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スポットライトを浴びる自動車、その影に隠れる部品製造企業

自動車製造では今日、電子機器の重要性が高まっている Keystone

まぶしいスポットライトの中、世界初公開モデルが一挙に披露されるジュネーブモーターショー。そんな光り輝く舞台からは見えないところで、スイスの技術が最先端の自動車を支えている。

3万4000人もが従事しているスイスの自動車部品製造業だが、その存在はまるで影のようだ。理由を探ってみた。

 「スイスで自動車が完成されることはない。スイスの部品製造会社から調達した部品は、製造工程の途中で自動車に組み入れられるため、表からはほとんど見えない。しかも自動車業界では、アメリカの半導体メーカー『インテル(Intel)』のキャッチフレーズのように『この車の中に我が社の製品が入ってますよ』とは言えない」。そう話すのは、連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ/EPFZ)自動車研究所のアンヤ・シュルツェ氏だ。

 また、部品製造会社と一口に言っても、単純なネジの製造からクランク軸、オートメーション・システム、塗装、ステアリング、ハイテクケーブル、緩衝器、さらには電子部品や各コンポーネントに合わせた特製アルミ部品にいたるまで、その分野は多岐にわたる。

 研究開発を急務とする自動車産業の課題は山積みになっている。燃費向上、排ガス削減、最新駆動技術、ドライバー向けの安全システム(先進安全自動車/ASV技術)の向上、インターネット接続、軽量化など、部品製造会社の研究努力なくしてはどれも達成しがたい。

 例えば車体の軽量化では、重量を減らすだけでなく安定性も従来と同様かそれ以上にすることが大きな課題だ。シュルツェ氏は「軽量化はハイテク分野。研究に研究を重ねる必要がある」と指摘する。スイスの企業はそんなハイテク分野で先頭を走っており、スイスの部品はドイツの高級自動車のほとんどに使われているほか、大衆向け自動車にも使用されることがある。

ぼやけるプロフィール

 スイスの自動車部品製造会社は総計約310社、約3万4000人が働いている。ちなみに時計産業に従事する人は約5万人。労働者の数ではさほど大差がないように見えるが、なぜスイスは自動車部品で注目されず、時計産業だけが目立っているのだろうか?

 シュルツェ氏は「多くの企業は自動車分野以外の製品も作っているからだ。医療用電子工学や紡績機械分野で部品を卸している会社もある」と説明する。そのため、いくつもの分野にまたがりビジネスをしている企業は自動車部品企業と認識されにくいという。

経済危機を乗り越えて

 スイスの自動車部品製造会社には、電子機器や軽量化などのハイテク分野以外にも、安い部品を大量生産して収益を伸ばしている企業も多くあることが、連邦工科大学チューリヒ校・自動車研究所の2008年研究報告で明らかになった。

 「この産業部門が当時どのような状況だったのかを把握したかったが、ドイツ自動車産業連盟(VDA)のような組織はスイスにはなく、あちこちの企業に聞いて回って情報を集めるほか術がなかった」。研究を率いたシュルツ氏は当時を振り返る。

 2000年代後半は、自動車産業も部品製造産業も経済的に厳しい状態にあった。だが、「スイスの部品製造会社は自己資本の割合が比較的に高かったため、危機をうまく乗り越えることができた」。その結果、ほとんどの企業は破たんを逃れ、部品製造産業は全体として安定を保てたという。

 今では注文がひっきりなしに続く。「どうやってシフトを組めば注文に生産が追いつくのかわからないほどだ。こんなに早く、しかもここまで成長できるなんて、誰も予想だにしなかった」

 経済危機を乗り越えられたことは、各社が発表した2011年の業績報告でも分かる。その一つが、ジョージフィッシャー株式会社(George Fischer AG)だ。広報担当のベアート・ローマー氏は「我が社にはコアビジネスは三つあるが、その中でも自動車部品部門は、ほかの2部門よりも成長率が高い」と話す。その理由にローマー氏は、軽量構造の分野で同社が多くの発明をしていることを挙げている。

極東のライバル

 これまでの研究で大量生産品が自動車部品全体の割合を大きく占めることが分かったが、それはスイスの高度な精密技術によるところが大きいとシュルツェ氏は分析する。ただ、スイス製品の価格は極東の競合企業よりも割高で、今後もスイスの企業がこのような高い値段設定を続けられるかは疑問だという。

 またシュルツェ氏は、どの自動車ブランドに自社製品が使用されているのかを知らない企業が多いことを問題視する。「下請け会社が自動車メーカーとじかに取引している場合は問題ない。だが戦略的に危険なのは、ほかの下請け会社にしか製品を卸さない場合だ。卸す製品が電子機器であろうと、ギアであろうと問題は同じ。この場合、企業は誰が大口顧客かを把握していないため、その顧客に何か問題があったときにすぐさま対応できない」

激しい価格競争

 一方で、自動車部品製造産業は今後も高成長を続けると予想する研究報告はいくつもある。その理由には、電子部品の割合が急速に拡大していることや、軽量化以外にもシート素材や塗装の耐摩耗性の向上を求める声が強まっていることが挙げられている。

 ここ数年、自動車業界の競争は激しさを増すばかりだ。各メーカーは絶えずモデル改良を行い、最新技術を取り入れ、しかもコストを抑えなければならない。結果、メーカーはすべての部品を自前で開発・製造することをあきらめ、部品製造会社に委託することになったのである。

デートウィラー(Dätwyler):合成物質

エムス(Ems):エアバック起動装置、塗装

ファインツール(Feintool):金属部品

ジョージフィッシャー(Georg Fischer):鋳金

コマックス(Komax):ケーブル

クオドラント(Quadrant):合成物質

リーター(Rieter):音響装置、断熱材

ザルナ(Sarna):合成物質

シャッファー(Schaffer):精密機械部品

ザウラー(Saurer):ドライブトレーン技術

シカ(Sika):接合技術

ウィコール(Wicor):合成物質

第82回ジュネーブ国際モーターショーは2012年3月8日から18日まで開催。

主催側の予想では70万人が来場。

260社が世界初またはヨーロッパ初のモデルなど計180車種を展示。

七つの専門雑誌が主催し、過去50年間で初めて「カーオブザイヤー」を選ぶ。審査員は59人の自動車ジャーナリスト。

主催側によると、ジュネーブモーターショーはフランクフルト、デトロイト、パリ、東京と並び、最も重要なモーターショーの一つ。

スイスは自動車自体は製造していないため、すべての参加企業に同様の条件を提示し、参加企業には中立な舞台となっている。

(独語からの翻訳・編集、鹿島田芙美)

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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