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チューリヒの最高級のホテル、改築現場の裏話

後方がオリジナル部分、前方がリニューアル部分 swissinfo.ch

スイスに高級ホテルは多い。しかし、2008年に完工予定のドルダー・グランドホテルは、過去に例を見ないほど改築費用をかけた最高級ホテルだ。

改築費用は4億2000万フラン ( 約397億円 )。手がけるのはイギリスの人気建築家、ノーマン・フォスター氏だ。

 腕のある職人が、ひび割れた壁をモルタルでペタペタと塗るとか、何十年もの間に名画の上についてしまった汚れを丁寧にふき取るとか。100年以上も前のホテルをリニューアルすると聞けば、そんな情景が目に浮かぶかもしれない。

一から新しく

 現在、改築作業が進んでいるドルダー・グランドホテルは、今年107歳。あと1年と半年後には、若返った姿で新しい人生を踏み出す。コンクリートの固まりのお化けのような姿から現代的美女に変身だ。

 以前の姿を彷彿とさせるのは、正面に残された特徴ある小塔、りっぱな飾りがついた「石の」ロビー、そして屋根の一部と、一握りの客室のみだ。

 「基本的に全て新しく建て直しました」。スイスインフォの取材に答え、建築現場に案内してくれたドルダー・グラントホテルの最高経営責任者 ( CEO )、ベアット・シック氏は言った。ドルダー・グランドホテルはその歴史的価値を理由に、何年も改築許可が下りなかったのだ。

 チューリヒ州歴史的建築および記念物保存局のペーター・バウムガルトナー氏によると、ドルダー・グランドホテルの今回の改築で、オリジナルの部分はほとんどなくなってしまった。

未来のホテル

 「何年もかけた改築によって、オリジナルの形跡はあるかないか、というほどのものになってしまいました。けれども、現在の建築法では、火事の際のセキュリティ構造や騒音防止の壁などが求められているため、以前にあった物はほとんどすべて取り外し、まったく一から始めなければいけませんでした」

 ホテルを長年支えていた礎さえ撤去されて、その代わりにホテルとスパやレストラン、地下の廊下をつなぐ通路が建設された。

 老朽化したドルダー・グランドホテルを2001年に買収したのは、スイスの裕福な資本家、ウルス・シュヴァルツェンバッハ氏だ。シュヴァルツェンバッハ氏にしても、改築を手がけた英建築家、ノーマン・フォスター氏にしても、オリジナルに忠実にホテルを改修しようとは露ほども考えなかった。

 新しいドルダー・グランドホテルのエネルギー・コンセプトは、「未来的」だ。150メートル地下を調査する地底熱テストを70回も行ったおかげで、このホテルは年間に換算して100万キロワット時間のクリーン・エネルギーを手に入れることができた。これは、ホテルの暖房費の半分に値する。環境に優しい未来のホテルというわけだ。

ふくれ上がる改築費

 マネージング・ディレクターのトーマス・シュミット氏は「今の時代では、有名な建築家と一緒でなければ、こんな大きなプロジェクトを完成することは不可能です。チューリヒ市にとって、これは重要なことです。お役所もこのことはよく分かっています」と言う。

 「誰でも知っているような名前がなければ、何もできません。ドルダー・グランドホテルはフォスター氏がチューリヒで手がける、最初の建築なのですよ。スペインのバレンシアのような小さな街でさえ、ホテルの建設には名のある建築家に頼んでいます」

 名のある建築家を呼んで、話題性を上げ、伝統的なホテルを世界でも指折りのホテルに仕上げる。予算がそれなりにかかるのは当然かもしれない。

 「徹底的な改築」を目指して、フォスター氏が最初に組んだ予算は1億6000万フラン ( 約132億円 ) だった。ところがすぐにもう1億フラン ( 約100億円 ) 必要になった。そして2005年が終わる頃には、改築費の総額は、なんと約2倍の3億フラン ( 約264億円 ) にふくれあがっていた。

 そして今年初旬、シュヴァルツェンバッハ氏は「もう1億フラン ( 約100億円 ) が必要」と発表したのだ。そんなこんなで、最終的に総工費は4億2000万フラン ( 約397億円 ) になる予定だ。

皆をハッピーにするのは至難の技

 飛び交うお金が大きくなればなるほど、名前が有名になればなるほど、ぶつかる問題も増えてくる。ホテルのディレクター、シュミット氏は、宿泊客を迎える前に、まず頑固な建築家や設計士、インテリア・デザイナーや大金持ちのホテル所有者の間を飛び回らなくてはいけなくなった。

 「人は皆、自分の価値観で判断し、そのために戦うものですからね。しかし結局は、我々が求めているのは美術館ではなくて、ホテルだということを経営陣が皆に分からせなければいけないのです」

 このプロジェクトにかかる資金がこれ以上資金がかかるかどうかはまだ明らかではないが、1つ、はっきりしていることがある。全国の建築現場で働く人々が結成している組合によると、彼らが受け取る給与は、満足には程遠いということだ。

 ホテルの建築現場のあちこちには組合のポスターが貼られている。彼らは国中のメンバーの給与を4%上げることを要求している。

swissinfo、デイル・ベヒテル 遊佐弘美 ( ゆさ ひろみ ) 意訳

改築総工費は推定4億2000万フラン ( 約397億円 )。
2008年初旬にリニューアル・オープンが予定されている。
部屋数は174部屋。スパ1つ、レストラン2つ。
テニスコートや9ホールのゴルフ・コースが併設される。
ホテルの部屋からはチューリヒの街やアルプス、湖など絶景が眺められる。

最初にオープンしたのは1899年5月11日。

1907年にゴルフ・コースが併設された。1915年には通年使えるように暖房が設置された。

正面にレストランが入ったのを機に、最初の改築が行われたのは1924年。正面玄関は裏手に移された。

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