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フリブールのサンタクロースはバイリンガル

ニコラス聖人はロバに乗って従者を連れ、天からフリブールの子供達に会いに来る。 lyoba.ch

12月に入るとフリブールの住人の井戸端会議の話題は一つ。「今年の聖ニコラスの説教」だ。何故なら、街の守護聖人であるニコラスは毎年、聖人祭りの日に天から従者を連れ、ロバで舞い降り、町人に会いに来る。そして、子供達にはご褒美のお菓子(ビスコーム)を配り、大人には説教をする。聖ニコラスは他でもない、サンタクロースの元祖である。

「ニコラス祭の日は家で一日中寝ている!」と言い張るのはフリブール出身、オリビエ・パショ氏(37)の5歳の息子。何故なら、今年悪い子にしていた子供達は聖ニコラスの従者「鞭叩き親父」(Pere Fouettard)に叩かれるから。フリブールの子供達は今でも聖ニコラスの従者が怖い。それでも、従者は毎年、子供を叩くよりもお菓子配りに忙しそうなのだが…

フリブール一の大切な祭り

 「聖ニコラ(仏語)はフリブールをよく理解している。説教もちゃんと二ヶ国語でしてくれるから」と語るのはフリブール出身のマルタン・ルダース氏(28)。ドイツ語圏、フランス語圏の境に位置するフリブールは河を跨いで2カ国語を共有する。フリブール出身者はこの日に合わせて皆、帰郷する。大切な祭りだからだ。カソリックの伝統が強く残っているのだ。フリブールの街を散歩すると教会の多さ、修道院の数に驚く。世界各地から勉強に訪れる僧侶も多い。  

 聖ニコラスを見たい人は日暮れに旧市街を歩けば、ニコラス聖人御一行が松明を灯し、ロバに乗って大聖堂に向かうのが見えるはず。人込みで見えなかったら鼓笛隊が聞こえ、聖ニコラスの白い高僧服の輝きと、頭上の長細い司教冠だけでも見えるはず。ニコラスの従者は手に枝の鞭を持ち、黒い服に顔も黒く塗っているから子供達が怖がるのも無理はない。

新聞にも載る説教

 さて、必ず町人の話題になる演説だが、毎年、今年の出来事を振り返り、街の市政、スイスの政治、世界の事件をユーモアを交えて語らなければならない。「ブッシュ批判が甘かったのでは」とか「しゃべり方がいまひとつ」など演説後の話題はそれに尽きるという。前述のマルタン氏は「その日の家族の集いで “去年のほうが良かった”とかお祖父さんが説教の分析をするのが面白かった」と語る。次の日の地元新聞「ラリベルテ」に演説の要旨が載るというから、演説も相当のレベルでなければならない。

 フリブール出身のマリー・ショべさん(50)は「毎年、父と12月の6日の夜には聖ニコラスのロバのために外にバケツに水と粟を置いた。次の朝、きちんと無くなっていて、代わりに子供達用にミカンやナッツが置いてあった」と幼年時代の思い出を語ってくれた。

聖ニコラスの正体は?

 巷では聖ニコラスの正体は実は仏語圏側にあるサン・ミッシェル学院(中、高校)の生徒の中から選ばれるとの噂もある。これは、1906年に同校の生徒が冗談で聖ニコラの真似をして説教したのが大うけして以来、同校の生徒がこれを続ける伝統が定着した。もちろん、そんな無信仰な!と信じない村人も多いが、聖ニコラ選抜は真剣なもので朗読が上手で背が高く、ドイツ語もできるなどの項目をクリアした候補者が毎年クラスで選ばれるという。今年の聖ニコラ紹介といった記事も地元新聞に載り、演説内容は秘密厳守、演説用に俳優からの訓練なども受けるとマルタン氏は内緒を耳打ちしてくれた。でも、こんなスクープはフリブール人には禁物だ。

サンタクロースになったわけ

 聖ニコラスの日は欧州各地で祝われるが、もとは4世紀に生きた小アジアの都市、ミラ(現トルコ)の司教で中世からは子供達の守護聖人として慕われてきた。熱湯に落ちた赤ん坊を生き返らせたとか肉屋に殺されそうになった子供3人を救ったなど奇跡の数も多く語られる聖人だからだ。16世紀の宗教改革以後、多くのプロテスタント国でこの聖人祭りが禁止された。ところが、この古い習慣をオランダ人移民がアメリカにもたらした。オランダ語の聖人名シンタクラース(Sinterklaas)がサンタクロース(Santa Claus)になったという。当初は米国でも12月6日に祝われていたが、キリスト教徒団体が「子供の祭りと幼児イエスの祭りを一緒に」と日にちを変えたという。

 サンタクロースすなわち、聖ニコラスが驢馬でなくトナカイに乗って煙突から侵入して来るようになったのは米国詩人、クレメント・クラーク・ムーアの詩(「クリスマスの前夜」と親しまれているが題は「聖ニコラスの来訪」)の仕業だとか。この詩は1823年の12月23日、ニューヨークのセンチネル新聞に初めて載せられた。このムーアの詩上の人物が本物、聖ニコラスを上回るようになり現在のサンタのイメージに到る。詩人の想像が聖人をも変えたということか。


スイス国際放送、屋山明乃(ややまあけの)

‐フリブールの聖ニコラス祭は12月の第一土曜日。欧州各地では聖ニコラスの日は聖人が殉死した12月6日。

‐フリブールのニコラス祭ではこの日、日が暮れるとニコラス聖人一団が松明を灯して聖ニコラ大聖堂に向かう。

‐聖堂前のノートルダム広場で聖ニコラスは村人が待ちに待った毎年恒例の説教をする。説教はもちろん、住民に合わせ、フランス語とドイツ語両方。

‐聖ニコラスは子供の守護聖人でいい子にはご褒美を配り、悪い子には従者の「鞭叩き親父」が鞭を打つといわていれる。

‐聖ニコラス行列はサン・ミッシェル学院からカテドラルまで。午後5時から始まる。当日は朝からクリスマス市がたち、食べ物屋台で賑わっている。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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