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ブログ「もっと知りたい!スイス生活」


つい寄り道したくなる……愛すべき路地裏の世界@バーゼル(後半)


(前回からの続き)階段の中でもとりわけ狭く、たいして長くもない、それでいて名前だけはやたらと長い階段の道が、ライン川付近にある。「1万1000人の処女の小道」(Elftausendjungfern-Gässlein)という、なんとも謎に満ちた名前だ。

大学に近いので、腰かけてランチをとる学生の姿が多く見られる。この階段を登りきるとやや期待外れの感があるが、左手にあるのは聖マルティン教会(ただし入り口は反対側) (swissinfo.ch)

大学に近いので、腰かけてランチをとる学生の姿が多く見られる。この階段を登りきるとやや期待外れの感があるが、左手にあるのは聖マルティン教会(ただし入り口は反対側)

(swissinfo.ch)

 この1万1000人という数字は、聖女ウルスラの伝説に由来する。さかのぼること5世紀、ローマへの巡礼の途中で、ウルスラの侍女たちがバーゼルに立ち寄った。この狭い階段を登ってマーティン教会へと向かい、祈りを捧げたという。

 こういった細い道は、大通り同士をつなぐ近道という役目がある。地元の人々は、便宜上そこを通行する場合がほとんど。しかし、私のような路地マニアも確かに存在する。その証拠に、ネットで検索をすると、道の名前の由来や歴史など詳しい解説を載せたホームページがいくつか見つかる。

ホイベルク(Heuberg)、直訳すると「干し草の山」。かつてここに納屋や家畜小屋が軒を連ねたことを思わせる。現在は有名なホテル&レストラン「トイフェルホフ(Teufelhof)」など美しい建物が並び、なんとも心地よく歩ける道 (swissinfo.ch)

ホイベルク(Heuberg)、直訳すると「干し草の山」。かつてここに納屋や家畜小屋が軒を連ねたことを思わせる。現在は有名なホテル&レストラン「トイフェルホフ(Teufelhof)」など美しい建物が並び、なんとも心地よく歩ける道

(swissinfo.ch)

 これらは表通りに対する裏通り、いうなれば路地裏だ。建物の窓から中を覗けば、レストランの厨房が見えたり、オフィスで働く人々が間近に見えたりする。表向きでない、飾らない生活の一部。覗いては悪い場合ももちろんあるが、たいていは路地に通行人および観光客がいるという前提で、あえてその視線を意識したり、見られても大丈夫なように対応したりしているケースが多いと思われる。

 インバーゲスライン(Imbergässlein)という名の階段にある「ホーゼザックミュージアム(Hoosesaggmuseum」は、バーゼルで最小の博物館。いや、世界最小とまで言われている。というのは、ディスプレイした個人所有のコレクションを窓から覗き込むというスタイルで、入館のできない博物館だからだ。

インバーゲスライン(Imbergässlein)。「インバー」は、古い言葉で「生姜」の意。かつてこの辺りは、スパイスを扱う店が並んでいたという。ミュージアムのほかにも古本屋やアンティークなど、興味深い店が並ぶ (swissinfo.ch)

インバーゲスライン(Imbergässlein)。「インバー」は、古い言葉で「生姜」の意。かつてこの辺りは、スパイスを扱う店が並んでいたという。ミュージアムのほかにも古本屋やアンティークなど、興味深い店が並ぶ

(swissinfo.ch)
生姜通りの角を曲がると、今度は「胡椒通り」。こんな狭い道に、なんと「レプムリア王国領事館」との表示が!実は、あるクリッケ(カーニバルのグループ)のいたずらで、そんな王国は実在しないのだった (swissinfo.ch)

生姜通りの角を曲がると、今度は「胡椒通り」。こんな狭い道に、なんと「レプムリア王国領事館」との表示が!実は、あるクリッケ(カーニバルのグループ)のいたずらで、そんな王国は実在しないのだった

(swissinfo.ch)

 これらの狭い路地は、なぜこんなに居心地がいいのだろう。やはり車両の通行が禁止されているからではないかと思う。旧市街のほとんどが、歩行者天国である(自転車は通行できる)。

 いくら街並みが古くて立派でも、スクーターが騒音をとどろかせ行き交っていては、おちおち散歩もしていられない。特に街中において、エンジンの騒音が耳に入らない、路上駐車も目に入らないというのは、ウォーキングの快適度を大きく左右するといえるだろう。

商店への搬入車は、平日午前5時~11時の徐行のみ許可されている。とはいえ路地に停車したトラックは、道をふさぐ上に雰囲気をこわしてしまう。午前中の散策なら、11時以降がおすすめ (swissinfo.ch)

商店への搬入車は、平日午前5時~11時の徐行のみ許可されている。とはいえ路地に停車したトラックは、道をふさぐ上に雰囲気をこわしてしまう。午前中の散策なら、11時以降がおすすめ

(swissinfo.ch)

 またこういった路地は、たいてい悪臭がするか、ゴミや犬の糞が落ちていると決まっているものだが、バーゼルでそういったことはまずない。壁の落書きさえ、非常に少ない。静かだが、かといって人通りがまったくないのではなく、一人、二人とすれ違い、話し声もはっきり聞き取れる空気がある。挨拶さえもらえたりする。とにかく清潔で安全、歩行者はリュックサックをわざわざ前にかけ直す必要もない。夜間も危険のない程度に照らしてくれる。

 中心街の狭い路地を、女性が一人でこれほど気持ちよく歩ける街は、特にヨーロッパにおいて、やはり珍しいのではないかと思う。バーゼルが自慢できることのひとつに、この「治安のよさ」がある。

マルティンスガッセ(Martinsgasse)。マルクト広場の裏通りで、バーゼル市庁舎の裏庭(戸籍課のオフィス)に入ることができる。中央の建物は青い家と白い家(Das Blaue & das Weisse Haus)、かつてはシルク加工工場の事務所だった (swissinfo.ch)

マルティンスガッセ(Martinsgasse)。マルクト広場の裏通りで、バーゼル市庁舎の裏庭(戸籍課のオフィス)に入ることができる。中央の建物は青い家と白い家(Das Blaue & das Weisse Haus)、かつてはシルク加工工場の事務所だった

(swissinfo.ch)

 ただし、小バーゼルの繁華街付近にある路地では、夜になると娼婦が立つ(別に危害を加えるわけではないが、ご参考までに)。

 小バーゼルについては、私はまだまだ修行が足りない。雰囲気のよい道をいくつか知っているものの、車道のため、私のウォーキングルートに入っていないのだ。

小バーゼルの美しいエリアは、このクリゲンタル(Kligental)。いずれ、小バーゼルについても書きたいと思っている (swissinfo.ch)

小バーゼルの美しいエリアは、このクリゲンタル(Kligental)。いずれ、小バーゼルについても書きたいと思っている

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  もともとは自然が好きで、田舎派の私が、バーゼルという街の、時には樹木1本さえ見当たらないような風景に、これほど心ひかれるのは一体なぜだろう。

 それはおそらく、建物ひとつひとつに歴史があるから。これらはすべて中世から、オーナー達が思い思いの修復を施しながら、大事に保存してきた。1軒1軒が何やら語りかけてくるようで、そのあたりが、木々に囲まれて森を歩く時と似たような感情をもたらすのだと思う。

前述のホイベルクから、下へと降りて曲がる小道、ウンタラーホイベルク(UntererHeuberg)。ツタやブドウなどに飾られた家の数々を鑑賞できる (swissinfo.ch)

前述のホイベルクから、下へと降りて曲がる小道、ウンタラーホイベルク(UntererHeuberg)。ツタやブドウなどに飾られた家の数々を鑑賞できる

(swissinfo.ch)

 とはいえ、1泊するかしないかの旅行者には、なかなかその点をわかってもらえない。

 歩行者エリアの路地を効率よく回るなら、バーゼル観光局が考案した5つの散策ルートをぜひ参考にしていただきたい。曲がり角に来ると必ず紺色の表示が目に入るので、わかりやすい。地図がなくてもたどれるとは思うが、あらかじめインフォメーションセンターで無料パンフレットを入手するとより確実である(下記のリンク参照)。

バーゼルで最も古いといわれる、騎士通り(Rittergasse)。ここにあるバーゼル市役所の建設課オフィスの庭に、ケルト人の遺跡が残る (swissinfo.ch)

バーゼルで最も古いといわれる、騎士通り(Rittergasse)。ここにあるバーゼル市役所の建設課オフィスの庭に、ケルト人の遺跡が残る

(swissinfo.ch)

 ただし、この5つのルート以外にも、味わい深い路地はまだまだある。地図を片手に自分自身で発見していけば、より楽しさは増す。「…gasse」「…gässlein」などという名前のついた細い道を見つけて、片っ端から歩けばよい。たとえ迷ったとしても狭いバーゼルのこと、必ずどこかへたどり着くから大丈夫。地元の人も、それは親切に教えてくれるはずだ。

平川 郁世

プロフィール:平川 郁世

神奈川県出身。イタリアのペルージャ外国人大学にて、語学と文化を学ぶ。結婚後はスコットランド滞在を経て、2006年末スイスに移住。バーゼル郊外でウォーキングに励み、風光明媚な風景を愛でつつ、この地に住む幸運を噛みしめている。一人娘に翻弄されながらも、日本語で文章を書くことはやめられず、フリーライターとして記事を執筆。2012年、ブログの一部を文芸社より「春香だより―父イタリア人、母日本人、イギリスで生まれ、スイスに育つ娘の【親バカ】育児記録」として出版。



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