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修道院の町、アインジーデルンのクリスマスマーケット

陽が落ちて暮れゆく空の下のアインジーデルン、荘厳なベネディクト修道院 swissinfo.ch

街を歩けば、輝く夜のイルミネーションが美しい季節になった。今年もクリスマスシーズンの到来だ!スイスでは11月後半頃からクリスマスの直前までの間、各地でクリスマスマーケットが開催される。今回はスイス最大のカトリックの聖地、アインジーデルン(Einsiedeln)で開かれる、幻想的で美しいクリスマスマーケットをご紹介しよう。

 

 アインジーデルンはチューリヒ州とも隣接するシュヴィーツ州にある。ヨーロッパには、「聖ヤコブの道」と呼ばれるキリスト教徒の巡礼のルートがある。これらはスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラを目指してキリスト教徒が辿った巡礼路で、アインジーデルンはそのちょうど中継地となる。現在でもこの町には、敬虔なカトリックの信者達が各地から集まる。町のシンボルと呼べるのが、バロック様式のベネディクト修道院である。過去には幾度かの消失を経て、18世紀に現在の大聖堂が建立された。外観は威風堂々で、数年前に初めてこの地を訪れて目にした時、その壮観な姿に圧倒された。建物の正面広場には聖母マリアを飾ったモニュメントがある。モニュメントは噴水のようになっており、そこから湧き水が流れ出ている。信者達は数カ所から流れ出る聖水を一口ずつ口にするのだという。修道院内部の聖堂は彫刻がほどこされ、天井には美しいフレスコ画が描かれている。大理石の豪華絢爛な装飾が素晴らしい。入り口近くの祭壇には、美しい衣装を身にまとった「黒いマリア像」が幼いキリストを抱き、ひっそりとたたずんでいる。マリア像が黒くなった理由は、ろうそくやランプのススで黒ずんでしまったという説がある。このマリア像の豪華な衣装は数十着あり、年に何度か交換されるのだそうだ。修道院の別棟では、現在も修道僧達が暮らしている。

修道院の内部と黒いマリア像。聖堂内の写真撮影は禁止されているため、ポストカードでのご紹介 swissinfo.ch

 アインジーデルンの駅までは、チューリヒ中央駅から電車で約50分(途中、ヴェーデンスヴィル駅で乗り換えあり)で到着する。アインジーデルンは地元の人達の間では、太陽が降り注ぐ町としても知られている。灰色の空が広がり、曇った日が多い寒い冬の日、人々は青い空と明るい陽の光を求めてこの地を訪れる。知人の話によれば、小高い位置にある町は、周辺の町が雲っていても、ここだけは晴れている事が多いのだそうだ。

深い霧はいったいどこへ消えたのか? ベネディクト修道院の周りには、雲一つない青空が広がっていた swissinfo.ch

 筆者がクリスマスマーケットを訪れたのは12月に入った平日のある日。出かけた当日、チューリヒ湖畔の自宅周辺には朝から深い霧がかかり、遠くの景色も、近くの湖面も見えない程だった。アインジーデルンの町がある対岸の空も、グレーがかった白い雲に覆われ、電車が目的地に近づいても、深い霧に包まれて真っ白だった。しかし、駅に到着する数分前になると突然視界が開け、目を見張るような青空が広がった。知人が話していた、周りがどんなに雲っていても、アンジーデルンは晴れている!という話が記憶に甦り、これがまさにそうなのかと、まるでマジックのような天候の急激な変化に驚かされた。

 アインジーデルンでは、毎年11月末から聖ニコラウスの日(12月6日)までの9日間のみクリスマスマーケットが開かれる。今年は11月28日から12月6日までの開催で、25回目を迎えた。アインジーデルンのマーケットは、中央スイス地方で最大規模のクリスマスマーケットだ。開催の期間が短い事もあり、訪れた日は平日の昼間にも関わらず多くの人々で賑わっていた。スイス大手旅行会社の日本支社に勤務する友人によれば、アインジーデルンのクリスマスマーケットは、彼らが主催する日本からスイスへの冬の旅行の行程にも組み込まれているのだそうだ。

日が暮れるとクリスマスマーケットはライトアップされ、美しく光り輝く swissinfo.ch

 アインジーデルンの駅を降りると、クリスマスマーケット開催中の看板が目に入る。修道院へと向かうハウプトシュトラッセ(中央通り)沿いには、約100本のクリスマスツリーが飾られている。修道院まで続く通りには、130軒近くの屋台が肩を並べており、小さな街全体が一体となってクリスマスマーケットの場へと化す。通常は駅から修道院まで徒歩で10分程。この日は時間をかけてゆっくりと歩いてみた。

アインジーデルンのお菓子屋さんの屋台。地域ごとにそれぞれ異なったタイプのお菓子を味わうのも楽しい! swissinfo.ch

 中央通り沿いから修道院まで、装飾品から伝統的な工芸品や、衣類なども販売される様々な屋台が軒を並べる。中でも特に人気なのは、飲食の屋台のようだ。スイス料理のラクレットや、この地方で作られたソーセージやサラミ、アインジーデルンの特産のお菓子の他、チーズ、彩りの美しいレープクーヘン (独: Lebkuchen=ジンジャー・ブレッド)等の屋台が並ぶ。レープクーヘンには、自分や贈る相手の名前などの他、好きな言葉を希望で入れてもらう事も出来る。

ドイツでお馴染みのレープクーヘンは、スイスでも大人気!クリスマスの時期には欠かせない焼き菓子だ swissinfo.ch
寒いスイスの冬には欠かせないホットワイン。甘くてパンチのきいた味わいが体の芯まで温めてくれる swissinfo.ch

 寒い冬には、スパイスのきいた香辛料を温めて作られたグリューワイン(Glühwein)と呼ばれるホットワインが大人気だ。人ごみの中を緩やかな坂道を登って行くと、青空の下に堂々とそびえ建つベネディクト修道院が見えてきた。修道院に到着すると、まずは中へと入ってみた。聖堂内は外部の喧騒とはうって変わり、静まり返っている。この日も多くの人々が静かに祈りを捧げていた。邪魔にならぬよう、出来るだけ靴音をさせないように注意して歩いた。内部は写真撮影が禁止されている。外にある土産物屋には、内部の様子を撮影したポストカードが販売されている。

この日限りで開催されていたコカコーラのイベント。コーラを片手に持つサンタは、なかなかのインパクトあり! swissinfo.ch

 修道院のすぐ目の前に広がるクロスタープラッツ(修道院前広場)でも、数々の屋台が並んでいる。訪れたこの日は、ちょうどコカコーラとのコラボレーションでスペシャルイベントが開催中で、サンタクロースの絵が描かれた大きなトラックが停車し、人々にコーラやサンタの赤い帽子を無料配布していた。そのすぐ脇では、小さな子供達がサンタクロース(スイスドイツ語圏では『サミクラウス』と呼ぶ)に扮した男性と写真撮影をするのに行列を作っていた。

カメラを向けると優しく微笑んでくれた、スイスのサンタ「サミクラウス」 swissinfo.ch

 晴れてはいるものの、この日の日中の気温は1℃。吐く息は白くとても寒い。無料のコーラも魅力ではあったが、温かいホットワインで冷えきった体を温めた。時間をかけてマーケットを見物しているうちに日が暮れてきた。この時期は夕方4時を過ぎると空は暮れなずみ、辺りは一気に暗くなってゆく。ライトアップされた夜のクリスマスマーケットはとても幻想的だ。日中とはまた異なった雰囲気で、山小屋スタイルの屋台がライトに灯される情景がとても美しい。

華やかな雰囲気が漂う、アインジーデルンの夜のクリスマスマーケット swissinfo.ch

 町の方へと戻ってみると、イルミネーションが光り輝き、灯りに照らし出された夜のクリスマスマーケットは情緒豊かだ。教会から高らかに鳴り響く鐘の音に耳を傾けながら、賑やかなマーケットの傍らに小さく灯ったロウソクの灯を眺めていると、クリスマスの本来の意味を考えさせられたりもする。

賑わう夕刻のハウプトシュトラッセ(中央通り)。陽が落ちると、訪れる人々の数は一層多くなる swissinfo.ch

 この荘厳なベネディクト修道院はカトリック教徒ならずとも、その美しさと魅力に魅せられる事は間違いなさそうだ。9日間だけ開かれるクリスマスマーケットは、一見の価値有りのスイスの冬の風物詩の一つと言えよう。クリスマスまであと2週間程。今年ももうすぐ、人々にとって大切なクリスマスが訪れる。

スミス 香

福岡生まれの福岡育ち。都内の大学へ進学、その後就職し、以降は東京で過ごす。スイス在住12年目。最初の2年間をバーゼルで過ごし、その後は転居して、現在は同じドイツ語圏のチューリヒ州で、日本文化をこよなく愛する英国人の夫と二人暮らし。日本・スイス・英国と3つの文化に囲まれながら、スイスでの生活は現在でもカルチャーショックを感じる日々。趣味は野球観戦、旅行、食べ歩き、美味しいワインを楽しむ事。自身では2009年より、美しいスイスの自然と季節の移り変わり、人々の生活風景を綴る、個人のブログ「スイスの街角から」をチューリヒ湖畔より更新中。

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