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ドムレシュク谷、村の年末年始

新年を迎える花火 swissinfo.ch

あっという間に過ぎた12月。私の住むグラウビュンデン州、ドムレシュク谷のシルス村(Sils im Domleschg)では、観光案内書やテレビ番組で紹介され観光客が来るような大きな催し物はない。けれど、村の人々だけであってもクリスマス、新年と春の到来を心待ちにしているのは同じで、あまり予算のない村役場の代わりに村人たちがお互いに場所を提供しあって、日照が少なく暗い冬を楽しもうとしているのが微笑ましい。

 12月に入ると、郵便受けには一枚のアドベント・カレンダーが投じられる。村の「待降窓(Adventsfenster)」の案内だ。それぞれの日にちの所には村に住む家庭の名前が入っている。その宵には、その家庭では窓を美しく電飾して、お茶菓子が振る舞われる。村の住民ならば誰でも行っていい。人々はお茶やワインなどを飲み、軽食やお菓子をつつきながら楽しくお喋りする。そして、23日は牧師の家に集い、24日の夜は教会でミサに参加するのだ。

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 2日間のクリスマスの休日が終わった後も、年明けて1月6日の公現祭の日まで、クリスマスの期間は続いている。この時期には休みを取る人もいるし、そのまま年末まで働く人もいる。新年のお祭りはクリスマスほどには大きくない。グラウビュンデン州では元旦だけがお休みで、出勤は2日からだ。(祝日は州ごとに違う)

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 シルス村をはじめとするドムレシュク谷の多くの村には、1年の最後の日の朝に行う子供たちの伝統行事がある。アロイス・カリジェ(Alois Carigiet)の童話絵本『ウルスリのすず』(Schellen-Ursli)で有名になった祭カランダマルツ(Chalandamarz)のように、子供たちがカウベルを鳴らしながら村をまわるのである。早朝の5時頃には、真っ暗な屋外にカウベルの音が響き出す。彼らは数人ずつに別れては各家庭のドアベルを鳴らす。ドアを開けてもらうと詩を暗唱したり歌ったりして、ご褒美として小さなお菓子などを受け取る。

 大晦日(Silvester)の夜は、大人たちは新年を迎えるために友人同士で集まってパーティをする事も多い。パーティに行かずに、自宅でウィンナーなどを食べながらゆったりとテレビの年末番組などを観ながら過ごすこともある。よく観るのは、大晦日になると必ず放映されるイギリス映画「Dinner for one」。90歳の誕生日迎えたミス・ソフィーと、全て亡くなってしまった彼女のボーイフレンドたちの代わりにお酒を飲んで酔っぱらう執事ジェームスによる18分ほどの短い白黒のコメディスケッチである。「ところで、去年と同じで?(The same procedure as last year, Miss Sophie?)」と訊くジェームスに「毎年と同じよ(The same procedure as every year, James)」と答えるミス・ソフィーの会話が、毎年大晦日に繰り返される。ドイツ語圏で放映されているにもかかわらず、字幕も何もなく英語で流れるのだが、観る人は毎年観ているので、セリフもおぼえてしまっているようだ。かくいう私も、毎年楽しみにしている。

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 そうこうしているうちに夜は更け、新年の瞬間には小さな村でも村役場の用意した花火が上がる。テレビをつければ、ヨーロッパの各都市の見事な花火をウィンナ・ワルツの音楽を聴きながら観る事が出来る。除夜の鐘が響く静かな年越しに慣れていた私も、スイスで迎える年末年始が10回を過ぎ、シャンペン・グラスを重ねて派手な花火の音ともに迎える新年が好きになってきた。その晩の夜更かしのため、ゆっくりと朝寝をする新年の朝は、とても静かだ。

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 今年はじめてこのブログを書く事になった私ですが、こうして無事に一年最後の記事を書き終える事ができました。また来年も、少しでもスイス生活の魅力が伝わるように書いていきたいと思っています。来年もどうぞよろしくお願いいたします。みなさま、どうぞよいお年をお迎えください。

ソリーヴァ江口葵

東京都出身。2001年よりグラウビュンデン州ドムレシュク谷のシルス村に在住。夫と二人暮らしで、職業はプログラマー。趣味は旅行と音楽鑑賞。自然が好きで、静かな田舎の村暮らしを楽しんでいます。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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