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スイス人が思うほど民主的ではないスイス

スイス人は投票の機会が非常に多い Keystone

10月23日の総選挙が近づく中、直接民主主義で有名なスイスは、30カ国を対象とする民主主義の質の調査で14位だと判明した。

チューリヒ大学とベルリン社会科学研究センター(WZB)による調査「民主主義バロメーター」によれば、デンマーク、フィンランド、ベルギーの民主主義が世界で最も良く機能している。一方、イギリスとフランスは26位以下にランクされた。ちなみに日本は25位だった。

 民主主義バロメーターは、チューリヒ大学とベルリン社会科学研究センターとが共同開発した評価方法により民主主義の質を示すもので、民主主義国家30カ国を対象に1995年から2005年までの期間にわたる民主主義の在り方を総合評価する。こうした調査はほかに例がない。

 この調査では100項目の実証的な指標を用い、法の支配、政治の透明性、政治参加など民主主義の九つの基本原理が機能しているかを数値化して評価し、最終的にその国で民主主義の3原則がどの程度機能しているかを評価した。

 「スイスのランクの低さには、それほど驚いていない」とスイスインフォに対して語るのは、調査にあたったプロジェクトリーダーの1人、チューリヒ大学のマーク・ビュールマン氏だ。

 スイスは、「個人の自由」と「民主的決定を政府が実行する能力」という2項目においては上位だという。しかし「透明性」においては評価が低い。なぜなら政党の財政に関する規制がなく、2005年時点では情報開示を規定する法律もなかったからだ。

スイス人の政治参加

 「興味深いのは、スイスにおける政治参加の実態だ。というのも、スイス人は政治にかかわる機会に非常に恵まれているにもかかわらず、(政治に積極的に参加するのは)むしろ高収入の高学歴保持者、女性より男性、若者より年配者で、政治に参加する社会層に偏りがみられる」とビュールマン氏は説明する。

 「そのせいで、スイスは政治参加の項目で質が低いという評価になる。民主主義において政治的平等を確保するためには、市民のさまざまな意見や立場が考慮されなければならない、と我々は考えるが、スイスではそれが実現されていない」とビュールマン氏は指摘する。

 さらに、「政治決定過程に参加しない人というのは、自分にはよく分からないと感じているわけだから、学校で政治教育を行う必要がある」と付け加える。

 もう一人のプロジェクトリーダーであるベルリン社会科学研究センターのヴォルフガング・メルケル氏は、「スイスの直接民主主義は長い間高く評価されてきた」と言う。その直接民主主義とは、イニシアチブ(国民発議権)とレファレンダム(国民投票権)という形を取るものだ。例えば、2月に軍支給の銃器の自宅保管禁止を求めるイニシアチブが提出され、国民投票で否決されたのがその例だ。

 「しかしながら、レファレンダムの制度だけで民主主義が卓越したものになるわけではない」とメルケル氏は指摘し、「スイスは優れた民主主義国家だと言えるが、我々の100項目に照らせば最良のものとは言えない」と語る。

スカンジナビア諸国が最上位

 上位5位のうち4カ国がスカンジナビアの国々だ。予想通りの結果と言えるが、ベルギーが3位になったのは調査にあたった研究者にとっても意外だったという。政治的難局にある上に、言語をめぐる対立を抱えているからだ。

 「ベルギーの民主主義は、そうした問題を超越するほど強力だということだ。例えば人々が政治参加から排除されるということが、スイスほど強くない」とメルケル氏はいう。

 最下位の評価となったのは、ポーランド、南アフリカ、コスタリカ。しかし西ヨーロッパの大国も芳しくない結果だ。イタリアが22位、イギリスは26位、フランスは27位。

 フランスは信仰の自由、イタリアは報道の自由という項目で評価が低く順位を落としている。その一方でドイツは、選挙に多くの人が足を運んだことで政治参加層における偏りが少なくなり、スイスより評価が高い11位となった。

イギリスは下位

 「イギリスの弱点は、個人の権利、国民の利益代表、選挙による代表制という3項目で評価が低いことだ」とメルケル氏言う。

 「例えば、選挙の得票率が45%の政党が議席率で60%を得ると、選挙結果に基づく代表制という点では不均衡が生じる。これは実はかなり問題だ。なぜなら一人一票という民主主義の平等原則に反しているからだ」とメルケル氏は指摘する。

 アメリカは10位と予想通り中ほどになったが、2001年の9.11米同時多発テロ以降民主主義の質はわずかに低下したと調査チームは評価した。またベルルスコーニ政権下のイタリアの民主主義も評価が後退した。

 未来を予測することは不可能だ、と政治学者はこれまで考えていた。しかし、それはこうしたデータの取得が可能になった2005年を境に変わったといえるだろう。

 「新聞などの報道に触れて、民主主義の質が落ちている、民主主義への信頼も低下している、と誰しも感じることがある」とビュールマン氏。

 「しかし、最上位と評価された国々の民主主義でさえ年々向上していることが調査で分かった。もちろんすべての国とはいかないが、ほとんどの国で民主主義は質という点で良い方向へ発展している」と結んだ。

調査は、世界の民主主義国30カ国を対象に、1月27日にチューリヒで開始された。民主主義の定義はほかの民主主義研究から引用。

従来の基準では、各国の民主主義の質における微妙な差異を測るためには概念および方法論上十分ではなく、それを補うことが調査目的のひとつ。また、民主化の発展を長期的に示すことも目的とする。

1位 デンマーク

2位 フィンランド

3位 ベルギー

4位 アイスランド

5位 スウェーデン

6位 ノルウェー

7位 カナダ

8位 オランダ

9位 ルクセンブルク

10位 アメリカ

11位 ドイツ

12位 ニュージーランド

13位 スロベニア

14位 スイス

15位 アイルランド

16位 ポルトガル

17位 スペイン

18位 オーストラリア

19位 ハンガリー

20位 オーストリア

21位 チェコ

22位 イタリア

23位 キプロス

24位 マルタ

25位 日本

26位 イギリス

27位 フランス

28位 ポーランド

29位 南アフリカ

30位 コスタリカ

(英語からの翻訳、濱四津雅子)

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