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一括税


外国からの富裕層をゲット、それは世界で広まる競争




F1ドライバーのルイス・ハミルトンは納税を避けるために2012年、スイスからモナコ公国に移った (Keystone)

F1ドライバーのルイス・ハミルトンは納税を避けるために2012年、スイスからモナコ公国に移った

(Keystone)

寛大な税制優遇措置を提供し、裕福な外国人を呼び込もうとする国はスイスだけではない。特に英国とポルトガルはその筆頭だ。税金を少しでも少なく払おうと国外へ転出する納税者をいち早く糾弾するフランスでさえ、金持ちの外国人には色目を使う。スイスでは、11月30日の国民投票でこうした富裕層対象の税制優遇措置「一括税」の廃止が問われる。

 男子テニスの国別対抗戦「デビスカップ」で11月21~23日、スイスは史上2度目となる決勝戦に挑み、フランスと対決する。この対決はスポーツの枠を超えて、独特な政治的様相を帯びそうだ。「租税亡命」をしていたアルノー・クレマン選手率いるフランスチームは、ほぼ確実に、スイスに居住するフランス人選手だけで構成されるだろう。

 外国からの富裕層を対象に支出額に対し課税するスイスの税制優遇措置「一括税」は、フランスのアーティストやスポーツ選手からとても人気がある。だが、その一括税はイニシアチブ「億万長者の税制優遇措置(一括税)にストップを」が提起されたことにより危機にさらされている。両チームの選手が全員スイスに住んでいるという「100%スイス」のデビスカップ決勝戦のわずか1週間後に、一括税廃止の是非を問う国民投票が行われる。

 もしもこの国民投票で、左派の主導してきた、公正な税制を目指す闘いにスイス国民が賛成票を投じた場合、フランスのジョーウィルフリード・ツォンガ選手やリシャール・ガスケ選手、ジル・シモン選手はいったいどの国に避難するのだろうか?「間違いなく英国かポルトガルだろう。この2カ国は国内で営利活動を行わない外国人にとって、現時点ではヨーロッパで最も魅力的な国だ」と話すのは、富裕層の税金問題と国外転居に詳しい税務専門家で弁護士のフィリップ・ケネルさんだ。

英国モデルに類似

 1862年スイスに導入された現行の一括税は、リヒテンシュタインを除けばヨーロッパでは例がない。だが、英国の税制優遇措置が非常によく似ている。「例えばロンドン在住のフランス人俳優は『在留外国人』というステータスがあれば、国外で稼いだ収入を英国に送金しない限りは英国で課税されない。一方で、英国市民と同じように税金を払えば英国でも仕事ができる。この点がスイスの一括税とは異なる」と話すのはスイス最大の経済連合エコノミースイス(economiesuisse)で税制問題を担当するヴァンサン・シモンさんだ。

 英国で税制優遇措置を受けて7年以上になる納税者は、年に一律3万ポンド(約545万円)、12年以上であれば5万ポンドを納めなければならない。この定額の課税制度は、在留外国人に対する批判が英国内で強まったことを受けて2012年に導入された。英国紙ファイナンシャルタイムズによると、英国の在留外国人は12万3千人。一方スイスの一括税納税者は約6千人だ。

 ポルトガルでは、国内で就業しない外国人は10年間税金を免除される。「経済危機真っ只中の2009年に導入されたこのシステムは、年金生活者にとって非常に魅力的だ。ある程度の資産を持った人だけではなく、一般の年金生活者をも引き付けている」とシモンさんは指摘する。

フランスでさえ参入

 ケネルさんはヨーロッパを二つのタイプに分ける。外国人に対して特別なステータスを設ける国と、国籍に関係なく全ての富裕層を対象にした税制優遇措置を設ける国だ。前者にはポルトガル以外にもマルタ、アイルランド、オランダ、オーストリアが、後者にはルクセンブルクを筆頭にイタリア、全ての東欧諸国、ベルギーが入る。

 財産にも資産増加額にも課税しないベルギーは、多くのフランス人にとって税金を少なく納めるための「避難所」となっている。「隣国ベルギーやスイスの特別税制のせいで多くの納税者を失うことになりフランスは怒りを抑えきれない。だがそのフランスでさえ外国人獲得を試みている」とケネルさんは指摘する。「フランスに居住する外国人納税者は、5年間資産への課税を免除される。特に、カタール国籍の外国人を優遇している。カタール人は正式に5年ごとに3年間フランスを離れれば、税金免除を無期限に受けられる」

 全く税金を納めたくない納税者は、アンドラ公国やモナコ公国などの小国まで足を運べばいい。F1ドライバーのルイス・ハミルトンもその一人だ。彼は2012年にスイスを離れ居住費の最も高い国といわれるモナコ公国に移った。

 さらに遠くのバハマやベリーズなどを選択するという手もある。ヨーロッパ以外では、カナダ、米国、モロッコ、香港、シンガポール、イスラエル、中国、日本、タイなども裕福な外国人を呼び込もうと試みている。

スイスにとってそれほど有利でもない一括税

 一括税廃止の推進者は、税制優遇措置をめぐるこれほどの競争の中でもなおスイスに外国人が集まるという事実は、スイスの魅力が税制優遇措置だけにとどまらないからだと主張。一括税が廃止されてもスイスは魅力を損なうことはないという。ローザンヌ大学のマリウス・ブリューハート経済学教授は、2010年に一括税を廃止したチューリヒ州をベースにして、11月30日の国民投票で一括税廃止が決定されれば、一括税納税者の2~5割がスイスを離れるだろうと予測している。

 ブリューハート氏は廃止案に関して中立な立場をとるが、次のように指摘する。「チューリヒでは、反対派が警告していたような(一括税廃止による)結果は起きなかった。裕福な外国人は簡単に転居すると考えがちだが、実際にはそうでもない。スイスには一括税以外にも(裕福な外国人を引き付ける)切り札がある」。生活環境、安定性、安全性、豊かな文化、そして比較的低い一般税率などを持ち合わせるスイスは、外国人にとって魅力的な国だ。

 さらに教授は、論争を呼ぶこの課税制度を廃止することにより、スイスはかえって利益を得るかもしれないとさえ推測する。スイスにとどまる高額納税者が現在よりも多く支払う税金で、転出する納税者による税収減が埋め合わされるだけでなく、一括税廃止による間接的な効果も増大するだろうという。

 「現行の租税制度では、一括納税者はスイス国内での消費を最小限に抑え、国外でぜいたくな出費をしがちだ(一括税は納税者の実際の収入や資産ではなく、スイス国内での支出や生活費に基づいて課税される)。だが、通常課税になればそういった動きもなくなるだろう。最終的には、この一括税はスイスにとってそれほど有利な取引だというわけではないかもしれない」

リストに名を残す

 だが一方で、前出のシモンさんは一括税が廃止されれば、現在その恩恵にあずかっている特別納税者の半数以上が国外に転出するのではないかと懸念している。その理由は「欧州のほとんどの国は外国人の財産には課税しないが、スイス、特にフランス語圏の各州で課税される財産税率はかなり高いものになりかねない」からだ。

 一括納税者と日常的に関わる弁護士のケネルさんは、さらに警戒心を表す。「移転先をスイスかベルギーで迷うとき、スイスアルプスの美しさをとるか、それともパリから1時間20分で着くブリュッセルをとるか、と考える。だが、それは税制優遇措置をとる国のリストにスイスの名がある場合に限る。私のクライアントたちは、優遇措置を求めてスイスにやってきた。彼らは一括税が廃止されれば即刻スイスから出ていくだろう」

金で買える滞在許可?

当初、一括税はスイスで定年後を過ごす裕福な外国人を対象に導入されたものだった。だが人の往来の自由化に関する協定が結ばれ年齢制限がなくなった。自分と家族の生活費を負担できる限り、国内で就業しない欧州出身者は誰でもスイスに居住することができる。

55歳の年齢制限は現在も非欧州出身者に適用される。非欧州出身者は、国内で就業せず、スイスと特別で個人的なつながりを持ち、必要な経済力があればスイスに滞在できる。

「州に多大な税収をもたらす」と考えられる場合には、「許可、滞在、営利活動の実行に関する行政決定」にあるように特例も認められる。これは、2007年に司法警察相を務めていたクリストフ・ブロッハー氏の要請により追加されたものだ。

だが一括税反対派は、これは非欧州出身の「見せかけの失業者」による滞在許可の「買収」のようなものだといって告発している。ちまたを騒がせた例には事欠かない。例えばウズベキスタン大統領の娘ローラ・カリモヴァ氏、カザフスタン大統領の娘ディナラ・クリバエバ氏、ロシアの大富豪ヴィクトル・ヴェクセリベルク氏、最近では元石油王で反政権派のミハイル・ホドルコフスキー氏がいる。

一括税とは?

一括税は、納税者の所得や資産ベースではなく、スイス国内での支出や生活費をベースに課税されるシステム。スイスで就業していない外国人にのみ適用される。

2012年、連邦政府は一括税の適用条件の厳格化を決定。連邦税、州税では最低課税ベースは年間家賃の7倍以上となり、連邦税ではこの優遇措置を申請できるのは年間所得が40万フラン(約471635万円)以上の人に限られる。

例えば、スイスで月額家賃5千フラン相当の不動産を購入した外国人は、算出課税ベース42万スイスフラン(5千x12カ月x7倍)に一般納税者と同じ税率が課せられる。また、自家用車や自家用ジェット機などのその他の支出も課税ベースに加算される。一方財産税の課税ベースは申告所得の最低10倍で、この例の場合は所得420万フランとなる。


(仏語からの翻訳・由比かおり), swissinfo.ch

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