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仕事と家庭の両立


スイスの学校、共働き家庭のニーズにいまだ対応しきれず


Isobel Leybold-Johnson, Bern and Zurich


 スイスの小学校は他の国と比べ、共働き家庭のニーズを満たしているとは言いがたい。そのため学校の授業時間の延長や、学童保育サービスを求める声が強まっているが、一部の保守派は学校制度の改革に反対の意を唱えている。

 多くの親たち、とりわけ母親たちにとって、子どもの登校日は慌ただしい一日となる。

 「問題はすでに幼稚園からはじまる。学校の時間割は午前中が基本で、子どもたちは昼食時には帰宅する。午後にも授業がある場合は1時半か2時には学校に戻る。(親が子どもの帰宅時間に合わせて)午前中の4時間に仕事を詰め込み、長い昼食をアレンジするのはほとんど不可能だ」と、ザンクト・ガレン大学経済学教授で、二児の母親でもあるモニカ・ビュートラー氏はそう語る。

 温かい昼食の用意や放課後の面倒を見てもらうなど、親がカバーしきれない部分を埋めるために学童保育サービスを利用する家庭もある。「だが昼食のために友達と離れ、サービス担当者と一緒に学校の外にいくことは、子どもにとってストレスになる」(ビュートラー氏)

 また、祖父母や隣人に協力を求める親もいるが、これも相当上手にやりくりしなければうまくいかない場合があると、ビュートラー氏は言う。

 もう一つの問題はコストだ。平均またはそれ以上の収入がある家庭の場合、学童保育サービスの利用料は一日70フラン(約8500円)がかかる。

 他の国々によくある(学校での昼食を含む)全日制学校は普及していない。公立でこのような学校はスイス全国でおよそ7校しかなく、あとは私立校にあるだけだ。

政府の対策

 スイス政府も対策の必要性は自覚している。今年9月には、児童中心の保育対策に今後8年間で1億フランを追加支出する草案が審議に送られた。政府の支援を通し、これまでの12年間で保育施設4万8千箇所が設立された。今回の案はそれに続くものとなる。

 連邦制をとるスイスでは、教育政策は地方自治体の管轄だ。そのため政府はこの予算を通し、地方自治体が学童保育を拡大し、保育費を下げられるよう支援していく方針だ。

 保育サービスにかかる費用はスイスが世界一高い。政府はこうした保育費の高さが、女性が働きに出なかったり、時短でしか働かなかったりする理由だとしている。

文化的な背景

 スイス育児連盟「キベスイス」のナディーネ・ホッホさんによれば、スイスの学校制度が今のようになった原因には、コストの問題だけではなく、文化的な背景もあるという。

 「子どもたちが家で昼食をとるというのは、父親の給料が十分で、母親がいつも自宅にいて子どもの面倒を見るという戦後の伝統から来ている」(ホッホさん)

 どうして今の社会がこの伝統的なイメージを引きずっているのかは分からないが、「家庭と仕事の両立や男女格差の是正を求める声は高まっている」とホッホさん。また、学校制度が変われば一人っ子や移民の家庭の子どもたちが社会に溶け込みやすくなるメリットもあるという。こうした社会のニーズが、学校制度の改革を後押しするとホッホさんは見る。

 経済的なメリットも大きい。「今後は労働市場で有能な人材が不足する。能力のある母親たちを職場に呼び戻すことは経済的なメリットが大きい」(ホッホさん)

 だが、全日制と学童保育のどちらに力を入れるべきだろうか?スイスは現在、需要の高まりを受けて学童保育サービスの拡大に向かっている。そのため都市部の学童保育は充実しており、特にジュネーブ州とバーゼル・シュタット準州では全国で最も普及率が高い。しかし伝統色の強い農村部では、「子どもに昼食を提供してくれる場が見つかればそれでラッキーだ」(ホッホさん)。

 スイス・フランス語圏においても状況は同じだ。だが、少なくとも三つの州では、親は保育費の3分の1を払い、残りは給料に応じて地元当局と雇用者が分担する。一方ドイツ語圏では親が費用の3分の2から全額を負担する場合が多い。

 だが、最終的には全日制学校が拡大されていくだろうとホッホさんは考える。政治的に全日制を後押しする動きがあるからだ。

反対派

 一方、変化に反対する人たちもいる。例えば、仕事と家庭の両立がしやすくなるよう改善を求めた憲法改正案が提議されたこともあったが、これは13年3月の国民投票で否決された。

 右派の国民党のような保守系政党は、伝統的な家族モデルから社会が離れていくことに反対の立場だ。政府による学童保育への補助金追加について5月に議論が行われた際、こうした政党は「国家による家庭のプライバシーの侵害だ」と批判した。

 「政治的に、これは簡単な問題ではない」と話すのは、連邦州教育部門責任者会議の議長で、バーゼル・シュタット準州の教育部門責任者でもあるクリストフ・アイマン氏だ。

 同氏も、「社会の変化で全日制学校への需要は高まっているが、結局は財政問題に行き着いてしまう」と指摘する。保育施設として機能するにはインフラも人員も持ち合わせていない学校が多いため、投資をしたり、親の財政負担を増やしたりすることを考える必要があるという。

未来への選択

 アイマン氏はまた、選択の自由も大事であり、全日制学校は義務になるべきではないと指摘する。「子どもをいつどれくらい全日制学校に入れさせるかは、家庭が判断するべきだ」(アイマン氏)

 ビュートラー氏は、「昼食は親が負担するべきだが、基本的な学校の授業時間である週5日間の午前8時半から午後4時頃までは無料にするべきだ」と強調。学校に関する規定をもう少しゆるくできれば、授業時間を延長しても自治体に余分なコストはかからないという。だが放課後の学童保育サービスは(多くの国で見られるように)親が負担するべきだとも話す。

 先頭に立って全日制モデルを実際に取り入れてみる学校の登場に、今、大きく期待がかかっている。ビュートラー氏は言う。「すでに多くの都市でイニシアチブが行われている。一般市民と政治家が、(全日制学校が)うまくいくと分かれば、社会はいずれこの方向に動いていくはずだ。そのための時間は必要だが」

ヨーロッパ諸国の小学校比較

フランス:週4.5日。授業時間は1日5.5時間。登校時間は午前8時から9時、下校時間は午後4時から5時。昼食は最低1時間30分(自宅あるいは学校にて)。

ドイツ:授業時間は午前7時30分ないしは8時30分から、11時30分ないしは午後1時30分まで。昼食は通常自宅。州は現在、学童保育を拡大中。一部の小学校では開校時間が決まっている(通常午後2時まで)。2012年では49.5%の公立、私立の学校が全日制。

イタリア:学童保育は自治体が担う。学校は、学童保育なし・午前中の授業のみの24時間制、または、食堂の利用および学童保育サービスを含めた最大40時間制を提供する。オプションとして、学童保育・昼食・午後の授業を組み合わせた27時間制あるいは30時間制もある。

英国:授業時間は午前9時から午後3時30分ないしは4時まで。昼食時間は1時間。学校は補習授業や課外活動のために開校時間を延長できる。2014年には64%の小学校で授業開始前に、70%の学校で放課後に学童保育サービスを提供。

出典:Euridyce(欧州委員会)


(英語からの翻訳・矢野正人 編集・スイスインフォ), swissinfo.ch

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