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南スイスの街 ルガーノ

湖畔に臨む街の公園 swissinfo.ch

私が暮らす南スイスのルガーノは、北ヨーロッパの人々が太陽を求めてやってくる湖畔のリゾート地です。アルプス山脈の南側にあり、かの文豪へルマン・ヘッセが愛し、生涯のほとんどを過ごした場所でもあります。人々はイタリア語を話し、明るい日差しの中に亜熱帯の花が咲く——こんなスイスもあるんだ、そんな発見のある街です。

 私はいま、スイスのほぼ南端にあるルガーノという街に暮らしています。数キロ先はすぐイタリアとの国境で、チューリヒやバーゼルといったスイスの主要な都市からは遠く、むしろイタリアのミラノの方が近い場所にあります。

 たとえばルガーノからチューリヒまでは約210km、高速道路を使っても車で2時間半はかかりますが、ミラノまでは約80km、1時間ほどで行ける距離です。

公園には、湖を眺めながらリラックスできるベンチが並べられています swissinfo.ch

 スイスの26州のうち、ルガーノは南スイスのティチーノ州に属しています。ティチーノ州はスイスでも少し特別な地域で、ここの暮らしについて話すとき、「ティチーノではね」と、ほかの州とは区別する前置きがよく使われます。

 北部スイスがドイツやフランスなどに接し、ドイツ語やフランス語を話しているのに対して、イタリアに面しているティチーノ州は、スイスで唯一、公用語がイタリア語の州です。

 さまざまな文化や習慣もイタリアと共通しているものが多く、祝日や学校の休日などもほかの州と違います。

夏のルガーノ。湖畔に作られた浜辺のそばには大きなプールもあります swissinfo.ch

 人の気質もイタリア的だといわれていて、明るくおおらかで、細かいことにあまりこだわらない人が多いと感じます。外国から来た私からみれば、生真面目なスイス人らしいと思う面もあるのですが、北部スイスから来た友人たちは、ティチーノの調子にはちょっと面食らう、と言います。

ヘルマン・ヘッセが眠る墓地の教会 swissinfo.ch

 確かに、バカンスまであと数日だからと語学学校が休みになってしまったとか 、バスの運転手が音楽をかけて歌いながら運行していたとか(すべての学校やバスがそうではありません)。ちょっとびっくりすることはありますが、困っていると誰彼となく親身に助けてくれたり、お礼をすると恥ずかしそうに照れたりと、人情に厚く、素朴なティチーノの人が私は好きです。

 ティチーノ州は、中世にイタリアのヴィスコンティ家に支配されていた歴史があります。また地理的にも、アルプス山脈が中央スイスとティチーノ州を分断するように連なっていて、おのずと人の気質や文化などが、ほかの地域とは少し違うものになったのだと思います。

 そんな独特な背景のあるルガーノですが、北ヨーロッパでは人気のリゾート地として知られています。

 周辺は湖水地方ともいわれ、東からコモ湖、ルガーノ湖、マッジョーレ湖という3つの大きな湖が隣り合うように並んでいて、どこへ行っても美しい景色が広がっています。

カフェやレストランが軒を連ねる坂道 swissinfo.ch

 ルガーノはけして大きな街ではありませんが、中心には瀟洒(しょうしゃ)なホテルやブランド店、カジノ、カフェなどが並び、湖畔のリゾートらしい雰囲気が漂います。ジェラートを食べながらウィンドーショッピングをしたり、湖を眺めながらエスプレッソを飲んだりと、気持ちよく過ごせる場所があちこちにあるのが、この街に暮らす楽しみでもあります。

 意外ではありますが、ルガーノの気候は東京とあまり変わらないか、やや低い程度で、スイスにありながら温暖な地域です。日本のような四季があり、季節ごとに咲く花が楽しめます。

 雪はほとんど降らず、今のように最も寒い時期は頭がきんとするほど冷える日もありますが、そう長い期間ではありません。夏場の平均気温は28〜30度くらいで、暑い日には35度を超えることもあります。

 都市から離れていることもあり、ルガーノに住んでいる日本人は少なく、わが家のように家族全員が日本人であると、珍しがられるほどです。日本人向けのお店はありませんし、日本食が食べたければ、手に入る範囲の材料で手作りしなくてはいけません。

ブランド通り。カルティエやヴィトンなどが並びます swissinfo.ch

 日本人が珍しいためか、よく現地の方に「ルガーノの生活はどう?」と聞かれます。日本からルガーノに来て2年。正直なところ、ここでの生活は驚いたり不便に感じたりすることの連続です。

 洗濯機は基本的に個人の住居に置くことができず、マンションの共同洗濯機、それも週1回しか使えないとか、コンビニはなく、日曜日はほとんどのお店が閉まってしまうとか。でもそれは、私に柔軟さが足りないだけで、不便と思う方がおかしいのかもしれないし……いつも曖昧に言葉を濁してしまいます。

 以前は驚きに目を丸くして学校から帰って来た子どもたちも、最近では「それって、ここの人にしたら変だよ」とアドバイス(?)をしてくれます。はっきりした感情表現を避けることや、おじぎのような日本人特有の動きをすることは、思春期の子どもにすればかっこ悪いのかもしれません。

 あっという間に順応できる子どもの柔軟性は羨しいと思いますが、少しくらい変だと思われても、日本人らしい感情や表現など、たいせつにしていきたいものもあります。

 それに、それらも個性として、おおらかなこの街の人なら楽しんで受け入れてくれる気がします。

奥山久美子


神奈川県生まれ、福岡県育ち。都内の大学を卒業後、料理や栄養学を扱う出版社に就職。雑誌、書籍の編集業務に携わる。夫の転職に伴い、2012年からイタリア語圏ティチーノ州に住む。日本人の夫、思春期の息子2人の4人家族(+日本から連れてきた猫1匹)。趣味は旅行、読書、美味しいものを見つけること。

 

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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