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外国人労働者


移民数制限案可決で高まる雇用の不安


マシュー・アレン


9日に行われた国民投票の結果に反応するスイス企業連盟のハインツ・カラー会長と政治家のウルス・シュヴァラー氏 (Keystone)

9日に行われた国民投票の結果に反応するスイス企業連盟のハインツ・カラー会長と政治家のウルス・シュヴァラー氏

(Keystone)

スイスで9日に行われた国民投票で、欧州連合(EU)からの労働者受け入れ人数制限案が可決された。労働組合と経済学者はともに、その結果としてスイス経済は何万人もの雇用を失う可能性があると警告を発している。

 スイスはEUとの間で、労働者の自由な移動を含む包括的な2者間協定(第1次2者間協定)を結んでいる。スイス政府は今回の投票結果を受け、労働者の自由な移動に関してEUと今後交渉することになる。だがEUは、労働者の自由な移動に関する取り決めをスイスが破棄するのならば、第1次2者間協定そのものを取り消すとしている。

 スイス労働組合連合(SGB/USS)は、EUが他の2者間協定を破棄するという報復手段に出れば、労働者に大きな打撃を与えることになると危惧している。クレディ・スイス銀行の予測では、先行き不透明という「毒」がスイスへの投資に歯止めをかけるため、今後3年間に創出される雇用は8万件減少すると見られる。これは、3年という期間で通常創出される雇用数の半分だ。

 スイス政府は今回の投票結果を受け、EUからの外国人労働者の流入を押しとどめる措置を3年以内に実施しなければならない。どのような措置かは未定。

 クレディ・スイスのオリバー・アドラー経済研究部長は、将来が不安定な場合、企業は投資を控えると話す。「スイスでの事業拡大や新製品発売を考えている企業は、そのまま実行するか、プロジェクトを別の国に移すか、単に延期するか、再考を迫られるだろう」

 労働組合連盟は、EUから報復があった場合には、スイスの輸出産業に「重大な影響」が及び、「何万もの職が危険にさらされる」可能性があると警告する。EUはスイスにとって最大の貿易相手であり、2012年のスイスの輸出総額の56%を占めた。

 「2者間協定のうち非常に重要なものに、全EU加盟国との貿易をスイス企業に許可するという協定がある。この協定が今、危うい状態にある」と、連盟のダニエル・ランパート書記長。「この協定がなければ、企業は国ごとに貿易許可申請をしなければならない」

 連盟はまた、賃金の安いEU出身労働者の大量流入によって起こるスイスの賃金下落に対抗する手段としては、今回の投票は適切ではないと主張する。そうではなく、賃金を保護するための現行施策をしっかりと実施し、足りないところは最低賃金で補うべきという考えだ。

スイスの労働人口

全労働人口 485万人

スイス国籍保持者 341万人

外国籍保持者 144万人

(出典 連邦統計局 2013年第3四半期)

「恐怖を煽っているだけ」

 しかし、移民問題を投票にかけた右派の国民党によれば、そのような議論は、国民の現実を理解していない人々が「いたずらに恐怖を煽っているだけ」だ。

 「スイスがEU加盟を否決した1992年にも同じ論法が使われたのを思い出す」と、国民党の経済広報担当者ハンス・カウフマン氏は言う。そして、92年以降、スイスとEUの貿易関係は強まったと付け加える。

 「EUが今回の投票への反応として他の2者間協定を破棄するようなことがあれば、EUのためにもならない」。カウフマン氏はその例として特に、EUの貨物がスイスアルプスを越えてトラック輸送されることを許可する陸路運送の取り決めを挙げる。

 しかし、不安の多くは、スイスの外国人労働者の多さに由来している。

 スイスの銀行300行の行員の4分の1がEU出身であり、スイスの医薬品業界、化学業界、バイオテクノロジー業界の被雇用者の約45%が外国人だ。

 スイス銀行家協会が出した声明には、「雇用可能な熟練労働者の母数が今後小さくなることを危惧している。銀行にとって、十分な訓練を受けた人材の確保がより難しくなる可能性がある」と述べられている。

解決策

 スイス雇用主連盟のバレンティン・フォクト会長は、高度な技能を有する労働者がスイスに入ってこなくなる可能性があると警鐘を鳴らす。

 「9月には人数制限をするぞと言うような国に誰が来たいと思うだろうか?」と、フォクト会長はドイツ語圏の日刊紙NZZに語った。「その上、一人で来なければならない。家族は、2年後に呼び寄せられるかもしれない。そんな条件では、私ならスイスに来たくない」

 スイスの医薬品大手ノバルティスは、「(当社の)成功は、能力のある労働力が安定して確保できる点によるところが大きい」と述べた。

 「現在極めて重要なのは、移民定数制をどのような形で実施するかということと、それによる2者間協定への悪影響をできるだけ回避するということだ。私たちは、ビジネスの中心地スイスの受ける被害を抑えるため、寛大な解釈を求めてできる限りの努力をする」と、ノバルティス・スイスのパスカル・ブレンアイゼン社長は話す。

 国民党のカウフマン氏は、企業が限られた数の外国人労働者をめぐって毎年競り合う定数競売制などの施策を提案している。その他、高い資格や職業経験を持つ外国人だけを受け入れるためのポイント制の導入案もある。

 また、一時的労働者のための社会保険制度を別に創設することで、外国人失業者を支える負担も減るだろうとカウフマン氏は付け加える。

良い評判を取り戻す

 スイス企業連盟「エコノミースイス(economiesuisse)」は、政府の導入する新しい施策が、手続きの煩雑さや事務作業の増加以上の悪影響を及ぼさないことを願っている。

 しかし、ビジネスを行う場所としてのスイスの評判には傷がついてしまったため、それを回復しなければならないと、連盟は主張する。「スイスは国際的なビジネス界に対して悪いメッセージを送っている。ビジネスのしやすい環境というスイスのイメージを守ることが、今、絶対に必要だ」

 スイス企業連盟は昨年8月後半の年次会合において、悪影響を及ぼす可能性のある国民投票が2013年の年初から続いていることを嘆いた。例えば、移民制限に関する今回の投票の他に、昨年行われた企業役員の報酬制限に関する国民投票や、5月に行われる予定の最低賃金に関する国民投票がある。

 ちなみに、年間の移民数を人口の0.2%以下に抑えることを要求する「エコポップ(Ecopop)」イニシアチブが提案されているが、国民投票の実施日は、まだ決まっていない。

スイス・EU2者間協定

スイスはこれまで欧州連合(EU)との間に、1972年の自由貿易協定などの取り決めを補完する16の主要な2者間協定を結んでいる。

EUの労働者の自由な移動に関する協定は、他の六つの合意とともに、1999年に締結された(第1次2者間協定)。

この包括協定には、そのうち一つでも破られれば全ての協定を無効にすることができる、いわゆる「ギロチン条項」が含まれていた。

現在危機に瀕しているこの協定は、農業から運輸、研究、財の貿易までさまざまな部門を網羅している。

第1次2者間協定では、スイスの輸出業者がEUの全加盟国と貿易をすることが認められている。これにより、各国に輸出許可を申請する際の時間とお金が省ける。

また、スイス企業はEU拠点の企業と同じくらい容易に大型調達契約に入札できる。

さらに、農業に関する取り決めでは、チーズ、果物、野菜、肉、ワインなどさまざまな品の関税が引き下げられている。

民間航空に関する取り決めもあり、EU域内で商業運航を行うスイスの航空会社に平等な条件が与えられている。


(英語からの翻訳・編集 西田英恵), swissinfo.ch



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