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ロカルノ国際映画祭、青山監督作「東京公園」は若者の愛を普段の顔の東京で表現


里信邦子 , ロカルノ


「尾行される妻役の井川遥さん(写真左)は、歩いているだけでみんなを引っ張っていく、そういう存在感を出してくれた」と青山監督。写真右は光司役の三浦春馬 ()

「尾行される妻役の井川遥さん(写真左)は、歩いているだけでみんなを引っ張っていく、そういう存在感を出してくれた」と青山監督。写真右は光司役の三浦春馬

第64回ロカルノ国際映画祭の「国際コンペティション部門」にノミネートされた青山真治監督の「東京公園」はまず8月8日、記者たちに公開され笑いや拍手で迎えられた。

「昨年の秋、陰惨な事件の多かった東京で、その殺伐さを描くのではなく反対に公園などで和む普段の生活の東京を描きたかった」と青山監督。さらに「それには戦後の日本映画で描かれた若者の愛の姿がふさわしいと思った」

 「東京公園」は、カメラマン志望の学生光司(三浦春馬)が、ある歯医者から毎日違う公園を散歩する自分の妻(井川遥)を尾行し写真を撮るよう依頼される。これを契機に光司は心の中に潜んでいた、亡くなった母への想い、義理の姉の美咲(小西真奈美)や幼馴染の富永(榮倉奈々)への想いに気づいていく。その「気づき」を促す、光司を取り巻く女性たち。物語は公園の秋の光や、海の波の響きに彩られ、ゆっくりと流れていく。

 2007年の「サッド ヴァケイション」から4年の空白後創作を再開した、「新しい実験を重ね続ける」といわれる青山監督に表現の意図、技術、そしてフクシマ以降の創作などについて聞いた。

swissinfo.ch : 「東京公園」では何を表現しようとしたのでしょうか。

青山 : 原作の小路幸也作「東京公園」を読んだとき、ぼくが今一番やりたいのは「これだ」ということがまずありました。さらに、昨年いろいろな事件が起こり世の中が殺伐としていた。特に東京秋葉原での通り魔殺人事件以来、昼間でも通りを歩くのが怖くなった人は多い。

それらを描くのではなく、こういう話はやめようというストーリーを描きたかった。こうした恐ろしいこととは無縁の東京があるのだということを確認するような映画を作りたかったのです。

また、普通東京といえば繁華街から(映画を)スタートさせがちですが、僕は反対にいわゆる外国人がトーキョウという言葉からイメージするものを裏切りたかった。実は東京の人は普段でも(緑の多い)住宅街に住み、ときには公園に行く生活をしている。これを東京の一つの側面または「層」と呼ぶなら、この「層」をつないでいくのが、「東京公園」の中では「視線」なのです。

swissinfo.ch : 若者の愛を描きたかったというご発言も読みましたが。

青山 : それは、もっと一歩突込んだ話です。殺伐とした東京を描くのではないとしたら何を描くのか。そのとき、戦後直後の日本映画が思い浮かびました。戦友を失った悲しみや生き残ってしまった戸惑いを抱える帰還兵、夫や恋人を亡くした女性たち。彼らがそうした苦しみを乗り越え、どうやって生きていったのか、それを描いたのが戦後の日本映画だと思うのです。

こうした戦後の映画を現代の日本でやってみたらどうだろうと考えました。戦争で一番傷ついた世代としての若者たちの愛を、この「戦後における愛」を今きちんと描いておきたかった。そこで俳優さんたちには、「東京公園」は戦後の日本映画だと思って演じてくれと初めに言いました。

しかし、撮影は昨年11月に行ったのですが、当初はこのテーマをメタファー(隠喩)として表現していたつもりが、3.11が起きて、リアリティーとなってしまったのです。

swissinfo.ch : その愛の表現の一つかと思いますが、カメラマンの光司と義理の姉の美咲が抱き合うシーンは、一つ一つの動きが2人の愛の形を確かめる感情の「検証」のようで、めったにあるものではない素晴らしい表現です。これは指示された意図的表現ですか。

青山 : 実は「俳優とガチンコする」と言う表現が一番しっくりくるのですが(笑い)、俳優と向かい合い格闘しながら仕事することがある時期から楽しくなり、今回特に俳優さんたちと一緒に表現を模索していくことに重点を置きました。

そこで、この抱き合うシーンですが、演技の指示を出さず2人がどうするのか待った。待って待って、何が出てくるのかと固唾(かたず)を飲んで見守っていた。で、彼らもこの感情が(例えば弟を愛しているが愛してはならないと自分に言いきかせている美咲の感情など)どこに向かうべきかと考えながらやっていた。それが画面にそっくりそのまま映っている。

今までも俳優さんたちと「ガチンコ」していましたが、ベテランのもうできあがった俳優さんたちとやっていて、その高いレベルの演技を利用させてもらっていたという気がします。ところが今回は若い人と模索した。それが今までと違うと言われる理由の一つかもしれません。

swissinfo.ch : 今回、光司は美咲との愛を確かめるため、相手を見つめるのにカメラを使い、また歯医者も妻との和解にカメラを使う。カメラを通じてしか相手を見つめられないということでしょうか。

青山 : それはむしろ、光司にしてみればカメラの奥にいる自分を見てくれ、あるいはカメラの向こう側にいるあなたを見ていますということなのです。相手に面と向かうのにある種の日本的な照れとか恥があると思う。そういう意味で、カメラで相手を見るこの映画は最も日本的な映画かもしれません。

日本人ほどカメラに収める人たちも珍しい。昨日もミラノの空港で、荷物が出てくる様を写真に撮っている日本人を見かけた。何であんなものを撮っているのだろうと・・・カメラに収めることで、そこにいたことを確認しているのだと思いますが。

とにかく「撮られているあなた」に対し、「どうか撮っている私を見てくれ」という感覚で初めて、双方にやり取が成立する。こういうコミュニケーションのあり方をこの作品で描こうとしたのかと思います。

swissinfo.ch : ところでロカルノ映画祭ですが、今回が初めてではないということですが。

青山 : ロカルノ映画祭には最初にショート映画の審査委員として来ました。スイスの映画監督、ダニエル・シュミットに呼ばれ、彼と再会し一緒に食事をした思い出深い場所です。ダニエルが亡くなってからも、ロカルノという言葉を聞くとダニエルのことを思い出す。こうした友情を含めロカルノという所が大好きなのです。

今回、ノミネートされまた来ることができて、するとまるでダニエルと再会できるような気がして嬉しかったですね。世界にはたくさんの映画祭がありますが、ぼくにとっては、一番心が穏やかになれるのがロカルノだと思います。

swissinfo.ch : 最後に、今回福島の原発事故が起き、日本には民主主義が存在していなかったのではと問いたくなるような、いわば大きな転換期にあると思いますが、この状況が監督の今後の創作に影響を与えるとすれば、それはどのようなものでしょうか。

青山 : 福島の原発で露呈したことは多く、まさに日本のデモクラシーが存在したのかを疑うようなことが起こっています。これからは、デモクラシーとは何か、日本人の愛とは何かといったことを描くことにはなるでしょう。

ただ、それを直接的にやるのではなく、この局面ではどうだったか、あの局面ではどうだったかという形で、本当に個人の所に立ち返りながらやっていく物語を作ろうとしています。具体的なことは今は言えませんが・・・

  

そして、これをやらなくてはならないと決意したときに初めて日本の(日本についての)映画作家になったし(今までは、多分日本の映画作家ではなかったと思いますが)、これからもなっていくのだという気がしています。

青山真治監督略歴

1964年北九州市に生まれる。

1995年、地元の門司を舞台にした「Helpless」で長編映画デビュー。

代表作に、第53回カンヌ国際映画祭で「国際批評家連盟賞」と「エキュメニック賞」を受賞した2000年の「EUREKA (ユリイカ)」や2007年の「サッド ヴァケイション」などがある。

また作家としても活躍。2001年の処女作「「EUREKA 」で第14回三島由紀夫賞を受賞し、2005年には「ホテル・クロニクルズ」で第27回野間文芸新人賞候補にノミネートされた。

第64回ロカルノ国際映画祭

スイス、ティチーノ州ロカルノ (Locarno)市で8月3日から13日まで開催。ヨーロッパで最も古い国際映画祭として、また新人監督やまだ知られていない優れた作品を上映することでも有名。
 
カンヌ映画祭などが関係者だけの限られた上映であるのに対し、ロカルノは一般の観客が映画を楽しみ、監督もその反応を肌で感じられるという点でも特色を成す。
 
世界最大級の26mx14mのビッグスクリーンがある広場ピアッツァ・グランデ(Piazza Grande)は、8000人近い観客を収容でき、人気のある作品が上映される。これを「ピアッツァ・グランデ部門」と呼ぶ。今年は20本上映され、そのうち14本がワールド・プレミア。松本人志監督の「さや侍」もここで上映される。
 
 コンペ部門として、メインの「国際コンペティション(International Competition)」、新鋭監督作品のコンペ「新鋭監督コンペティション(Film-makers of the Present Competition )」などがある。
 
今回、「国際コンペティション部門」には20本、そのうち14本がワールド・プレミア。「新鋭監督コンペティション部門」には14本、そのうち9本がワールド・プレミアとしてノミネートされた。「国際コンペティション部門」に今年、青山真治監督と富田克也監督の作品が出品される快挙となった。
 
「国際コンペティション部門」の最優秀作品には「金豹賞」が授与される。2007年に小林政広監督の「愛の予感」が同賞を勝ち取っている。

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