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世界初の木造ビル


坂茂の木造7階建てビル、チューリヒに誕生


里信邦子(さとのぶ くにこ), チューリヒにて


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チューリヒの都心、シール川のほとりに木造の7階建てビル「タメディア新本社」が誕生した。木造でこれほどのオフィスビルは世界でも初めて。日本の建築家、坂茂(ばん しげる)の作品だ。スイスの優れた木造技術のお蔭で生まれたという。タメディアの建物の中で坂さんに聞いた。

スイスの新聞数紙を統合するメディアグループ「タメディア」の本社に入ると、大きな木の柱数本が出迎えてくれ、その堂々とした存在感と優雅さに圧倒される。

入って左手には「中間スペース」と呼ばれる、階段とラウンジの空間がある。ここにも大きな木の柱が密集して並び、まるでどこかの寺院の回廊を思わせる。

スタッフにとっての快適な空間、持続性、低建設費。この三つの条件をタメディアの社長から与えられた。「それには木が適していると考えた。また、これほどスムーズに建設が進んだ例は初めて。それは施工主と意気投合し、スイスの木造エンジニア、ヘルマン・ブルーマーさんと出会えたからだ」と坂さんは話す。

坂さんの初期の仕事の一つに、紙菅(紙でできた管)が使用された「アウヴァ・アアルトの家具展」がある。「わずか数週間の展覧会のために、建築家アアルトのように木をふんだんに使うのはもったいない。たまたま捨てずにとっておいた紙菅を使おうと思った」と坂さんは言う。

この「資源節約」の考えが、坂さんの建築の根底にあるものの一つだ。今回、木が選ばれた理由の一つも、コンクリートなど限りのある資源に比べ、木は唯一再生可能な建材だからだ。

swissinfo.ch : タメディアの建築における新しさとは何でしょうか。

坂茂 : スイスの都心に木造7階建てのビルを作ったことが新しく、木でこれほどの規模のオフィスビルは、スイスのみならず世界でも初めてです。

ただ、スイスでは今までに作られたことがなかっただけで、建築基準法的には全く問題はなく、簡単に許可がでました。日本では無理ですが。

コンクリートや鉄鋼でやる柱の代わりに木を使ったことも新しいのですが、ここで僕がこだわったのは、木でしかできない収まりやディテールです。

普通、(他の建築家は)木の梁(はり)と梁を鉄骨のジョイントで結ぶのですが、それだったら初めから梁そのものも鉄骨でやるのと変わりがない。

また、(長方形で両サイドが円形になった梁を指し)こんな変にまがった形は、木でしかできない。木の加工性のいいところを使って、木と木を組み合わせるディテールを考えているわけです。

実は、木を使った他の建築家の建物は、ほとんどの場合が鉄骨の方がいいようなものを、ただ木に置き換えているだけ。僕はそうはしたくなかった。

それと単純な話、木に囲まれていると気持ちがいいです。最初、タメディアの社長からスタッフにとって働きやすい環境をと頼まれ、自宅のリビングや山小屋にいるような雰囲気を作りたいというので、木を使ったということはあります。

木に囲まれると落ち着くというのは、人間が生まれつき持っている心理的なもの。もともと木造建築のない、例えば中東の人たちとは違うかも知れませんが、スイス人とか日本人とか、木に慣れ親しんでいる人たちにとっては、木造建築の中というのは、すごく落ち着くのだと思います。



swissinfo.ch : 快適と言う意味では、この建物には中間スペースもありますね。

坂 :シール川に面した中間スペースには、ラウンジと階段があります。ラウンジの窓は全開できる。まるで外にいるのと同じです。外気を吸いながら川も眺められる。

空調のきいた密閉されたオフィス空間からジャーナリストたちがここに出て、コンピューターで疲れた頭を休める。心理的にも、エネルギーの節約という意味でも、この空調のない環境というのは重要です。

swissinfo.ch : 先ほどからこれはスイス的な建物だとおっしゃっていますが、その意味は?

坂 : それは、スイスの木造の技術が世界で一番発達していて、それがあったからこそできた建築なので、スイス的と言っているのです。

具体的には、いいエンジニアがいるし、優れた木材の加工製品がスイスでは誕生していたり、木材をコンピューターで3次元的に切る機械があったりとか、そういう意味でスイスは世界一進んでいますね。

swissinfo.ch : スイスの木造エンジニア、ヘルマン・ブルーマーさんに出会えたことが大きいとおっしゃっていますね。

坂 : こんなに私と考え方が近く、気が合いすぐ一緒に働ける人に出会えるなんて思ってもみませんでした。ドイツの木造会社の紹介で、スイスで出会ったのですが。

彼がいなかったら、この建物も、ポンピドーセンター(仏北東部・メッス市のポンピドーセンター分館)もできなかった。僕は頭ではできる。タメデイアの建物も全部デザインしたのは、僕なんですよ。でも、それをちゃんと解析して、作るプロセスを考えるのは彼なんです。

ポンピドー・センターの屋根も、初めはイギリスのエンジニアがやったんですけど、僕のデザイン通りにはできなかった。ところがブルーマーさんに見せたら、「この通りにできるよ」と言ってくれた。

僕にとっても彼にとっても運命的な出会いでした。彼ほどの木造の技術を持った人を利用できる建築家が、今まであまりいなかったんですよね。お互いの潜在力を引き出し合える、ちょうどいいパートナーなのです。

しかも、僕と似ていて仕事が大好き。お金のことなんか全然気にしないで、仕事を始めるんですよ。普通の会社やエンジニアだったら、始める前に契約を結んだり結構ややこしいですが。彼にスケッチを送ると、すぐに答えが返ってきます。仕事が趣味ですね。

来年から着工する、ビール/ビエンヌのスウォッチグループの建物も彼とやります。

swissinfo.ch : 環境的な観点から、木材を使うことの利点は何でしょうか。

坂 :まず、木造は建物を作る時、コンクリートや鉄と比べたら圧倒的に静かですね。

それと、木を切って加工して組み立てるまでの工程と、コンクリートや鉄のそれ(採掘し加工され建築に使われるまでの工程)の平均値を比較すると、木は鉄の3分の1、コンクリートの2分の1の二酸化炭素(CO2)の排気量なのです。当然、木は伐採される前にCO2を吸っているので、その分も考量すると、環境的に重要な材料です。

それから、木だけが再生可能な資源です。コンクリートも鉄も限りある資源。そのうちなくなるわけですから。

さらに、ヨーロッパでは、年間の木の成長率と使っている割合を比べると、使っている率の方が圧倒的に少ない。まだまだ使える量がある。だからちゃんと植林して、それに合わせた量を使っていけばこんなにいい材料はないんですよ。

swissinfo.ch : しかし、木造と聞くと火災は大丈夫かと思ってしまいますが。

坂 : 木は実は燃えにくい材料なのです。もちろん細い木はすぐ燃えますが、太い木材は燃えにくい。

木は燃えると炭化し、その炭化した部分(炭)は不燃材なのです。ですから、今回この建物でも、柱などに4センチぐらいの厚みを余分に付けている。その部分が燃えて炭化し中を守れば、構造に必要な部分は残り、建物は崩れないのです。

swissinfo.ch : 人に愛される建築を目指しているとよくおっしゃっていますが。

坂 : 人に愛されなかったら、建築はパーマネント(永久的)になれません。反対に、テンポラリー(仮設)で作っても、愛されるとパーマネントになるのです。

つまり、コンクリートで作っていようと、商業目的で作るとそれはテンポラリーです。なぜなら、また別の開発業者が買って、崩してまた新しい建物を作るからです。絶対にパーマネントになりえない。

神戸で震災後に壊れた教会をテンポラリーで作りました。実は、教会を建て直す提案をしたら、神父に「そんなものはいらない。教会がなくなって、たき火の周りでミサをし、初めて信者が一つになったから」と言われました。そこでボランティアの学生の援助で、紙菅を使い「紙の教会」を提案しました。今では、町のシンボルになり、テンポラリーでも人に愛されパーマネントになっている。

このタメディアの建物も、愛されれば何百年も持つと思います。木は直しようがあるからです。

坂茂略歴

1957年、東京に生まれる。アメリカのクーパー・ユニオン建築学部卒業。1982~1983年磯崎新アトリエに勤務。1985年、坂茂建築設計を設立。1995~2000年、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のコンサルタント。現在、京都造形芸術大学芸術学部環境デザイン学科教授。

主な作品

カーテンウォールの家(1995)、家具の家(2000)、ハノーバー国際博覧会日本館(2000)、ニコラス・G・ハイエック・センター(2007)、ポンピドーセンター分館(2010)、その他多数。

主な受賞

フランス建築アカデミー ゴールドメダル(2004)、アーノルド・W・ブルーナー記念賞建築部門世界建築賞(2005)、日本建築学会賞作品部門(2009)、フランス芸術文化勲章(2010)、オーギュスト・ペレ賞(2011)、芸術選奨文化部科学大臣賞(2012)、その他多数。

タメディア新本社(Tamedia)概要

ドイツ語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガーなど数紙を統合するメディアグループ「タメディア」のチューリヒ本社ビル。

木造7階建て。

2009年設計申請が行われ、2013年7月オープンした。

設計は日本の建築家、坂茂。

木造エンジニアは、ヘルマン・ブルーマー。

木材加工・製造は、スイスのゴッサウのブルーマー・レーマン(Blumer-Lehmann AG)。

仕事空間の表面積8905m2。480人用の仕事空間。使用された木材2000m3。

なお、同ビルはCO2排出量ゼロ。電気は原発で生産されるものは使用していない。さらに地下水源を利用し、オフィスの温度調整を行っている。

swissinfo.ch



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