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ツール・ド・フランスでビジネスチャンス

アンディ・リース氏は、会議室の中にいるときより、自転車に乗っているときの方が多くの問題を解決できると言う Keystone

スイス人企業家アンディ・リース氏の自転車競技チームが、ツール・ド・フランスに出場することが決定した。これは過去のドーピング問題で野望を打ち砕かれたリース氏の復活を意味する。

 カデル・エバンスやジョージ・ヒンカピーのような大物選手と契約を結んだBMCレーシング・チームの共同所有者リース氏は、レースの主催者との間には何のわだかまりもないと語った。

 リース氏が2000年に創設した自転車競技チーム「フォナック・サイクリング」は、2006年のツール・ド・フランスで優勝を果たした。同チームのアメリカ人選手フロイド・ランディスの壮絶な巻き返しの成功による優勝だったが、その後ドーピング ( 禁止薬物使用 ) 検査でランディスに陽性反応が出た。フォナック社にとっての夢のビジネスチャンスが悪夢に変わった。フォナック・サイクリングの選手がドーピングで摘発されたのはそれが初めてではなかったが、これによってチームは解散を余儀なくされた。

 その後リース氏は新たにチームを立ち上げ、所有企業の一つである高性能の自転車メーカー「BMC」をスポンサーの座に据えた。先週「BMCレーシング・チーム」は、7月に開催されるツール・ド・フランスの主催者推薦出場枠の6枠のうち1枠を獲得し、出場が決定した。

 チューリヒに住む67歳のリース氏は、プロの自転車競技チームの創設はビジネスを立ち上げるようなものだと言う。また、彼はフォナック・サイクリングの解散から何を学んだか、そしてなぜ自転車競技は会議室より素晴らしいのかを語った。

swissinfo.ch : 自転車競技の好不調を間近でご覧になってきましたが、今でもこの競技を信じていますか。

リース : 今日わたしは、プロの自転車競技をスポーツ界における反ドーピングのリーダーだと考えており、深く信頼しています。ほかのスポーツも状況を改善するために、わたしたちから学ぶことができるかもしれません。指を火傷した人は同じことをしないように注意します。以前は、ほかの全てのスポーツの関係者がわたしたちを非難していましたが、今は彼らも黙って己の浄化に努めなければなりません。

swissinfo.ch : 今回は何がちがうのでしょうか。

リース : 4、5年前と比べると医学的な管理システムの面で、状況全てが完全に変わりました。新薬が出てきてもテストで見抜けないというケースを避けるため、製薬業界や実験所は多大な努力をしてきました。今日では、ドーピングが起きても比較的早く摘発できます。

また、大規模な大会に出場する英米の選手が増えてきました。自転車競技は以前より世界的な注目を集めるようになり、世界各国のメディアでも大きく取り扱われるようになりました。ビジネス面でも、より専門的になりつつあります。

swissinfo.ch : あのような不祥事があった後、どのようにして有名な選手を引き抜いたのですか?

リース : わたしは、( ツール・ド・フランスで7回優勝した ) ランス・アームストロングを育成したアメリカ人コーチで、わたしの親しい友人でもあるジム・オコーウィッツと一緒に何年も働いてきました。わたしたちは4年前にカリフォルニアで小さな二軍チームを立ち上げました。チームを結成して、それで出来上がりというわけにはいきません。これは企業のようなもので、育て上げなければならないのです。最終的には、スイスで製造した高性能自転車の販売促進をするためのチームが必要になったのです。

BMCをブランドとして確立することが必要なため、チームを増強しました。現在、わたしたちには、適切な選手を勧誘するための適切な予算があり、BMCは高い評価を得ています。そうでなければカデル・エバンスやジョージ・ヒンカピーのような選手は来ません。これはお金だけの問題ではなく、個人的なものです。

swissinfo.ch : ファビアン・カンチェラーラはどうですか。 スイスと強いつながりを持っているチームならスイス最強の選手を獲得した方がよいのではありませんか。

リース : もちろんです。ファビアン・カンチェラーラは間違いなく素晴らしい、そしてまだ成長段階にある選手です。素晴らしい人間で、わたしたちにとって完璧な選手です。これは明らかです。しかし、ほかのチームとの契約中のため簡単に移籍できない選手が多いのです。

しかし、わたしたちにはエバンスとヒンカピーというアメリカで非常に有名な選手がいます。ランス ( アームストロング ) は誰もが知っていますが、アメリカでは、ヒンカピーのような選手も非常に有名です。アメリカはわたしたちにとって最大級の成長市場の一つです。

swissinfo.ch : 会社経営とプロの自転車競技チームの運営は、どのような相互補完関係にあるのでしょうか?

リース : 自転車競技チームを持っているのは、サイクリングが好きだからではありません。わたしはいつもサイクリングをしていますし、自分にとって良いスポーツだと思います。しかし、これが理由ではありません。自転車の販売を伸ばすという非常に明確なビジネス上の理由からやっているのです。

メディアの側からみると、サイクリングの力は、特に ( 社会的な ) コミュニケーションと( 健康に対する ) 意識という意味で非常に大きなものがあります。現在もサイクリングは手ごろな、そして世界中で行われているスポーツです。ビジネスは非常に面白く、わたしたちは楽しんで行っています。

swissinfo.ch : あなた個人にとってサイクリングとは何ですか。

リース : サイクリングは非常に大きな喜びです。その喜びを体で、そして脳で感じることができます。活動的です。自転車に乗って、走り回って、山を登り、あたりを見回し、そして止まる。こうした知的なこと、一連の流れを経験することができるのです。会議室の中にいるときより、自転車に乗っているときの方がより多くの問題を解決できます。頭の中が本当にクリアーになります。最高経営責任者( CEO ) の多くがこのことを認めています。

トム・ネヴィル 、swissinfo.ch
( 英語からの翻訳、笠原浩美 )

年商10億フラン ( 約877億円) の聴覚ヘルスケア会社「ソノヴァ・ホールディング ( Sonova Holding ) 」の会長。2007年に社名を「フォナック ( Phonak ) 」から変更した。
自身も熱心なサイクリング愛好者のリース氏の指揮下で、フォナック社はツール・ド・フランスに出場したチームのスポンサーを務めていたが、ドーピング疑惑による出場停止処分を受けた後、チームを解散した。
リース氏は、1986年にアメリカ人のボブ・ビゲローが「ラレー ( Raleigh) 」ブランドの自転車の組み立て、卸販売をするために設立した「BMC」を2001年に完全買収した。

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