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アート市場


美術品の価格高騰、裏には資金洗浄の疑惑も


Isabelle Eichenberger


チューリヒのクリスティーズで行われたオークションでも、電話で金額を提示する買い手が誰かは公表されなかった (Reuters)

チューリヒのクリスティーズで行われたオークションでも、電話で金額を提示する買い手が誰かは公表されなかった

(Reuters)

脱税や資金洗浄(マネーロンダリング)などに対する取締りが厳しくなっている今日、アート市場はまだこうした流れの外にある。一つの理由は、美術品が現金で売買されるからだ。そのせいで、オークションでの落札価格は上昇を続ける。しかしスイスでは、この市場は資金洗浄規正法に違反する可能性があると主張する人もいる。

 「操作、利益の衝突、不透明性さ。アート市場で起こっているこうした現象は、美術品が現金で売買されるからだ。これは『銀行守秘義務』を厳守していた30年前のスイス銀行を思い出させる」と、弁護士でルツェルン専門大学の教授モニカ・ロートさんは言い切る。

 アート市場を分析した本を執筆したロートさんは、「不正なお金の流れに対する規制は、少しずつアート市場をもターゲットにし始めている」と話す。なぜなら、この世界では依然として不透明なことが多く、誰が売り、誰が買ったのかさえわからないからだ。「今後、捜査当局にとっては『魅力ある』対象になる」

スイス、重要で控えめな国

 サイト「アートプライス(Artprice)」によれば、スイスはオークションにおいて第6位のアート市場を持つ。この国は、世界最大のアートフェア「アートバーゼル」で現代アートのファンを惹きつけ、また伝統的にも、安定した政治・経済、完備したインフラ、租税の優遇措置などで、外国の美術収集家を惹きつけてきた。

 それにスイスは、なんと言っても「控えめ」だ。そのせいで、サイト「ラリーズリスト(Larry’s List)」が発表した、世界の重要な美術収集家が住む国のトップテンには入っていない。

不透明な価格高騰

 ところで、最近の美術品の価格高騰には目を見張るものがある。5月にはニューヨークでピカソの油絵が1億6760万フラン(約221億円)で落札され、スイスの彫刻家ジャコメッティの作品も1億3200万フランで落札された。

 しかし史上最高額は、何といってもスイスのプライベートオークションで今年2月に取引されたゴーギャンの「ナフェア」だろう。これは3億フランだった。持ち主のバーゼルの財団が売却したのだが、いったい誰に売ったのだろう?答えは「カタールの買い手」としか返ってこない。

 2014年のアート市場の総売上高は510億フランに達し、そのうち51%はギャラリーや美術商人、アートフェアなどのプライベートオークションで売却されたものだ。一方、(公の)オークションでの同年の総売上高は152億ドルで、前年比で26%も伸びている。

 こうした普通のオークションでも、美術品の価格は公開されているようにみえながら、実は透明性がほとんどない。前出のロートさんはこう指摘する。「一応オークションのカタログには想定価格などが記入されているが、落札の過程は不透明だ。オークション中に電話で、いったい誰がいくらの価格を提示したのか、誰にもわからないからだ」。「それに、誰が売り手なのかもわからない。自分たちの投資の価値を維持するために、オークションで価格を吊り上げようと『裏で操作をする人間』がいる」

 スイスにも支社を置く、競売大手クリスティーズやサザビーズは必要な対策は行っていると主張するが、それ以上のことは言わない。というのも、この二つの大手もオークション以外に「プライベート販売」を行っているからだ。

一定の価格以上のものに投資

 美術品の価格高騰は、実際の美術品の価値とはあまり関係がないようだ。「価格高騰の第一の原因は、世界の富豪の資産がさらに膨らんでいるからだ。その結果、富豪はさらに美術品を買い込み、しかも一定の価格以上のものでないと購買しない。もちろん作品に対する好みもあるが、むしろ新しい一つの投資と考えている。しかも、その投資を隠れて行う」と語るのは、ジュネーブにある芸術に対する権利のための財団の会長を務めるアンヌ・ロー・バンドゥルさんだ。

 こうした投資家が増加する一方で、ピカソなどの作品はすでに美術収集家の手元にあるため、競売会社は現代アートに目を向け、収集家とではなく直接アーティストと仕事を始めている。「その結果、市場の第1人者であるギャラリーと競売会社との間の境界がなくなりつつある」とバンドゥルさんは指摘する。

イヴ・ブヴィエールの事件 

 このように伝統的な役割分担が消滅していく中、イヴ・ブヴィエールの事件が起きている。ジュネーブの運送会社を父親から受け継いだブヴィエールは、美術品の運送に興味を持ち、外国貨物に関税を賦課せずストックを許すジュネーブの「自由港」に膨大な敷地を借り、そこに美術品を預かるビジネスを始めた。

 そうした中、美術収集を望むロシアの富豪ドミトリー・リボロフレフ氏に対し、37点の美術品を20億フランで仲介売却。ところが、リボロフレフ氏の資金洗浄疑惑が浮上しそれに関わったとして今年2月モナコで拘束されている。

 この自由港の「倉庫」について、政府の文化局国際部でこの分野の専門家アンドレア・ラッシェールさんは、こう説明する。「この倉庫にストックされている美術品は持ち主がここに永久に預けたもので、本来この倉庫の目的である再輸送が行われることはない。作品を展示するスペースさえある」。「またここでは、現金で取引が行われる傾向が強い。金持ちは銀行から現金を引き出し、作品を購入することでいわばここに資産をストックしていく」

 略奪絵画の捜査も専門にするラッシェールさんは、「自由港は政府の文化政策や外交政策においても問題になっている。対策を講じる時期が来ている」と強調する。

遅れる自由港への対策

 政府の連邦金融監督局が発表した2014年の報告書によると、関税が賦課されないこうしたゾーンでのビジネスはますます拡大し、総収入額は約1千億フランに上るという。また報告書は、ここで美術品や貴金属のビジネスを展開する会社の中には法律に触れるケースもあり、関税のコントロールを強化すべきだと勧告している。

  だが、自由港に対する政府の対策は進展を見せていない。2017年に発効される関税に関する改定法をいかに適用するかという戦略も、まだ立てられていない。前出のロートさんはこう主張する。「政府は自由港についての報告書をすでに1年前に受け取っているのに、何も具体策を進めていない。関税の改定法は、商品、特に美術品の保管期間に制限をもうけるべきだ。また、資金洗浄規正法を美術品関係者にも適用すべきだ」

資金洗浄

 2016年1月に発効する資金洗浄規正改正法は、従来あった税の申告漏れと脱税との区別を初めて排除するものだ。これは、申告漏れも刑事罰になると規定したもので、法的解釈の大きな転換になると、政府の資金洗浄問題を担当するスティリアーノ・オルドリさんは言う。

 では、美術品に対しこの改正法はどう適用されるのだろうか。「改正法は、美術品というカテゴリーを変えることはないが、美術品を扱う人に10万フランの上限を課す。つまり、10万フランまでは現金での受け取りができる」とオルドリさん。

 しかし、スイスの上限10万フランは、欧州連合の7500ユーロや米国の1万ドルをはるかに超えるものだ。

 ロートさんは言う。「資金洗浄規正改正法は、それはそれとしてよいものだろう。しかしこれだけでは不十分だ。監視・監督はどうなるのか?美術品に関しては、『本当の』法律が必要だ。それは、正直な仕事を行う人を保護するものだ。アートバーゼルのような大規模なアートフェアに関わる人々は、真剣にこの問題を考えるべきだ。というのも、やがて『銀行守秘義務』が完全消滅すると、関心は美術品に向かうだろう。そのとき痛手を負わないようにするためにも、今行動を起こすべきだ」


(仏語からの翻訳・編集 里信邦子), swissinfo.ch

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