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スイス・米国関係


スイスと米国の経済関係、米の新政権誕生後も現状維持か




ケリー米国務長官(左)と冗談を交わすスイスのブルカルテール外相。今年1月にダボスで開かれた世界経済フォーラム(WEF)にて (Keystone)

ケリー米国務長官(左)と冗談を交わすスイスのブルカルテール外相。今年1月にダボスで開かれた世界経済フォーラム(WEF)にて

(Keystone)

11月の米大統領選本選を控え、スイスが注目するのは米国との関係が新政権誕生後、どう変わるかだ。両国関係の大部分を貿易が占めるが、近年はスイスの銀行による米国人の脱税ほう助問題が互いの経済関係に影を落としている。スイスとしては、国益さえ守れれば新大統領はヒラリー・クリントン前国務長官か実業家ドナルド・トランプ氏のどちらでもいいかもしれないが、果たして専門家はどう見ているのか。

銀行

 これまでスイスの多くの銀行が、米国民の脱税行為をほう助したとして米当局の捜査を受けた。脱税ほう助問題は、新大統領が就任後もスイス・米国間でくすぶるのだろうか。

 スイス・米国議員連盟代表を務める中道右派・急進民主党のクリスタ・マルクヴァルダー国民議会(下院)議員はそう考えてはいない。「スイス連邦議会は2013年の(脱税ほう助問題に関する)政府の緊急和解法案を否決した経緯があるが、問題はすでに沈静化している」(マルクヴァルダー氏)。この法案は脱税容疑のある米国人顧客の口座情報を米側に提出できるようにするもので、国民議会二度にわたって否決、廃案となった。

 国民議会外交委員会のロランド・ビュヒェル委員長(国民党)も一連の脱税ほう助問題は終結したとみており、2国間関係は「すでに新しい段階に進み、以前よりずっといい状態だ」と話す。

 しかし、同委員会委員のルツィ・シュタム下院議員(同)は懐疑的な見方だ。「米国の、我が国や他国に対する圧力のかけ方には失望した。銀行の脱税ほう助問題で、これは最終決定だと言っておきながらまた議論を蒸し返してくる米国の姿を何度も見てきた。そういう意味では米国は信用できない」

脱税ほう助問題の経緯

 米国は09年、米顧客の脱税をほう助したとして、スイスの銀行大手UBSに7億8千万ドル(約823億円)の罰金を科し、その後も80行以上に総額50億ドルに上る罰金を支払うよう命じた。米司法省は今年1月、米国人がスイス銀行に保有する秘密口座の解明に向けた「スイス銀行プログラム」で、対象の銀行全てと合意に至ったと発表している。同プログラムは脱税ほう助を疑われているスイスの銀行が罰金を支払う代わりに米国内での刑事訴追を受けない制度だ。

貿易

 2国間の経済、貿易関係は拡大している。昨年、スイスの輸出製品(金と貴金属を除く)の13.5%が米国向けで、輸出額は6%増加した。一方、スイスの総輸出量は2.6%減少し、最大の輸出相手国ドイツに対しては5%落ち込んだ。

 懸念材料は、米国と欧州連合(EU)が協議している関税や規制撤廃を目指す環大西洋貿易投資協定(TTIP)だ。EU非加盟国のスイスは、当面は協議の行方を見守り、今後スイスも協定に加盟できるかどうかを検討するとしている。だが、加盟によって貿易、投資上のデメリットが生じる可能性を懸念する関係者も多い。

 米大統領選の選挙運動が熱を帯びるにつれ、候補者からは保護貿易を強調する発言や、大衆を扇動するような言動が飛び出すようになり、スイス側の関係者を悩ませている。

 冒頭のマルクヴァルダー氏は「我々にとって米国は開かれた貿易友好国のイメージだが、現在の選挙運動では市場開放に反対する動きが見える」とし「米国の保護貿易主義は深刻な問題だ」と危惧する。

トランプ氏かクリントン氏か

 在スイス米国商工会議所のマーティン・ナヴィル会頭は、「2国間の良好な貿易関係は大統領選の結果に関係なく継続する」と断言する。

 上院議員、国務長官時代に実績を積んだクリントン氏は、オバマ大統領の国際ビジネス推進政策も引き継ぐと、ナヴィル氏はみる。「クリントン氏は、貿易市場を開放した方がよっぽど雇用や富を生み出せることを熟知している」(同氏)

 ナヴィル氏はまた、「トランプ大統領」の適性についても他の専門家ほど悲観していない。「トランプ氏は選挙運動で危ない発言を連発しているが、彼は全てをめちゃめちゃに壊そうとしているのではない。言動だけを見れば確かに危険人物かもしれないし、彼のスタイルを嫌う人もいるが、彼があれほど実用主義的なのは世界を変えたいがためだ」

 同氏はさらに「そもそも国際貿易に関しては、議会と最高裁判所がホワイトハウスより強い影響を持っている」と指摘する。

職業訓練

 オバマ政権は職業訓練や見習い制度を重視。このような制度を利用する若者の数を倍増させるため、職業訓練の先進国スイスに支援を依頼した。両国は昨年9月、「職場に基礎を置く学習」で協働することを目指す共同声明を出した。

 6月にはチューリヒ近郊のヴィンタートゥールで、職業及び専門教育と訓練に関する第2回国際会議が開かれた。それに出席した米労働省長官代理のクリス・リュー氏は共同声明について「見習い制度の先駆国と協働できる歴史的な合意」とし、スイスに感謝の意を表明した。米国ではネスレ、ビューラー、チューリッヒ保険などスイスの大企業が積極的に見習い制度を広めている。

職業訓練を促進

 スーザン・リーバイン駐スイス米国大使は、スイスの見習い制度が米国に最も合う制度だとみる。同氏は新政権後の動きを予測するのは難しいとするが、米国の見習い制度普及計画は「超党派の多大な支援を受けている」と話す。

知的財産権

 問題は知的財産権の保護だ。スイスはこれに関し法制度をすでに整えているが、米国の音楽・映画ロビーや米国議会議員らの支持を受けている米通商代表部は、米政府の今年の監視国リストにスイスを加えるよう要請していた。このリストには知財保護に問題があるとされる国が記載されている。米国の著作権者は「ウェブ上で著作権を侵害する人に対して正当な権利を押し通すことができなかった」と主張。「スイスはウェブサイト上で音楽、映画、ビデオゲームの海賊版データを違法にやり取りしているが、そのウェブサイトのサーバー設置場所は米国になっている」と訴える。

トランプ氏は強硬姿勢

 その後、スイスはブラジル、カナダ、トルコなどとともに監視国リストに加えられたが、一部の専門家から疑問の声が上がっている。知財関連情報を提供するスイスの非営利団体「インテレクチュアル・プロパティ・ウォッチ」のオンライン出版物によると、報告書は通常、同代表部と貿易相手国との次年度に向けた協議で議題にされる程度だが、「まれに貿易封鎖になることもある」という。一方、トランプ氏は先月の演説で「大統領権限を駆使して貿易問題にメスを入れる」と強硬な姿勢を示した。

スイスと米国の関係

1700〜2015年の間に約46万人のスイス国民が米国に移住。スイスのルーツを持つ米国人は約100万人いるとみられる。15年時点で米国に居住するスイス人は8万218人。これは在外スイス人全体の約1割にあたる。

両国は外交、法律、人権保護などで共通の価値観を分かち合う「姉妹共和国」として19世紀に友好関係を発展させた。1822年にスイスは米国ワシントンとニューヨークに初の領事館を開いた。60年後、欧州外で初となるスイスの大使館がワシントンに置かれた。

スイスはこれまで数十年間にわたり、国交断絶により外交ルートを持たない国の代理として外交の仲介役を担ってきた。例えばキューバにおける米国、エジプトにおけるイラン、イランにおける米国、グルジアにおけるロシアなど。

ジョン・ケリー米国務長官は今年1月、イランの核問題解決に向けた枠組み合意に関し、スイスが主催国を務めたことに触れ「スイスは複雑な国際問題を解決する役割を積極的に担ってきており、大きな手助けになっている」として感謝の意を表明した。

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(英語からの翻訳・宇田薫 編集・スイスインフォ)

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