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ブログ「もっと知りたい!スイス生活」


バーゼルよ、永遠にマイナーであれ~本当は教えたくない、この街の魅力


バーゼルに越してきたのは、8年前のこと。以前イタリアにいた私は、よほどのことがない限り感動しなくなっていた。美しい街ではあるけれど、観光の決定打がない。そう感じたので、バーゼルの紹介記事を依頼されたら、国境に近いという特異性を取り上げて書いたりしていた。

バーゼル駅には、フランス国鉄も乗り入れている。市内のメッセ会場近くには、ドイツ鉄道の駅も (swissinfo.ch)

バーゼル駅には、フランス国鉄も乗り入れている。市内のメッセ会場近くには、ドイツ鉄道の駅も

(swissinfo.ch)

 一見しただけで判断した私の、なんと浅はかだったことか!たとえバーゼルがスイスの端でなく真ん中にあったとしても、私はこの街が好きになっていただろうと、今となっては心から思う。

 「バーゼルフェア」を始めとする、世界規模の見本市。ノバルティスやロシュなど、化学・製薬の大企業。銀行監督のバーゼル委員会。利根川進のバーゼル免疫学研究所。柿谷曜一朗のFCバーゼル。プリンシパル中野綾子のシアターバーゼル……(敬称略)。

シアターにある「カーニバルの噴水」。ティンゲリーの作品。バーゼルの街には至るところに噴水があって飲用できるが、ここの水だけは飲めない (swissinfo.ch)

シアターにある「カーニバルの噴水」。ティンゲリーの作品。バーゼルの街には至るところに噴水があって飲用できるが、ここの水だけは飲めない

(swissinfo.ch)

 そう、日本のメディアに「バーゼル」は過去に何度も登場した。ただ、観光地として脚光を浴びてこなかった(仏・コルマールへ行くついでにどうぞ、という位置づけ)。それはバーゼルに来る用事が既に決まっていて、みんな忙しく、街を見る時間も気力も残っていないからだろう。

 いやしかし、それではあまりにもったいない。せっかくバーゼルに来たのなら、ぜひ観光もしていただきたい。ほかの都市とは、また違った楽しみ方があるのだ。

ドイツの作家へルマン・ヘッセが1年ほど住んでいた家。バーゼル市のシナゴーグ付近にひっそりと残る (swissinfo.ch)

ドイツの作家へルマン・ヘッセが1年ほど住んでいた家。バーゼル市のシナゴーグ付近にひっそりと残る

(swissinfo.ch)

 ではここで、ご存知ない方のために、バーゼルをかけ足でご案内したいと思う。

 観光の目玉のひとつは、マルクト広場。街の中心であるここに、市庁舎「ラートハウス」が堂々と建つ。バーゼル方言で「ロートフース」、赤い建物という意味にもなるのだが、これが数年ごとにぬり直されるだけあって、しっかりした赤系色に仕上がっている。快晴ならば、青空にあざやかに映える。そのコントラストが印象深く、私は好きなのだ。

 しかし人によっては、現代的かつ商業的にも映るらしい。というのも、中庭に入ると壁はいよいよ燃え上がったように赤くなるので(1500年代はじめに建てられた歴史的建築物なのに)。

 この市庁舎に限らず、バーゼルの見どころには、手入れが行き届いているためにかえって味を損ねていると思わせるものが少なくない。たとえば、旧市街の街並み。バーゼルのどこがいいかと聞かれれば、私は迷わず旧市街の路地と答える。15世紀前後の古い建物が今も残るが、随所に見られる塗りたての壁は、あまりにきれいで古い感じがしないと嘆く声も聞く。

 しかし、まさにこの完璧に修復されているところが、バーゼルらしいと私は思う。そして古いまま手つかずの家も隣に並んでいるのだから、そこには徹底した個人主義が見えるという訳だ。

木組みの家と、ゴシック調の家。ぬり直した家と、古いままの家……。不思議に調和した世界 (swissinfo.ch)

木組みの家と、ゴシック調の家。ぬり直した家と、古いままの家……。不思議に調和した世界

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 さて、マルクト広場を出て北東に進むと、ライン川にたどり着く。この豊潤な水をたたえた川と、中世から残る家々、教会がなんとも絵になる風景をつくりだす。

ああ、バーゼル!と胸がいっぱいになる。是非、この川沿いの景観を堪能していただきたい (swissinfo.ch)

ああ、バーゼル!と胸がいっぱいになる。是非、この川沿いの景観を堪能していただきたい

(swissinfo.ch)

 バーゼルのライン川では、ある珍しい体験ができる。川の流れを利用して動かす渡し舟だ。人力さえ使わない。モーターの音もなく静かなので、川のせせらぎの音がじかに耳に入ってくる。

 もはや5本も橋が架かった今も、渡し舟は相変わらず運行を続けている。アンティークでエコな舟が旅行者をひきつけるのはもちろん、地元民も通勤その他に利用するという。

渡し舟。かつて橋が1本しか架かっていなかった頃、市民の足として活躍していた (swissinfo.ch)

渡し舟。かつて橋が1本しか架かっていなかった頃、市民の足として活躍していた

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 さて、ライン川を渡り東へ歩くと、やがてティンゲリー美術館にたどり着く。芸術家ジャン・ティンゲリーは幼少時をバーゼルで過ごした。奇想天外な彼のキネティック・アートは、大人から子どもまで楽しめるミュージアムとなってバーゼルに帰ってきた。

 実はバーゼルは、スイスの中で「文化・芸術の中心地」とされる。約40もの大小さまざまな博物館・美術館を有しているのだ。

 特にバーゼル市立美術館のコレクションは、ゴッホ、ピカソ、シャガール、ゴーギャンetc……バーゼルの美術館の中でも最高峰といえる。ただし今年は全面的な改修工事のため閉館。主な作品は「バーゼル現代美術館」や「バーゼル民族文化博物館」などで鑑賞できる。

 ほかにも個人コレクションとしては例を見ない充実ぶりの「バイエラー財団」、製紙業・印刷業がさかんだった歴史を受け継ぐ「紙の博物館」、テディベア・コレクションは世界最大級の「おもちゃの世界博物館」、現代的デザインと建築が楽しめる「ヴィトラ・デザイン博物館」(ドイツだが、バスでアクセス可能)etc、挙げればきりがない。街を歩けば建築やアートのオブジェをいくつも目にする。まさに芸術文化を愛する人々が集まる街なのである。

紙の博物館。多くのミュージアムが毎月第1日曜日に入場無料となる。また「バーゼルカード」を購入すればほとんどのところで半額になるので、HPまたはインフォメーションで確認を (swissinfo.ch)

紙の博物館。多くのミュージアムが毎月第1日曜日に入場無料となる。また「バーゼルカード」を購入すればほとんどのところで半額になるので、HPまたはインフォメーションで確認を

(swissinfo.ch)

 それでは再び川に戻り、渡し舟で大聖堂へと向かおう。大聖堂はバーゼル観光のもうひとつの目玉で、現在残るものは16世紀に建てられた赤砂岩のゴシック様式である。市庁舎と違って、こちらはぐっと落ち着いた赤茶系。川岸の小高い丘に建ち、遠くからも2本の塔を見ることができる、街のシンボルなのだ。

 時間があるなら是非、塔に登っていただきたい。バーゼルと周辺を俯瞰するのは高層ビルからも可能だが、私は大聖堂を強くおすすめする。意外に緑が多い市内から、遠くはドイツの黒い森まで、360度見渡すことができる。

大聖堂の暗く狭い階段をのぼると、高さ65mの塔の上から、昔ながらの街並みと近代的な建物を同時に見ることができる (swissinfo.ch)

大聖堂の暗く狭い階段をのぼると、高さ65mの塔の上から、昔ながらの街並みと近代的な建物を同時に見ることができる

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 惜しむらくは、東側の工業地帯も視界に入ること。さらに高層ビルも点在する……。経済力に引きつけられ我々移民はここに来たのだから、ただでさえ狭いバーゼルの一画にビジネス街があろうと文句は言えまい……。

 ほかにも、スイス最大規模のカーニバル、スイス最古・最大の動物園、スイス最古のバーゼル大学および付属の植物園、街全体に散在する巨大な教会の数々……。歩くほどに、多くの見どころを発見する。知られざる穴場を独占しているような興奮。女性が一人で歩いても危険のない雰囲気……。バーゼルは、そんな街である。

 他の観光都市を見てきたからこそ、バーゼルの際立った「治安の良さ」を実感する。スイスは比較的安全な国だが、中でもバーゼルは落ち着いた空気がある。何日か滞在して街を歩けば、きっとおわかりいただけると思う。 

――などと書いてから、本当にいいのかと自問する。もしも万が一、バーゼルが観光地化し、ツアー客がどっと押し寄せ、巷に外国語表示があふれ、挙句のはてに治安も悪化したら……。

 いや、その可能性はなきに等しい。バーゼルは言うなれば能ある鷹、「爪を隠す」街だから。

 観光客向けに飾り立てたりしない、人々の素朴な暮らしが見え、なおかつ美しさも落ち着きも、歴史さえも秘めている街……。そんなバーゼルの魅力を、これからもお伝えしていきたい。

 あまり期待しすぎず、気持ちをゆったり持って、この街を歩いてみていただきたい。フレキシブルに寄り道する、その点をどうかお忘れなく。 

 今後バーゼルについては「路地編」、「ミュージアム編」、「カフェ編」、「ライン川編」、「イベント編」……とテーマ別に詳しくご紹介していきたいと考えています。   

平川郁世

プロフィール:平川郁世

神奈川県出身。イタリアのペルージャ外国人大学にて、語学と文化を学ぶ。結婚後はスコットランド滞在を経て、2006年末スイスに移住。バーゼル郊外でウォーキングに励み、風光明媚な風景を愛でつつ、この地に住む幸運を噛みしめている。一人娘に翻弄されながらも、日本語で文章を書くことはやめられず、フリーライターとして記事を執筆。2012年、ブログの一部を文芸社より「春香だより―父イタリア人、母日本人、イギリスで生まれ、スイスに育つ娘の【親バカ】育児記録」として出版。




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