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ブログ「もっと知りたい!スイス生活」


スイスの野草を食べる


今のスイスからは想像しがたいが、ほんの少し前までスイスは貧しい国だった。九州ほどの小さな国、その 国土の約7割は耕作に適さない山岳地帯で、しかも天然資源はほとんど無い。それゆえスイス人は傭兵や移民労働者として外貨を稼ぐために国外へ出ざるを得なかった。バチカンのスイス衛兵はその名残だ。

 知り合いの老婦人によると、彼女が幼かった頃はミルクやチーズは売るもので、自分たちが食べるものではなかったという。チューリヒやバーゼルに住む富裕層を除いて、一般に皆ひもじかったのだ。それなら、身近にある 自然の恵みを利用した野草料理文化なるものがさぞかし発達しただろう、と私は想像した。特に私が住む辺りは田舎だから野草料理に詳しい人がいるはず、と探してみたが見つからない。年配の人に 尋ねてみてもほんの僅かな知識しかない。おばぁちゃんの知恵袋は絶滅寸前なのか、それともそんなものは最初からなかったのか、とあきらめかけているところへ、友人が耳寄り情報を持ってきてくれた。植物ガイドと野山を歩き野草料理を作るコースがあるという。これからそこで習った料理を紹介しよう。

 まずは、モロンのブリニと春野草のサラダ(岩ミツバ、ドンテール・カルダミン、スミレ、プリマベーラ・エルベ)。

春野草のサラダ (swissinfo.ch)

春野草のサラダ

(swissinfo.ch)
左: 岩ミツバ 右:モロン (swissinfo.ch)

左: 岩ミツバ 右:モロ

(swissinfo.ch)

 岩ミツバはミツバとセリを合わせたような香りと味。日本で売られているミツバよりずっと香りが良く美味しい。ビタミンA・C、それに鉄も豊富で視力の低下も防いでくれるという素晴らしい野草だが、 庭を浸食する雑草として憎まれている。モロンは和名ハコベ、春の七草の一つだ。

 お次はサルシフィと呼ばれる西洋ゴボウ。根の他に花のつぼみもこうして油炒めにすると美味。

サルシフィの油炒め、サルシフィの花 (swissinfo.ch)

サルシフィの油炒め、サルシフィの花

(swissinfo.ch)

  ホトケノザもあちこちで群生している。ジャガイモと合わせて美味しいスープのできあがり。

ホトケノザのスープ、ホトケノザ (swissinfo.ch)

ホトケノザのスープ、ホトケノザ

(swissinfo.ch)

 西洋イラクサは日本のイラクサ同様葉の裏に 細く鋭いとげがあって、触れると強い痛みを感じる。だから摘むときも料理をするときも手袋をはめて。イラクサは市場でも売られているほどポピュラーな野草で、スープやキッシュにする人が多い。でも香りを楽しむならペストが一番。イラクサにアリエールと呼ばれる英名ガーリック・マスタードの葉、松の実にオリーブ・オイルを混ぜてできあがり。スルスルいくらでもいただけてしまうので、要注意の一品。

イラクサのペスト (swissinfo.ch)

イラクサのペスト

(swissinfo.ch)
イラクサ、アリエール (swissinfo.ch)

イラクサ、アリエール

(swissinfo.ch)

 デザートは紫の小さな花が美しいリエール・テレストルでつくるパナコッタ。 リエール・テレストルの香りの良さは例えようがなく、経験して下さい、としか言えない。誰もが感激する美味しい一品。リエール・テレストルはヨーロッパで古くから薬草として使われ、利尿・消炎・消化作用があるそう。

リエール・テレストルのパナコッタ、リエール・テレストル (swissinfo.ch)

リエール・テレストルのパナコッタ、リエール・テレストル

(swissinfo.ch)

 スイスにも日本にも共通にある野草が結構ありますね。それにしても身近にこんなにたくさん 美味しい食材があるとは驚きでした。季節感があって、無農薬、地産地消ゆえにエコでもある。戸外での野草を摘みは気持ちがいいし、その後の 食事を想像するとなおさら心が弾む。その上、無料!そんな天の恵みを享受せずに、なぜ私達はお金を払って不自然に育てられたF1野菜や漂白剤漬けのサラダを買うのだろう。昔はきっと誰でも持っていた野草料理の智恵が失われつつあるのは何故? と、考えていると唐突に以前中国に行ったときのことを思いだした。

 1980年代中頃の中国は外国人に全面的に開かれておらず、 観光客は都会を中心にした限られた地域にしか入れなかった。当時の中国は今のような大国ではなく、昔のスイスのように貧しかった。そこで都会の店頭に並んでいたのは美しい陶器や竹製品ではなく、キッチュなプラスティック製品の数々だったのである。派手な色のボウルやバケツがスター商品として得意げに店頭に飾られていた。しかも高い。質の良い陶磁器や年代物のウーロン茶より高かった。当時プラスティック製品は中国人にとって豊かさの象徴だったと思う。もしかしたら、スイス人と野草の関係も同じなのだろうか。ヨーロッパ最貧国から、世界で最も豊かな国の一つになって、お金を出して高いものが買えることが豊かさであり幸せで「正しいこと」になったのかも知れない。反面、その辺の野草を食べるなんて、貧しく不幸で「いけないこと」、だから早く忘れたい。そんな思いがあったのだろうか。

麓絵里(ふもとえり)

プロフィール:麓絵里

大阪生まれ、奈良育ち。1990年よりスイス在住。証券会社、新聞社、製薬会社勤務を経て現在、創造性やグループ・インテリジェンスを育てるコーチ、ファシリテーター。コーチング・メンタリング修士(Oxford Brookes University)、PMP (Project Management Professional)、Time to Think Ltd. (UK)  Facilitator. 



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