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写真が作る友情の架け橋

「写真家グループ・日本のために」表紙にも用いられているこの写真は、ダニエル・ロペス撮影。 swissinfo.ch

明けましておめでとうございます。本年もスイスインフォ「もっと知りたい!スイス生活」をどうぞよろしくお願いいたします。

 沖縄在住のスイス人で、ダニエル・ロペス(Daniel López)という名の写真家、映画監督がいる。彼はジュラ州ボンフォル(Bonfol)村のスペイン移民の家庭に育った。縁あって沖縄県立芸術大学・大学院で学んだ彼は、四年前から沖縄のアーティスト達をヨーロッパに連れてきて活動の場を与え、展示やコンサートなどのイベントを通じて日本・沖縄文化を紹介している。二年前のSwissinfo内の記事でも紹介されているが、ジュラと沖縄、この遠く離れた二つの地域には共通点がある。中心から外れた存在、しかし人と人との距離が近く温かい関係が築けるということだ。さらに付け加えれば、小さい地域ながら、芸術各分野に関する関心が非常に高く、数多くのアーティストを輩出していることも似通っている。

 ダニエルと知り合ったお蔭で、私は沖縄とジュラの両地で、芸術に関わる様々な人間に出会うことができた。その一人が、ダニエルの恩師、沖縄芸術大学・美術工芸学部教授の仲本賢(まさる)先生。仲本先生は2008年と2010年にポラントリュイを訪れ、ギャラリー・ドゥ・ソバージュ(Galerie du Sauvage)の一角を写真館として借り、来場者達を連日のように撮り続けた。そのうち、2008年の写真は那覇市の栄町商店街の人々のポートレートと共に、「栄町-ポラントリュイ肖像写真集」として出版された。

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「今回の滞在は一週間と短いけど、三つの目的がある」と、2012年11月初旬にポラントリュイ入りした仲本先生は言った。一つは、二年前、四年前と同様、ギャラリーを訪れる人達の写真を撮ること。もう一つは、この春出版されたばかりの写真集「メルカトル・パノラマ」のプロモーション。「メルカトル・パノラマ」というのは、先生が三十年間世界各地を訪れた際に360度自分で回転して撮った風景写真を、地理で誰もが習った「メルカトル図法」で表現したものである。最後に、来年か再来年、スイスで発表予定の企画の準備である。

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「人看板計画、という題です」・・・よくよく聞いてみると、それはシンプルながらも壮大な計画だった。この企画の第一回目は沖縄の佐敷町(現在は他の村々と合併し、南城市)にて10年前に行われた。まず、人々が働く現場に行き、その人の職業がよく分かるような格好で全身写真を撮る。その写真をスクリーンに投影し、木の板で形を取り、白く塗る。これで、等身大の真っ白な「人看板」の出来上がり。それを200体作り、収穫が終わった花畑に立て、二ヶ月間「展示」した。面白いことに、同じように見える白い人の形も、本人とその人に親しい人・・・家族や友人は分かるそうだ。畑には、連日、関係者、そして通りすがりの人までもが立ち寄り、記念撮影をしていたそうだ。これと同じことをヨーロッパでやりたいという構想を練り、まずは、何度も来ているスイス・ジュラ州の中でも自分の愛弟子の故郷で、来瑞の度に滞在して愛着があるアジョワ(Ajoie)地方(ポラントリュイを中心とする地域)で始めるという考えに至った。仲本先生の作品コンセプトは「パブリックアート」、参加型アートだという。作品展示をきっかけに人々をその地域に呼び込むことで活気付け、また同時に、地元の人々にも自分達の町の良さを再発見して欲しいとメッセージを発信する。私は好奇心から、ある質問をしてみた。「その人看板に落書きはされなかったのですか?」スイスでは、都市・田舎にかかわらず、建物への落書きや公共物破壊が年々深刻化しているからだ。しかし、沖縄の佐敷町では「まったくなかった」という羨ましさ。アジョワ地方のどこで「人看板計画・スイス版」が実行されるかはまだ未定だが、願わくば、佐敷町と同様、クリーンで素朴な楽しさに満ちたものであって欲しい。

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 そしてもう一人、ダニエルを通じてその友人であり写真家でもある女性との出会いがあった。マリー・フリゾ(Marie Flizot)さんである。人と人との距離が近いジュラは、沖縄同様、友達の友達は皆、友達、世界に広げよう・・・と、友達の輪が容易に広がっていく。マリーさんは、去年7月の自転車レース、ツール・ド・フランス第8ステージのスタート地となったベルフォール(Belfort)在住だ。正にそのステージのゴール地、ポラントリュイで半年後に写真展を開くことになろうとは夢にも思わなかったに違いない。

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 マリーさんは、ダニエル本人に会う前に、彼の作品に出会っている。2010年11月、彼女は共通の友人の案内で、前述のギャラリー・ドゥ・ソバージュに、沖縄展を見に行った。その時、残念ながら既にダニエルは沖縄に戻っていたが、作品に非常に興味を持ったマリーさんは、彼と話してみたいと強く思い、まずはメールで連絡を取り合うことになった。そして、2011年3月11日。東日本大震災にショックを受けたマリーさんは、大好きな日本のために何かできないかと、インターネットを介してダニエルと話し合った。そして、日本を愛するフランス語圏の友人の作品を集めて写真集を出版し、その収益で東日本復興の手伝いとなる資金作りをすることに決めた。ダニエルを含むスイス人二人、マリーさんを含むフランス人六人からなるそのグループは、非営利団体の協会を作り、「Photographes pour le Japon」(写真家グループ・日本のために)と名付けた。協会は、敢えて、大震災の写真ではなく日本の美しい写真を収めた写真集を同年6月に出版した。同書と写真の売上金を東日本大震災遺児育英資金「もも・かき育英会」へ寄付する所存である。「もも・かき育英会」は、建築家安藤忠雄氏を実行委員長とし、合計8名の発起人からなる。寄付の申し込み方法や活動報告などは、ホームページをご覧いただきたい。注)一部のフランス語ページには日本赤十字社への寄付と書いてあるが、現在は「もも・かき育英会」のみへ寄付を行っている。

「日本のために」は、既に、マリーさんの地元ベルフォール、そしてパリ、ブザンソンで写真展を開いた。そして、2013年2月1日から16日まで、ポラントリュイのMusée de l’Hôtel-Dieu(旧病院博物館)地下での展示会が決定した。この期間、毎日15~18時まで開館しており、私は週末に会場にいる予定である。ポラントリュイを訪れる際は、是非お立ち寄りいただきたい。

マルキ明子

大阪生まれ。イギリス語学留学を経て1993年よりスイス・ジュラ州ポラントリュイ市に在住。スイス人の夫と二人の娘の、四人家族。ポラントリュイガイド協会所属。2003年以降、「ラ・ヴィ・アン・ローズ」など、ジュラを舞台にした小説三作を発表し、執筆活動を始める。趣味は読書、音楽鑑賞。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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