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不法エイリアン、古城から退去を命じられる

エイリアンは美術館の正面玄関のすぐ上に控えている (SF DRS) SFDRS

映画『エイリアン』で世界的に有名になったスイス人アーチストのHRギガー氏。彼の独特な作品は観光地グリュイエールのちょっとした名物になっていたが、市の法律により撤去されることになった。

映画と同じ「エイリアン」は、古城を改築したギガー美術館の正面玄関の上に鎮座していたのだが、市当局はギガー氏にすぐさまこれを取り除くよう、要請した。

 この世界的アーチストが古城を改築して、フランス語圏のグリュイエールに彼の美術館を開いたのは7年前のことだ。それ以来、ここは彼の独創的な(人によっては趣味の悪い)創造物たちのたまり場となっている。オスカーを受賞したエイリアンたちももちろん一緒だ。

寄ってらっしゃい、見てらっしゃい

 この8月、ギガー氏はこの中の一匹を正面玄関の上にくっつけて観光客の呼び込みをさせることにした。毎年グリュイエールを訪れる観光客はかなりの数になるが、美術館のある丘の上まで登ってきてくれる人はそのごく一部だ。
 
 美術館の入場者は一年で4万人ちょっと。ギガー氏は「スポンサーに頼んで屋根の修理代を出してもらいたいのだが、この人数では足りない」とあせっている。何しろ400年前の古城なので、雨漏りを直すといっても莫大な費用がかかる。

 「人目を惹くために、ぜひエイリアンのようなものを置かなくてはいけないのです」とギガー氏はスイス・テレビで語っている。苦情が出ているわけでもないらしい。

 数年前、ギガー氏が同じグリュイエールでエイリアン・ショップを開店した時はちょっとひと悶着あった。隣が老人ホームだったので「あんなのを毎日拝んでいたら悪夢にうなされる」とたびたび苦情が来たのだ。当然、エイリアンはあっという間にお役御免となった。

町の景観侵すべからず

 しかし、今回は違う。誰にも迷惑はかけていないはずだ。しかし市当局は「エイリアンも市の規則には従わなくてはならない」と主張している。地元の法律は景観を守るために、観光ビジネスに対して厳しい項目を設けているのだ。

 グリュイエール市のクリスチャン・ビュサール市長は、「エイリアンを許せば町のお土産ショップも追随して、ありとあらゆる物を飾りだすかもしれない」と懸念している。「ギガー氏は、美術館開館の許可を得た時に、この規則のことを説明されたはずです。彼は分かっていて、無理を言っているのです」
 
 エイリアンに残された猶予時間は短い。「作者自身が取り除かなければ、強硬手段に出なければいけません。願わくば、そのような事態は避けたいものです。なんとか妥協点が見つかるといいのですが」とビュサール市長は言う。

 市当局としても国際的に有名なアーチストと敵対したいわけではない。「私たちは彼の才能を高く評価していますし、いつまでもここに住んで頂きたいと思っています。ただ、ちょっと軌道修正して頂きたいだけなのです」

 美術館としても、エイリアンをできるだけ早く壁から降ろす予定だ。後はエイリアンを地上に降ろす人と、美術館の中に彼が帰る場所を見つけてやる手間だけだそうだ。

swissinfo、スコット・キャッパー 遊佐弘美(ゆさひろみ)意訳

ギガー氏はグラウビュンデン地方のクールで、1940年2月に生まれた。
彼はチューリヒで建築と工業デザインを学んだ。
1966年にインテリアデザイナーとして働き始める。
1978年の『エイリアン』の特殊メイクでギガー氏はオスカーを受賞した。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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