子供をジュネーブの小学校で受け入れる場合、保護者の少なくとも一方がジュネーブ州に所得税を納めており、かつ、クラスの定員に空きがあることを条件とする」というのがその内容だ。

 この新ルールは2019年の新学期から導入され、ジュネーブ州内の各学校(15歳までの小・中学校)への入学を調整する。具体的には、フランスへの転居前に既にジュネーブの学校に在籍していた生徒とそのきょうだいのみが受け入れ対象となる。

「州政府の決定は事前連絡もない一方的なもの。言語道断であり憤りを覚える」 アントワーヌ・ヴィエイヤール、仏オート・サボワ県サン・ジュリアン・アン・ジュヌボワ町長

年間340万フランの節約

 この措置は、ジュネーブ政府の財政4カ年計画に含まれる経費削減策の一つだ。340万フラン(約3億8千万円)の経費削減効果が見込まれている。一方、フランスの各自治体では生徒数が増加するだろう。

 フランスから越境通学をしている生徒の割合は、ジュネーブ州トロワネで19.5%、同バルドネで12.14%。16年末の統計では、ジュネーブ州の義務教育課程に在籍する在仏児童・生徒数は1502人となっている。

 生徒数は増加の一途をたどっており、その背景は保護者の通勤事情や、義務教育以後の授業の質においてジュネーブの方が優れているといった認識など、便宜的なものだ。

 ジュネーブ州政府のフランソワ・ロンシャン首相によると、今回の決定に至ったのは生徒数の増加だけが理由ではない。首相は、実際に生活し地域の繋がりのある場所で通学することこそが子供にとって望ましいという意見に共鳴しており、ジュネーブ州民でさえ単に便宜上の理由で子供の就学先を自由に選ぶことはできないと主張する。

隣国フランスの反応

 これに対するフランス側の反発は強い。オート・サボワ県に位置する人口1万5千人の町サン・ジュリアン・アン・ジュヌボワでは、約100人の子供たちがこの決定で影響を受ける。「保護者が子供を地元の学校に通わせると決めたならもちろんそれは可能だ。行政側には受け入れ義務がある。だが、ジュネーブ州の決定は事前連絡もない一方的なものだ。言語道断であり憤りを覚える」と、アントワーヌ・ヴィエィヤール町長は述べた。

 同町長は、該当する生徒の保護者の大部分は既に税金のほとんどをジュネーブに納めているとし、この決定に違和感を抱く。事実、在仏スイス人越境労働者の所得税については1973年に両国間の合意が成立済みで、ジュネーブ州に源泉徴収を認める代わりに控除前支給額の3.5%をフランス側の自治体に払い戻すという取り決めがある。

子供の生活の場で

子供たちは地元の学校に通うべき、というのが基本だ。フランスでもジュネーブでもこの原則は変わらない。しかし、ジュネーブ州がいったん例外を認め州外からの生徒を受け入れ始めると、いつしかこれが通常運転となってしまった。フランスからジュネーブに入るルートに沿って学校が作られるというケースもあった。保護者たちは、通勤ついでに子供たちを送迎することにすっかり慣れてしまったのだ。

「国境のないジュネーブ」グループ代表のパオロ・ルーポ氏
今年4月に行われるジュネーブ州議会選挙にキリスト教民主党から出馬するパオロ・ルーポ氏。「国境のないジュネーブ」代表。フランスからの越境労働者たちが「二流市民」として扱われることに反発している Aïda Magic Noël

 「この決定の対象となるのは、これから学校に通い始める子供たちだ」とロンシャン首相は取りなす。「既に在校している生徒が学校から放り出される心配はない。あくまで地元優先という点に主眼を置いている」。ジュネーブに住む保護者も、子供に職業教育を受けさせるならスイスでと考えている。スイスの職業教育はフランスのそれに比べ社会的認知度が高いからだ。

 「大きなショックを受けている。動揺を引き起こす不当な決定だ」とコメントするのはジュネーブ州議会のアンヌマリー・フォン・アークス議員(キリスト教民主党)だ。「経済的事情でスイスに住むことのできない家庭もある。この措置は経費削減の手段として間違ったもので、とても正当化できない」

 同議員はまた、これはアンヌ・エメリー・トラシンタ・ジュネーブ州教育相が演出した「政治劇」だと非難する。実際、ジュネーブは州の行政トップを一新する選挙戦の真っ只中にあり、越境労働者問題が再び大きな焦点となっている。

国境のないジュネーブ

 「義務教育を無償で受ける権利はスイス連邦憲法で保障されている。これは基本的人権だ」。そう強調するのは、スイスへの越境労働者を支援する団体「国境のないジュネーブ外部リンク(Genevois sans frontières)」代表のパオロ・ルーポ氏だ。同グループは、ジュネーブ当局の決定に反対するオンライン署名活動外部リンクを立ち上げた。

 同氏が怒りの矛先を向けるのは、フランス在住スイス人の越境労働者が、ジュネーブ州に税金や社会保険料を納めているにもかかわらず「二流市民」と見なされている点だ。ヴォー州では越境労働者の待遇は全く異なっている。「ジュネーブ州は在仏スイス人よりも、短期在留許可証を持つ外国人あるいはサンパピエ(不法滞在者)の方により多くの恩恵や権利を与えている」(ルーポ氏)

 同氏は、在仏スイス人に対し彼らが納める源泉税に見合った恩恵を与えるべきだとし、税収の一部を学校設備拡充用の支援金として通学先の自治体に支給することを要求している。また、リヨンのスイス領事館とも連絡を取り、この決定への不満を伝えることも計画している。

(独語からの翻訳・フュレマン直美)

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