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スイス発の人気漫画 ティトフ

ティトフの生みの親、ゼップ(Zep)がアトリエで仕事しているところ swissinfo.ch

サッカー選手ジダンと張り合うほどの人気漫画の主人公『ティトフ』(Titeuf)はフランス語圏を中心にベストセラーだ。著者、ゼップ(Zep)はスイス人だが、そのユーモアは国境を越え、これまで世界30カ国語に訳され、アジアでは中国語、韓国語、インドネシア語でも出版されている。

最新刊の10巻はフランス語圏(スイス、ベルギー、フランス)で200万部を突破する売れゆき。子供ばかりか、大人も魅了する。現在、川崎市市民ミュージアムで開催中の「スイスコミック・アート展」でも見られる。その『ティトフ』の魅力を探ってみる。

 ストーリーは10歳前後の男の子、ティトフの日常をユーモアたっぷりに描く。ティトフは毎日学校に行ったり、遊んだりと普通の少年だ。学校の仲間には仲良しのマニュ、歯の矯正をしているジャン・クロード、でっかいユーゴに憧れのナディアがいる。ここまではどらえもんののび太の世界にちょっと似ている。しかし、ティトフは並外れた想像力があり、やってはならない悪戯をしでかし、言ってはならないことばかり口にする。ティトフは小学校の担任の先生をスパイまたは宇宙人だと確信している。

ティトフって何?

 一見、のんきな世界だが、お父さんは失業中だったり、いとこの両親が離婚したり、エイズキャンペーンや性教育に現代社会を生きるティトフの疑問が投げかけられる。

 大のBDファンでTSRテレビの資料係、ヤニス・ラヴァリノ氏(30歳)は「初めて、親が子供に買ってあげる漫画でなく、子供が欲しがる漫画が出た」と分析する。確かに、可笑しな言葉だらけで造語も多い。2児の親であるニコラ・ステットラー氏(33)は「子供には絶対に見せない。言葉は悪いし、糞尿趣味的で汚い」との意見だ。

 ティトフのページをめくってみると、この年の子供が一番興味のあるもの、悪戯、うんち、セックス、異性などが中心テーマ。品のない言葉というよりも、子供らしい造語、言葉遊びが満載だ。
 
 例えば、学校に性教育を説明しにきた太った小母さん。子供たちに用紙を配って質問を書かせる。子供たちの疑問は「精子を洗ってエイズ菌をとることはできるの?」、「セックスをしなくてはいけないの?」、「お母さんのベソの緒からホウレン草の味が伝わるか?」などと大人を絶句させるようなもの。ティトフの質問は「おばちゃんは精子のときから太っていたの?」で、もちろんゼロ点。

 もう一つ。ティトフはナディアに恋している。マニュの「プレゼントをして君の気持ちを見せればいいよ」との助言に二人でスーパーに行くが、香水、花などみんなティトフには高すぎて目が飛び出る値段だ。そこで、ティトフが提案する「マニュもナディアに恋しない?そしたら、半分づつお金を出そうよ…」
 

人気の秘密は今までにないもの?

 子供たちにティトフの何が面白いのか調査したところ、「遊ぶことしか考えていないから好き!」というのはヴィルナちゃん(10歳)。その双子のお兄さんルカ君は「どう悪戯をするか、参考になるけど僕の学校では通用しない」と言う。

 16歳のダビッド君は12歳の時からティトフファンだ。「超、おかしいよ。ティトフの悪戯は性格にピッタリ。やりたい放題やってくれるので空想の世界に入れる」とお気に入りだ。

 前出のラヴァリノ氏は「社会問題など今の時代に沿った問題を扱う漫画はこれまでになかった。今までのBDの傾向や伝統から外れるのでは」と分析する。

ゼップって何者?

 確かに著者のゼップことフィリップ・シャプイ氏(37)のデビューは難しかった。「漫画誌などに描いていたが、家賃を払うのも難しく、ポスターなどアルバイトで生きていた」

 誰も出版してくれないから仕方なく、「自分の楽しみのためだけに描こう」と思いついたのがティトフだ。25歳の時だった。自らの小学校時代の友人をモデルにした。自由に描けるために主人公だけは自分でなく、髪の房が盛り上がった金髪の“ティトフ”にした。「僕ができなかったこともやってくれて、子供時代に戻ったみたいだった」という。

 「こういうテーマは子供には駄目」と断られ続けたのだが、それが、たまたまフランスの大人用BD出版の大手、グレナ社(Glenat)の編集長の目に留まった。ところが、子供にも大受けだった。「僕自身は自分の世代の大人を対象にと思って描いたが、子供にも大人気で意外だった」とゼップ。ゼップの名前の由来はファンだったロック バンド、レッド・ツェッぺリン(Red Zeppelin)からきている。

 ゼップは現在、2児の父親だが子供には「お父さん」として対応するので漫画の着想はむしろ、子供時代の思い出だという。「奥さんにティトフを描いている時は子供みたいな格好に戻っていると指摘された」と笑う。

飛び抜けた絵の才能

 2001年の9月に、エレーヌ・ブリュラー(シャプイ氏の奥さん)と共著で出版した『セクシュアルなおチンチンガイド』も大売れ。ティーンエイジャーの前の子供たちの疑問に答える性教育の本。文章は子供の素朴な質問に答え、真面目で読みやすい。ユーモアに飛んだティトフの挿絵が入っているので、とっつきやすい。こちらの方は親の間でも「子供に説明するのに便利」と意見は一致だ。

 ゼップのアトリエにはティトフグッズが飾られている。日本に旅行に行ったときのスケッチを見せてくれた。色といい、線といい画家のタッチだ。ティトフの色も全て自分で付けている。「色もお話の一部だから、他人に任せることは出来ない」という。

 日本での出版は「髪型が日本人には受けない」と某出版社が断り、見送りになっている。エージェントによれば、漫画文化の強い日本や米国への輸出は難しいらしい。「僕は鉄腕アトムやドラゴンボールの髪型と似ていると思うんだけどね」とゼップ。日本の漫画も好きらしく、谷口ジローの漫画が何冊も置いてあった。


swissinfo  屋山明乃(ややまあけの)

 <Titeuf (ティトフ)について>

– ティトフ(男の子の仇名)は10歳前後の小さい男の子の日常のお話で、小さい子供から大人まで大人気の漫画。

– 最新刊の10巻目『ナディアが結婚する』(2004年8月)は200万部も売れた。主に漫画の伝統が長いフランス語圏(スイス、フランス、ベルギー)で人気が高い。

– 初刊は1993年に発行された『神様、セックスとズボン吊り』は7000部だったが、2巻、3巻目からスイスだけでなく、フランス語圏全域に人気が広がった。

– 漫画(BD=デッサン・アニメ)の登竜門、アングレーム国際BDフェスティバルでは2004年にTiteuf が最優秀賞を受けたため、今年は著者のゼップ(Zep=フィリップ・シャプイ氏)が委員長を務めた。

– ゼップはスイス人。警察官の父とお針子の母のもとにジュネーブで育ち、今もジュネーブに在住。

– ティトフの人気はフランス語圏に留まらず、中国語、韓国語、ギリシア語、インドネシア語など世界15カ国語に訳されているが、日本語はまだ出ていない。

– ティトフはテレビでもアニメ化されており、ティトフグッズも数多く販売されている。

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