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ビッグデータ 雇用主に監視されていたら?あなたは平気?

街頭の監視カメラと人の眼が映し出されたスクリーン

アクセンチュア社が2018年に行った調査によると、業績や福祉の向上につながるならば自分のデータを集められても構わないと考えるスイスの労働者は全体の88%だった

(Keystone / Mark Lennihan)

あなたの気分や、同性の同僚とどれくらい上手くやっているか、来月辞めてしまう可能性はどの程度あるかといったことを判断するために、雇用主があなたのクリック、歩数、会話、トイレ休憩などをいちいち記録していたとしたらどうだろう?近年、職場におけるこのようなデータ分析が世界中の多くの業界において行われるようになってきている。この新しい波はスイスにも押し寄せ、信頼とプライバシーの文化が根強いこの国で、難しい問題を提起している。 

ルツェルン大学のある職員が最近、自分の机の下に赤外線カメラが設置されているのを発見した。大学側は、新しいキャンパスを建てる前に部屋ごとの使用率をモニタリングするためのセンサーだと主張したが、一部の職員は、監視されているという不安を拭い去ることができなかった。 

人工知能(AI)、機械学習、ビッグデータのおかげで、10年前の人事部には空想でしかなかったようなことが可能になっている。しかし、こういった技術には賛否両論ある。 

従業員を監視できるようになったという現実は、スイスの企業や、特に大きな多国籍企業にとって魅力的だ。そう話すのは、ザンクト・ガレン大学で、スイスの職場におけるいわゆる「データフィケーション(訳注:さまざまなものやことをデジタルデータ化すること)」技術の研究他のサイトへを行うプロジェクトのリーダー、アントワネット・ヴァイベル教授他のサイトへだ。

infographic
(swissinfo.ch)

法的な限界 

今秋発表される予定のヴァイベルさんの研究では、スイスの160社の企業を対象に調査を行った。その結果、データフィケーションに基づいた人事システムを21%の企業が求人・採用に利用し、61%が人材の引き留め・キャリア移行に、38%がオフィスのデザインに、37%が業績管理に、18%がコンプライアンスのために活用していることがわかった。 

直接的な比較ではないが、これらの割合は米国の数字に比べるとずっと低い。ある調査によると、アメリカでは推定80%の企業が社員の電子メール、インターネット、電話の使用状況をモニタリングしているという。これは1997年には35%だった。 

理由の一部は、スイスの労働法およびデータ保護法他のサイトへの方が制約が多いことだとヴァイベルさんは説明する。 

「企業はより許容範囲の広いアメリカのような他の市場で新しいツールを試すことが多い」 

チューリヒに拠点を置く法律事務所ヴァルター・ヴィスのデータ保護を専門とする弁護士ダフィット・ヴァセラさんは、スイスにおけるデータ収集には2つの基本的ルールがあると話す。「1つ目は、個人データを処理する時には透明性を確保すること。つまり、企業はどんなデータを集めているのかを知らせなければならない」 

「2つ目は、不必要なデータを集めないこと。データ収集には正当な利益がなければならない」

≫ビッグデータに関する他のスイスの研究プロジェクトとは?

具体的には、雇用主は業績に関する目的で従業員をモニタリングすることができるが、そのようなモニタリングは継続的に行うことはできず、また休憩室やトイレといったプライバシーに関わる場所で行ってはいけないということを意味する。また雇用主は、モニタリングを行うということを従業員に知らせなければならない。ただし犯罪行為が疑われる場合はこの限りではない。 

スイスの職場での実際のモニタリングのほとんどはコンプライアンスの分野で行われているとヴァイベルさんは話す。ここには、インサイダー取引やセクシュアル・ハラスメントのリスクを探知することも含まれる。データマイニングや機械学習、AIを用い、テキストを徹底的に吟味して心の状態や仕事への満足度を調べる感情分析のような高度な技術を利用している企業は数社にとどまった。 

不透明な部分が多い

全体的に、スイスでは多くの非ヨーロッパ諸国よりもプライバシー関連の法的保護が手厚い。それでも、企業は正当な利益があるという主張のもとにお咎めなしに大規模なモニタリングを行える可能性がある。ヴァセラさんは、「正当な利益という概念はどのようにでも解釈できる。まだ不透明な部分が多い」という。 

働き方が柔軟になり、プライベートと仕事の境界が曖昧になりつつある今、このことは特にあてはまる。また、私用機器を職場に持ち込んで仕事に使うことを許可したり、仕事用の電話やプラットホームを私的な連絡に利用することを認めたりする企業が増えている。 

どんなデータが集められているかだけが問題ではないとヴァイベルさんは言う。「どのようにデータが集められているか、どのように行動が分析されているか、そして、結果がどのように利用されているのかが問題だ」 

従業員の監視を批判する人々は、カメラやSNSでの活動から集められた情報、または埋め込まれた無線自動識別チップから集められた情報は悪用される可能性があると指摘する。例えば、個人的な考え方を理由とした差別などが行われる恐れがある。また、常にモニタリングされているという感覚が従業員の健康に悪影響を及ぼすという研究もある。 

欧州人権裁判所は2017年、あるルーマニア人エンジニアが会社のアカウントで性的健康についてのメッセージを婚約者とやり取りしたことを理由に解雇された件で、このエンジニアの私生活への権利が守られなかったという判決を下し、ヨーロッパ全域に先例を作った。判決文には、雇用主が「職場における私的な社会生活を完全になくすことはできない。たとえ必要最低限まで制限されるとしても、私生活と通信のプライバシーの尊重は存在し続ける」と述べられている。

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疑念を避けるには 

スイス最大の電気通信企業スイスコムの人事賞罰・分析チームを率いるダグマー・フレセニアスさんによると、 同チームが職場のデータ分析を行う際には、会社の規則により必ずビジネス上の問題の解決を目的としたものでなければならないという。 

「例えば、売り上げを上げるにはどうすればいいか、常習欠勤をなくすにはどうすればいいか、離職者が多いのはなぜか、といった問題だ。当社では手あたり次第にデータを集め、それから何らかの事実を見つけ出すようなことはしない」 

またフレセニアスさんは、スイスコムは非現実的な仮説を追究することもないと述べる。「例えば、女性は男性よりも良い販売員であるという仮説を立てることもできる。しかし経営陣は男性を女性に変えることはできないし、女性しか雇わないということもできない。それでは差別になる。だから、ジェンダーに関するデータを集める理由はない」

雇用主はどこで線引きをすべきか?

ザンクト・ガレン大の研究の著者の一人であるイザベル・エベルトさんによると、雇用主にとってどこで線引きをすべきかについては、倫理と従業員および世間一般が許容するかどうかによるところが大きくなってきているという。

チューリヒの弁護士ヴァセラさんも同意する。

「リスクの観点から言えば、企業はもっと全体像を見るべきだ。従業員に対してどのような立場をとりたいのかを考えなければならない。法的には許されても社会的には容認されないこともある」

従業員がモニタリングの明らかな利点を理解することも助けになるとフレセニアスさんは言う。

「モニタリングによって、例えば反復作業が避けられるなど、働く側にもプラスになるのであれば、従業員もその価値を認めるだろう」

コンサルティング企業アクセンチュアが2018年に行った調査他のサイトへによると、業績や福祉の向上につながったり、他の個人的な恩恵が受けられたりするならば、自分のデータを集められても構わないと考えるスイスの労働者は全体の88%だった。世界的な平均は89%だ。 

しかし、技術によって働きやすさが増すとしても、すべての人が賛成するわけではない。スイスコムが4年前に、どのような共同作業がストレスを増加させるかを調べるためにビッグデータを使った調査を行った際、依頼を受けた従業員の約半数が参加を断ったという。 

携帯電話や電子メールの情報のような私的なデータも含まれていたため、フレセニアスさんはこのことに驚きはしなかった。 

貴重な信頼

個別にプライバシーに関する懸念はあっても、スイスの従業員は基本的に雇用主を信頼している。スイスは、企業に対する信頼レベルに関しては常に上位に位置する。

スイスのイタリア語圏ティチーノ州で働く技術者のパオロ・アッティヴィッシモさんは、この信頼は企業にとってモニタリングを試行する可能性を開きうると話す。「従業員は、会社が自分たちを敬意をもって扱ってくれると信頼している。新技術はスイスでは受け入れられやすいかもしれない。なぜなら、会社側が正直に何をしているか話すはずだという信頼があるからだ。他の国ではもっと疑いの目で見られるかもしれない」 

しかしこれは、その信頼が崩れてしまった場合に失うものが多いことも意味する。従業員の一挙手一投足をモニタリングするとその従業員の士気を損ない、チーム内や社内での疑念につながるとする研究もある。アクセンチュア社の調査では、スイスの半数以上の労働者が、新技術で得られる職場データの利用により信頼が損なわれる危険があると考えていることがわかった。

誰を信じますか?

2019年のエデルマン・トラストバロメーター他のサイトへによると、世界的に、人々は自分の雇用主を他のどのような組織・団体よりも信頼している。75%の人は、「自分の雇用主」が正しいことを行うはずだと信頼していた。NGO(非政府組織)(57%)、企業(56%)、メディア(47%)と比べてかなり高い数字だ。

スイスコムの人事分析調査に参加した4000人以上の従業員のうち、まだ誰からも苦情は来ていないとフレセニアスさんは言う。どのようなデータを何のために集めるかについて包み隠さず知らせることと、労働組合と協力することが、信頼を維持するために非常に重要だと考えている。 

ザンクト・ガレン大学のヴァイベルさんは、従業員監視が今後どうなっていくかを決定するのは議会だけでなく、各企業の人事部が自由に使える技術をどのように利用し、法律の抜け穴にどのように対応していくかも影響するだろうと話す。 

「正しいやり方をする企業ばかりではないだろう」 

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(英語からの翻訳・西田英恵)

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