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スイスの一時的な在留認定者


難民でもなく、本国にも帰れない外国人




難民申請が拒否されたが本国にも帰れない外国人に与えられる「在留許可証F」をめぐり、政治的議論が白熱している (Keystone)

難民申請が拒否されたが本国にも帰れない外国人に与えられる「在留許可証F」をめぐり、政治的議論が白熱している

(Keystone)

スイスには、難民に認定されなかった人たちを強制送還の日まで一時的に受け入れる制度がある。だが強制送還をされずに数年間も不安定な身分でいなければならない外国人は多い。難民申請者の大量流入が欧州で相次いでいる現在、この問題をめぐり政治的議論がますます紛糾している。

 イタリアやギリシャを目指して密航船で地中海を渡る難民申請希望者の数は、すでに6月初旬で10万人を突破した。これほどの人が殺到したのは過去最高だ。難民申請が多く北欧への通過点となるスイスにも影響が出ている。

 連邦移民事務局によれば、スイスでは今年末までに、昨年に比べ6千件多い約2万9千件の難民申請が行われる見込み。この大きな課題を前に、政府は各州に協力を呼びかけている。

 難民問題をめぐる議論は最近、ますますヒートアップしている。難民申請希望者の数が急増しただけでなく、在留許可を持つ難民の数もスイスで増えているからだ。後者の中には、難民申請を拒否されたが一時的に在留が認められた人も含まれる。

 難民と一時的な在留認定者

スイスの難民法では、正式に認められた「難民」と、難民申請が却下された「一時的な在留認定者」の二つのカテゴリーがある。後者は、本国に戻った際に命の危険がある場合、本国送還を免除される。

難民法による難民の定義は以下のとおり。「難民とは、母国または最後に居住した国で、人種、宗教、国籍や、特定の社会的グループへの帰属、政治的信念によって深刻な不利を被ったり、またはそのような不利にさらされたりする危険性が十分ある人を指す」

  難民申請者が難民として認められるには、自身が迫害を受けている事実を証明しなければならない。例えばシリアなどの紛争地域、エリトリアなどの独裁国家、ソマリアなどの崩壊国家から逃れてきた人たちは皆、難民条約で定められたところの「難民」に当てはまる。だが、難民とは認められなかった人が強制送還により命の危険にさらされる可能性がある場合、国際法上、難民と同様の地位が与えられる。

 スイスはこのルールを受け入れており、難民申請が拒否された人を一時的に保護している。こうした人たちには「在留許可証F」が交付され、交付数は近年増加している。

 在留許可証Fは1987年、本国に帰還予定だが一時的な保護を必要とする難民の救助目的で導入された。「本国の旧ユーゴスラビアで紛争が終結して帰郷できるまで、この許可証の世話になるコソボ人が90年代終わりに多かった」と、ヌーシャテル大学教授(地理学)で連邦移民問題委員会副委員長のエティエンヌ・ピゲ氏は言う。

 だが、近年では多くの国で紛争が長期化傾向にあり、現地の状況も複雑化している。また、移民の特徴も根本的に変わってきた。

 ピゲ氏によれば、一時的な在留許可が認められたがスイスで一生を過ごす外国人が多くなっている。しかし、在留許可証Fはあくまで暫定措置なので、この許可証の保持者がスイス社会の一員となることは認められていない。

 スイスではほかの欧州諸国とは違い、正式な難民と一時的な在留許可を得た外国人の権利は異なる。後者は法的に労働は認められているが、就職先を探すのは大変厳しい。本国で得た技能証明書や卒業証書は認められず、在留許可証はそれを交付した州でのみ有効なことがその理由の一つだ(つまりほかの州には在留できない)。また、雇用者の中には「一時的在留認定者」用の書類処理の煩雑さに、採用をためらう人が多いのもネックとなっている。

 在留許可証Fの保持者は、職がない場合は生活保護に頼らざるを得ず、職が見つかったとしても給料の1割は税金として払わなければならない。ただし、これはスイス人、欧州連合(EU)市民、難民認定者にも当てはまる(特定の州では違う場合もある)。

 ヌーシャテル大学移住・人口研究フォーラム副会長のデニーズ・エフィオナイ・メーダーさんはこれを悪循環と考える。「現行制度では、一時的に受け入れられた人は社会の隅に追いやられる」。法律上、在留許可証F保持者は入国から最低5年後に、居住する州の移民局で滞在許可証Bに変更を申請することができる。「しかし、変更基準はかなり厳しく、財政援助を受けていないことを必須条件にしている州が多い。だが一時的在留認定者の多くは職探しに苦労している。そのため、数年、または数十年もこの身分でいる人がいる」

 在留許可証Fの所持者は、今年5月末の統計では3万1千人いる。これまで彼らの実態についてあまり把握されていなかったが、昨年12月に初めてそれを調査した報告書が発表された。連邦移民委員会の委託で行われたこの調査に参加したエフィオナイ・メーダーさんはこう言う。「特に驚きだったのが、彼らの年齢。平均20歳だ。厳しい状況下で育った子供も多くいた」

 調査では、在留許可証Fから滞在許可証Bへの変更期間や、本国に帰還するまでの期間が長期化傾向にあることも判明した。平均はどちらも3年かかる。一時的に受け入れられた人の半数は7年以上スイスに在留しており、16年以上の人も12%いた。

 一時的な在留認定者の身分に関し、たびたび議論が行われてきたが、最近になって政治家たちの間で議論が再燃している。国民党などの右派は、「在留許可証Fは特にエリトリア人やスリランカ人に対し、あまりにも気前よく交付されてきた」と批判。こうした在留許可を出すよりも、徹底的に本国送還を実施すべきだとしている。

 「在留許可証Fは、実際は(長期滞在が可能な)滞在許可証となっているので、廃止すべきだ」と主張するのは、国民党のハインツ・ブランド下院議員。難民法の厳格化を求める動議を議会に提案している。「スイスは、実際に迫害されている人たち全員の保護を保障しているが、すべての難民申請者を受け入れるにはスイスは小さすぎる」

 同氏はまた、難民認定を拒否された人たちの社会統合は促すべきではないと考える。前出の報告書が出した結論にも同感はしていない。「彼らに職がないのではなく、彼らには働く意欲がないのだ。生活保護は寛大すぎるので、緊急支援のみに絞るべきだ」

緊急支援

難民申請が認められなかった人は、出国期限までにスイスを去らなければならない。出国期限は短く、期限以降は不法滞在となる。すぐに出国できない場合でも、生活保護は認められていない。

連邦憲法第12条に基づき、緊急支援(宿泊場所、食料、衣服、医療)が各州の福祉サービスまたは移民局で受けられる。こうした支援は1日6.5フラン(約863円)から12フランで、通常はクーポン券の形で支給される。この対策の目的は、移民にできるだけ早くスイスを去るよう促すことだ。

 その反対を主張するのは、社会民主党のチェスラ・アマレレ下院議員だ。一時的な在留認定者をめぐる問題は政治的に利用されていると考える。「国民党は彼らが制度を悪用していると言うが、こうした人たちが増えているのは国民党のせいだ。前回の難民法改正が行われた2013年、国民党の提案で、敵前逃亡が難民認定の理由から削除された。そのため多くのエリトリア人が在留許可証Fの保持者になった。こうして彼らはスイスにとどまったが、その生活条件は過酷だ」

 アマレレ氏は、こうした人たちを短期間に本国へ送還することはできないとみる。そのため彼らにより多くの権利を与え、社会統合を促すべきだと考える。「難民全員が本国に帰るべきだというのは政治的に考えれば理解できる。だが実際は不可能。(外国人の受け入れに強く反対していた)クリストフ・ブロッハー元連邦大臣でさえ、エリトリアに足を踏み入れられなかった。行けたのはエチオピアまでだった。そうした中、世界で最も邪悪な独裁者がいる国に、どうやってエリトリア人が帰ればいいというのだろうか?実に馬鹿げている!」

 連邦移民問題委員会はヌーシャテル大学が行った昨年の調査を元に、迫害を受けた人のための新しい法的地位の導入を提案した。

 この地位が認められた外国人には、入国6年後、自動的に長期的な滞在許可証が与えられることになっている。

 だが、これは難民認定者と一時的な在留認定者の地位を同等にするものではないと、前出のピゲ氏は言う。「(後者の人は入国後)最初の数年間は、本国送還の対象となる」

 国民党は、「これではスイスがますます魅力的になってしまう」と、この提案を真っ向から否定している。それに対しピゲ氏は次のように反論する。「スイスに6年在留したら滞在許可証が交付されるとしても、それは特段の魅力にはならない。さらに、これは難民申請をどこの国でするかを決める際の決め手とはならないと、多くの研究で判明している」

 いずれにせよ、連邦議会で近々「一時的な在留認定者」をめぐる問題が取り上げられることは必至だろう。アマレレ氏が委員長を務める下院国家政治委員会が、この件を議題に上げるよう申請したからだ。連邦政府は、遅くとも年末までにはこの問題に取り組むとしている。正式な難民ではないが本国にも帰れない外国人たちの今後は、10月の総選挙で選ばれた新しい議員たちの大きな課題となるだろう。


(独語からの翻訳・編集 鹿島田芙美), swissinfo.ch

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