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3・11から1年、 小さな国での大きな追悼式典

追悼式典で200人の来賓を前にスピーチを行う梅本和義大使 Adriano A.Biondo

「3・11」を目前にした3月9日、ベルンの在スイス日本国大使館に招かれた約200人の来賓が、東日本大震災の犠牲者に対し黙とうを捧げた。

この式典には、チャリティーイベントの企画や義援金の拠出をしてくれた多くの日本人及びスイス人が招待された。

 梅本和義大使は式典後のインタビューで、スイス人の支援を「今まで日本とかかわりのなかった方さえ、被災地の映像を見て支援を申し出てくれた。それもごく自然で人間的な友情に溢れる支援の態度だった。今回は大使館でできる限りの支援者を招待したが、匿名の方や義援金を直接日本へ送った方なども数多い。スイスは小国だが、1人あたりでは恐らく世界でも1、2を争う額の義援金を拠出してくれた国だという印象を受ける」と語り、感謝の意を述べた。

災害の現場で生まれた絆

 追悼式典では梅本大使のスピーチに続き、震災直後に日本に救助に向かった「スイス救助犬協会(Redog)」のリンダ・ホルニスベルガーさんが檀上に立った。ホルニスベルガーさんは総指揮者として、震災直後の3月14日から宮城県南三陸町で救助犬と共にがれきの中で救助活動を開始した。

 

 「今日は救助・捜索隊のメンバーを代表し、そしてしゃべれないがいつでも人を救助する準備がある救助犬たちを代表して話したい」と始め、「深い精神的打撃を受けているにもかかわらず、捜索に協力しようとしてくれた日本の人々に感動した。またこうした災害の現場で生まれた絆が世界的に広まっていくことが大切だと思う。つまり将来、もしスイスで私たちが災害に遭ったら、この日本の人たちが助けに駆けつけてくれる。そして、それを信じている」と結んだ。

心の支援に感謝

 一方、「心の救助」としてビデオ作品「未来の友達」をスイスで制作したパスカル・ケーザーさんも檀上に立った。上映されたビデオは、ケーザーさんが教えるスイスの中学生たちが日本語で「いつかあなたと会いたい。その日が来るのを待っているね」と震災で傷ついた日本の子どもたちに向け歌うもの。

 ある式典参加者の女性は「『忘れないよ。あなたたちのことを』というこの曲のメッセージは、この1年が経過した今だからこそさらに大切なものに思える。津波被害で精神的痛手を受けた子どもたち、低線量被曝下で暮らす子どもたち。こうした子どもたちが心の底から笑えるような日が来ることを祈り、そのために今後も援助をしていきたい」と語った。

 ところで、このビデオに感動した梅本大使は、昨年暮れビデオ制作に参加した中学生たちが在籍する学校を自ら訪問し、中学生や校長先生に感謝の気持ちを伝えている。「スイスには外国人が多く在住し、生徒たちも非常にインターナショナル。そのため、こうした外国を思いやる心は強く、撮影もスムーズにいったと校長先生が話した。生徒たちの日本語も上手で自然。質の高い素晴らしい企画だ」とコメントした。

復興

 ベルンでは、今回の追悼式典に合わせ150枚の写真展示と映画上映も始まった。これほどの数の写真展は世界の日本大使館の式典中でも恐らく珍しい。これは、衝撃的な「その時」を切り取った写真を、ベルンの在スイス日本国大使館が日本の新聞社へ独自に依頼し、約100枚の提供を受けたからだ。津波の脅威、同時に起きた原発事故、スイスからの救助隊、そして復興への歩みの全貌が、スイス人に分かりやすく展示される。

 災害から立ち上がり復興へと向かう日本人の底力。今年1月日本に招待され、追悼式典でもスピーチをしたドイツ語圏の日曜紙「デア・ゾンターク(Der Sonntag)」のペーター・ブルクハルト記者は、「松島で11代続いた家が津波で破壊され『過去の歴史』を失い、親戚も多く亡くした佐藤さんに会った。彼はそれでも松島の観光の復興を成し遂げると語り、その姿に感銘を受けた」と話した。

 その後、津波で破壊されたが1カ月で復興した仙台空港で、客足の伸びが悪いと嘆く空港の責任者に説明を受けたブルクハルト氏。「では、外国の観光客を呼び戻すためにも、空港の正確な放射線汚染値を教えてほしいと尋ねたら、知らないと言う返事が返ってきた」と語る。また農林水産賞の食品輸出部門の担当官からも、輸出される全食品の放射能量を検査しているかとの質問に「イエス」という答えはもらえなかった。「コミュニケーションにおける透明性は、日本復興の一つの柱にすべきではないか。そうでなければ外国人には難しい」とブルクハルト氏は続ける。

 一方、梅本大使は復興で今後スイスが日本に協力できることを、「例えば日本は、海外に輸出するものも含めて日本食品の安全確保のためにとっている対策を、透明性を持って説明し理解してもらう努力を行っていく。従ってスイス側も、規制を緩和する努力をしてほしい」と話した。

 大使はさらに、「日本では大半の地域が1年前とほぼ同じ状態までに復興している。ぜひまた、観光やビジネス、留学に日本へ訪れてほしい」と述べ、「今後再生可能エネルギーなど、革新技術で両国はともに最先端のレベル。お互いの協力を進めていきたい。また学生や研究者の交流も積極的に行いたい」と結んだ。

 

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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