スイスのイスラム教指導者 スイスのイマーム「過激化の99%がモスク以外の場所で進んでいる」




「モスク(イスラム礼拝堂)の役目は、理性に呼びかけ、社会のまとまりを保証し、信者が社会の模範となるよう導くことだ」(フェルジャニ氏)

「モスク(イスラム礼拝堂)の役目は、理性に呼びかけ、社会のまとまりを保証し、信者が社会の模範となるよう導くことだ」(フェルジャニ氏)

(Keystone)

最近の世論調査によると、スイスではイスラム教をキリスト教やユダヤ教と同格の公式な宗教として認めることを拒否する人が3分の2に上ることが明らかになった。イスラム教徒に対してスイス社会に溶け込むための、より一層の努力が求められているようだ。

 世論調査の結果はとりわけ、イマーム(イスラム教指導者)に注意を喚起するものとなった。イスラム教コミュニティの日常や活動において、イマームは非常に重要な役割を果たしているからだ。イマームには、イスラム教徒が社会へより良くなじめるような手助けや、一部の若者の過激化を阻止するための協力が求められている。それでは、イマームがコミュニティでそういった役割を果たすためには、どのような条件を満たすべきだろうか ?ヌーシャテル州ラ・ショー・ド・フォンのイマーム、ヌルディン・フェルジャニ氏にインタビューした。

スイスインフォ: スイスのイマームは、その土地で話されているスイスの公用語を使ってモスク(イスラム礼拝堂)での説教やレクチャーをするべきだと思いますか?

ヌルディン・フェルジャニ: コーランの「我々はそのコミュニティで話されている言葉でしかメッセージを送っていない」という一節を引用したい。私は、神の使者となるものはそのコミュニティの言語を話さなければならないと考えている。ここヌーシャテル州ショー・ド・フォンの公用語はフランス語なので、私は同胞や信者とフランス語で話す。だがイスラム教の参照文献などはアラビア語だ。解説の一部がアラビア語になるのは仕方がないが、私の周りの人はアラビア語が分からないので、信者に向けたレクチャーの大部分はフランス語で行われる必要がある。

スイスインフォ: ですが、もしイマームがスイスの社会的、法的、文化的な背景を良く知らず、公用語も話せない場合はどうなりますか?イマームとしての役割を全うすることができるでしょうか?

フェルジャニ: もう一度先ほどのコーランの一節を引用して答えるが、その一節に出てきた「言葉」とは、発話や発音という面での「言語」のみを意味するのではなく、その背景にある、ものの考え方や思想や文化など、すべての社会的な面を含めて「言葉」と言っているのだ。

イマームとして十分な役割を果たすには、住んでいる町や州の公用語を話せるべきだ。そして、周囲で起こっていることや状況を理解するために、あらゆる面においてあらゆるレベルで知る努力をしなければならない。そうすることによってのみ、指導者は信者に答えを示すことができる。例えば、州の歴史を学んだり、法律について知識を得たりするべきだ。そうすれば、自分たちが生活する社会に適合したイスラムのメッセージを伝えることができるからだ。

確かに、宗教ごとに違った原理や揺るがない価値がある。だが、その価値は社会、その他の宗教的伝統でも広く共有されている。例えばイスラム教には不変の価値がある一方で、その法的な見解は時と場所によって異なる。

スイスインフォ: 今日スイスで活動しているイマームが、そういった知識や能力を身につけることが可能でしょうか?

フェルジャニ: 今日、イマームの務めは簡単なものではない。職業として給料を得るイマームには、知識や能力、何でも要求できるかもしれない。しかしスイスでは9割がそうであるように、ボランティアで指導を引き受けているイマームに対してそれを求めるのはほぼ不可能だ。彼らは、生活のために何かしら他の仕事をしなければならない。知識や能力などを要求するのは、イマームが給料を払われるようになってからの話だ。今日イマームに求められるのは、最低限公用語の一つを話せることのみに留まっている。

スイスインフォ: 過激化した一部の若いイスラム教徒の脱過激化プロセスにおいては、イマームが重要な役割を持つことが指摘されています。スイスのイマームは、そのための取り組みや社会治安への貢献に対して、当局から十分な支援を受けていますか?

フェルジャニ: 私の個人的な経験や現場の状況からみると、イマームたちは若者の脱過激化に取り組んでいるし、イスラム教団体の大半と同様に、若者の過激化を防ごうとしている。だが、当局側の努力はあまり見られない。

ジャーナリストたちは、私たちイマームに何をしているのかと聞きに来るが、彼らはほとんどの場合話を要約してしまい、現状を全体像でとらえないばかりか、すべての要因を考慮しない。そして私たちに、どうして一部の若者が過激化するのかと質問する。その度に答えてきたし、これからも繰り返して言う。過激化の大半は、モスクとは全く関係のないものだということを。過激化の99%がモスク以外の場所で進んでいる。なぜなら、若者たちはモスクは、寛容と融合が説かれる場所だと知っているからだ。

多くのイスラム教団体と同様に、イマームは何年も前からやるべきことをやってきた。だがメディアは私たちを批判し続け、スイスや他の国の政府が今日まで解決策を見つけられなかった、(一部の若者の過激化という)社会現象の根源が私たちであるかのように取り上げている。政府は脱過激化についてプログラムやアイデアがあるというが、現場では何も新しいことは導入されていない。私の知る限りでは、脱過激化を働きかけているのは私たちイマームだけだ。

スイスインフォ:スイスのイマームはスイスの公用語でしかモスクでの説教やレクチャーを行ってはならないとする法律についてどう思いますか?

フェルジャニ: 何かを禁止することで問題が解決するとは思わない。それに、他のコミュニティに禁止しないことをイスラム教徒にだけ禁止するつもりだろうか?もしそうならば、それは差別的な措置であり、イスラム教と社会の分断を拡大させるだけだ。例えば、教会でラテン語やギリシャ語、ポルトガル語の使用を禁止したりするだろうか?私は何かの制限や禁止という手段よりも、問題への注意喚起を促す方を望むが、そうするには多くのものが不足している。特に財源不足は言うまでもない。

スイスインフォ: 最近では、ジュネーブ、バーゼル、ヴィンタートゥールなどで起きた事件で数カ所のモスクがメディアから注目を浴び、一部のメディアでは、若者の過激化や紛争地域への渡航にイマームが関わっていたと報道されています。これに対してどう考えますか?

フェルジャニ: 私が最初に取った行動は、当然、メディアで言われていることの何が真実で何が間違っているのかを確認することだ。モスクの役目は、理性に呼びかけ、社会のまとまりを保証し、信者が社会の模範となるよう導くことだ。信頼のおけるイスラム指導者には、暴力や憎しみへの呼びかけをしたり、テロを容認したりする人などいない。

もしヴィンタ―トゥールのイマームが、掟に従わないイスラム教徒を殺害するようモスクで呼びかけたのが真実だとすれば、そのイマーム自身が自分の宗教を理解していないということだ。憎しみの扇動は、何があっても罰せられるべきだ。

スイスインフォ: 専門家たちは、スイスでイマームの養成プログラムを開設するべきだという意見で一致していますが。

フェルジャニ: たとえその目的が素晴らしいものであっても、フリブール大学に「スイスのイスラムと社会センター」を開設しようとした時でさえ、地元の国民党員が反対イニシアチブを起こして攻撃したことを考えると、養成プログラムを実現させるには時間がかかるだろう。

スイスでイマームを養成するというアイデアはとても良いと思うが、それには信頼できるプログラム、適切な資格を持った講師、確かな予算、そして誠実な意思がなくてはならない。例えば大学にイスラム研究講座を開くことも、大きな前進になるだろう。その教育法が客観的なもので、イスラム教を誹謗中傷したり歪曲したりするものでない限りは。

スイスのイスラム教

最新の推計によると、スイスに住むイスラム教徒は40~45万人で、スイスの全人口の約4.5%。

スイスに住むイスラム教徒の多くは、トルコ人、アルバニア人(コソボ、ボスニア・ヘルツェゴビナ出身)などの欧州出身者で、スイス人は全体の11%。

過去20年間で、イスラム教施設やイスラム教団体、ハラール食品を売る店の数が急増している。

現在スイスにはイスラム教施設が250カ所以上あり、その内訳は、トルコ系(45%)、アルバニア・コソボ・ボスニア系(40%)、アラブ系(15%)となっている。

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(仏語からの翻訳・由比かおり), swissinfo.ch

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