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ベジャール・バレエ・ローザンヌ、日本復興を祈り踊る

二つの世界が出会うことに意味がある作品「チェロのため五つのプレリュード」を練習する東京バレエ団の2人
二つの世界が出会うことに意味がある作品「チェロのため五つのプレリュード」を練習する東京バレエ団の2人 swissinfo.ch

「第2の故郷日本の大惨事。復興支援のチャリティー公演は『当然のこと』だった。ただ日程の調整がつかなかっただけ」と、ベジャール・バレエ・ローザンヌ ( BBL ) の芸術監督、ジル・ロマン氏は言う。

このガラが、ローザンヌで明日6月15日に開催される。プログラムも日本人が好きなもの。東京バレエ団から吉岡美佳氏と高橋竜太氏も駆けつけ「パ・ドゥ・ドゥ( 男女2人の踊り) 」 を踊る。11日夜ローザンヌに到着したばかりの2人とロマン氏に話を聞いた

 「その夜たまたま眠れずテレビで観た津波の映像に衝撃を受け、体中に震えがきた。現実なのか非現実なのか分からなかった」とロマン氏は3カ月前を振り返る。30年もの間公演に行った日本。日本文化は自分を大きく成長させてくれた大切で大好きな国。仙台にも公演に行ったことがある。だから「援助するのは当然、自明の理」だった。

 「日本を知らない外国人は経済大国の日本は大丈夫だと思う。しかし、日本を知っていると貧富の差や過疎地の生活が分かる。家を失い避難所で暮らす人々に、僕がせめてできるのは金銭的援助。そのために踊る」と話す。

 師のモーリス・ベジャールが生きていたら、同じことをしただろうと思う。ベジャールは日本人のような生活をしていた。座禅を組み、能、歌舞伎、文楽などに心酔し、これらからインスピレーションを受け創作への糧としていた。

 また東京バレエ団のためにベジャールは「M」や「ザ・カブキ」を創作。東京バレエ団もベジャールの作品を数多く上演するなどお互いの絆は深い。

心のこもった特別プログラム

 「30年近く僕が踊ってきたアダージェット ( Adagietto ) を、日本人はとても気に入ってくれていた。しばらく踊っていないし、ぜひ日本のために、日本を思ってこれを踊りたい。それに、日本人が好むボレロ ( Borelo ) はぜひ入れたいと思った」と、今回のガラのプログラムは日本のために特別選ばれたものだ。

 一方、今まであまり上演されていない新鮮な作品も含まれる。東京バレエ団が2月に公演した、ベジャール振り付けのバッハの曲「チェロのため五つのプレリュード」もそうした中の一つ。これを吉岡氏と高橋氏がバ・ドゥ・ドウで踊る。

 「これは、クラシックのバレリーナにチェロ弾きの男性が恋をするという話。しかし実は、美佳が踊るクラシックと竜太のコンテンポラリーという、いわば二つの動き、二つの世界が出会うことに意味がある作品で、ベジャールの創作の基本を象徴的に表している」とロマン氏は言う。

 こうしたベジャールの原点も示しながら、当日には1994年のベジャールの日本公演を追ったドキュメンタリーも上映され、ベジャールと日本との深い繋がりにも触れる。

みんなが心配

 今回のガラ出演を「まさか ベジャール・バレエ団の人たちと一緒に舞台に立てて、しかもチャリティー公演ができるとは思ってもいなかったので、ありがたい。日本では支援を行う機会がなかなかないので」と東京バレエ団のプランシパル、吉岡氏は言う。

 高橋氏も「チャリティーのガラに参加できるというチャンスをもらったこと自体がとにかくうれしかった」と話す。

 ガラ成立の裏にはベジャールやロマン氏の日本を第2の故郷のよう思う「愛」がもちろんあるが、団員全員の日本を気遣う気持ちも支えになったのではないか。実際たった数カ月ぶりの再会なのに「日本は大丈夫だったか、東京バレエ団はどうなっているのか、みんな心配していたぞと団員の全員から言われた。それがうれしかった」と高橋氏は言う。

バランスの取れた社会に

 ところで、原発事故は収束しておらず、多くの外国人が日本行きを控えているが、ベジャール・バレエ・ローザンヌは日本公演をこれからも続けるのだろうか?

 「当然続ける。日本は完全に私の人生の一部。これからも支援し続ける」というはっきりとした返事がロマン氏から返ってきた。実際フランス国籍の氏は、同国人が震災後直ちに日本を脱出したり、パリ・東京便が欠航になったりしたことを、「利己主義的な恥ずかしい態度だ」と思っている。

 ただ、長期的な視野からはドイツが省エネ・脱原発に舵を切ったように、日本もバランスの取れた省エネ型の社会に転換するよう願っている。実は30年前初めて東京を訪れたとき、「ネオンがギラギラとしたアメリカ型の近代化と消費文化に違和感を感じた。しかし、その裏にしっかりと根付いた伝統があると分かるや日本が大好きになっていった。日本は今後必ずや、良い方向に転換を図るだろう」

 ともあれ、ダンサーとして「今」できることは、日本の復興を祈り踊ること。それは、祈りのために踊るという点において、奉納の踊りという一つの原点に似て、精神力と躍動に満ちたものになることは間違いないようだ。

6月15日開演時間20時。ローザンヌのボーリュウ劇場 ( Théâtre de Beaulieu ) にて。

行き方 :  ローザンヌ駅からバスかタクシーで10分。 10. Avenue de Bergière, 1000 Lausanne

切符 : スイス国有鉄道( SBB/CFF ) 、コープシティ ( Coop City ) 、ポストなどで入手可能。

プログラム : ボレロ ( Boléro ) 、アダージェット ( Adagietto ) 、チェロのため五つのプレリュード (  Preludes pour un Violoncelle  )、ソング・オブ・ハーセルフ ( Song of Herself )

ローザンヌにて

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