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スイス政府 チュニジアのベンアリ前大統領の資産を凍結

Keystone

スイス政府は1月19日、チュニジアのジン・アビディン・ベンアリ前大統領、コートジボワールのローラン・バグボ前大統領および2人の側近の資産を即刻凍結すると発表した。

刑法専門家のマルク・ピート氏はしかし、スイスに膨大な金額は預けられていないとみる。

横領のリスクを回避

 ベンアリ前大統領がスイスの銀行に資産を預けている場合、あるいはスイスの不動産を所有している場合、これらは即時凍結され、ベンアリ大統領が手を出すことはできなくなる。

 ベンアリ前大統領のほか、およそ40人の側近もこの措置の対象となっている。ミシュリン・カルミ・レ大統領は首都ベルンで開いた記者会見で

「スイス政府は、国有財産の横領に関するすべてのリスクを回避したいと考えている」

 と述べた。

 また、コートジボワールのローラン・バグボ前大統領がスイスに口座を持っている場合、その資産も即刻凍結することを明らかにした。

「チュニジアとコートジボワールの両国は、スイスに捜査共助を求めるよう動き出して欲しい」

と要請した。

スイスに資産はあるのか

 チュニジアでは、これまで絶大な権力を握っていたベンアリ前大統領に対する捜査が始まった。チュニジアの国営TAP通信社は19日、「情報筋によると、検察庁の捜査の対象は外国での非合法の売買および投資」と報道した。74歳のベンアリ前大統領とその一族が非合法に資産を横領し、それを国外に持ち出していたかどうかの解明を急ぐ。

 一方、カルミ・レ大統領は、ベンアリ前大統領やその側近がスイスに資産を預けている形跡があると発表。「しかし、ここ数日間に資産が引き出された形跡は認められていない」

スイスは過去数年間、金融業界のイメージアップに腐心しており、これまでフィリピンのマルコス元大統領、ナイジェリアのアバチャ元大統領、ハイチのデュヴァリエ元大統領などの資産が凍結された。2月1日には新しい法律が発効し、専制者の資産を当該国に返還しやすくなる。

 刑法の専門家であるマルク・ピート氏に、今回の資産凍結について話を聞いた。

swissinfo.ch : 今回のスイス政府の決定についてどう思われますか。

ピート : スイスにはまったく預金されていないかもしれないし、銀行がすでに資産を発見していて、内部で凍結したかもしれない。それが不明の現在、スイス政府の決定は金融業界が取るべき一貫した措置を確定した。

swissinfo.ch : しかし、チュニスでの出来事はもうずいぶん前からマスコミが大きく取り上げていました。どうしてもっと早く手を打たなかったのでしょうか。

ピート : ベンアリ政権は長い間、許容範囲内と見なされていた。フランス、アメリカ、また欧州連合 ( EU ) もベンアリ政権を後押ししてきた。政治家はこの政権が問題になるとは考えもしなかった。ベンアリ氏が退陣して初めて、資産を凍結しなければないことに気がついた。

swissinfo.ch : 銀行が手を打つこともできたわけですが。

ピート : 銀行はいわゆる「PEP ( Politically exposed persons ) 」、つまり「政治的に重要な人物」を正しく分析するよう努力しなければならない。だがその一方で、資金の所有者を突き止めるのはそれほど簡単なことではない。所有者が身元を隠すのは比較的やさしい。資金の出所などを漏れなく正しく申告しても、銀行はすぐにそれがPEPのものだと分かるわけではない。

新しい法律が発効すれば、スイスの立場はもっと良くなる。いわゆる破綻国家 ( failed states ) という、脆弱な司法機関しか持たない国家に対し、捜査共助の機会を提供できるようになる。共助の申請が行われれば資産は凍結されるばかりでなく、国家に返還されるようにもなる。

しかし、チュニジアは破綻国家ではない。方向性を決める際に争いが生じる恐れはあるが、ベンアリ氏のケースに関しては捜査共助というきちんとした方法が取られるのではないか。

swissinfo.ch : 凍結期間は3年間ですが、これで十分ですか。

ピート : この間に訴訟手続きが始まれば、3年間が経過した後に凍結期間を延長することも可能だと思う。

swissinfo.ch : スイスのイメージはダウンしましたか。

ピート : ベンアリ一族の資金がスイスにあったとしたら、あるいはまだあるとしたら、驚きだ。わたしがベンアリ氏なら、フランスやアラブ首長国連邦といった国に預金しただろう。スイスに持ってくるのはあまり妙策ではない。

スイスではこのような非合法の資産について議会で討議されてきた。少し耳ざとい専制者なら、非合法の資産をスイスから出すか、あるいは最初からスイスに持ってきたりはしないだろう。この分野におけるプロの反応は非常に敏感だ。

不法行為によって得たお金という観点から見れば、非合法の資産の安全な避難場所というイメージはもう崩れた。税金となると話はまた別だが。

1953年生まれ。

1993年までバーゼル大学で刑法、刑事訴訟法、刑事犯罪学の正教授を務める。当時、資金洗浄 ( マネーロンダリング ) 、組織犯罪、麻酔剤取引、汚職などに関する連邦法制定にも携わった。

国際連合 ( UNO ) 、経済協力開発機構 ( OECD ) などの国際的な委員会や組織の会員や会長を経験。

政治的に重要な人物に対して銀行はよりいっそう慎重な姿勢を求められる。

スイス銀行家協会 ( SwissBanking ) のトーマス・ズッター氏によると、「重要な人物」には専制者ばかりでなく、選出された政治家も該当する。

今日ではPEPデータバンクが作られており、銀行はアクセス可能。

独自のPEP対策を取っている銀行もある。側近にも注目しており、ベンアリ氏のケースでは約40人の側近がリストアップされたとミシュリン・カルミ・レ連邦大統領は19日に述べた。

昨日まで政治的に許容されていた専制者が、明日は突然好ましからざる人物となることがあるため、ズッター氏はこれらのデータの問題性を指摘する。

また、このことを省みると、銀行が資金洗浄管轄当局に知らせるべきかどうかという判断を行うのは簡単なことではないという。

( 独語からの翻訳、小山千早 )

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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