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外国人犯罪者の国外追放強化案


国民発議は権力分立を弱めるか?




国民党は外国人犯罪者の国外追放強化案の成立に必要な署名数を集め、2012年12月28日、連邦内閣事務局にそれを提出した (Keystone)

国民党は外国人犯罪者の国外追放強化案の成立に必要な署名数を集め、2012年12月28日、連邦内閣事務局にそれを提出した

(Keystone)

故意の殺害や重大な性犯罪を犯した外国人犯罪者を国外追放するという提案が国民投票で可決されたのは今から5年前。提案が文言通りに実施されていないとの理由から、同案を提出した右派の国民党が新たな案を提出。現在、連邦議会で議論が繰り広げられている。

 これは「圧力」か、「直接民主制の悪用」か、「権力分立の空洞化」か、それとも連邦内閣が言うように単に「不要」なものなのか?国民党が新たに発議した国外追放強化案に対し、各方面から批判が上がっている。これは同党の狙い通りに外国人犯罪者を国外追放することを目的にした憲法改正案(国民発議)だ。

 この案は、2010年に国民投票で可決された外国人犯罪者の国外追放案を補強する内容となっている。10年の案は国民投票後、正式な憲法の条項となった。国民党はしかし、政府や連邦議会はその条項をなかなか運用してこなかったと批判。そこで同党幹部らは12年、「可決された憲法条項が正しく運用されなかったり、(条項の趣旨と反する形で)運用されたりする場合はどうすればよいのだろうか?」との問いを立てたと、トーニ・ブルンナー党首は説明する。

 連邦議会が運用をためらっていたのには理由がある。迫害など身の危険がある国に外国人を送還してはならないという国際法にこの条項が抵触する可能性があるからだ。

 ブルンナー党首によれば、憲法条項を国民党の望むように実施する方法の一つが、新たな国民発議を行うことだった。そこで提案されたのが今回の外国人犯罪者の国外追放強化案だ。同案には国外追放にあたる犯罪が列挙してあり、同案は国民投票で可決後、連邦法としてそのまま実施されることになっている。

 この強化案が必要数の署名を集めて成立したのが13年(成立後、政府・連邦議会で議論され、国民投票での可決を得れば正式な憲法条項となる)。だが連邦議会はその間も10年に可決された国外追放案の実施について議論を重ねた。そして今年3月、国民議会(下院)は「強制送還により著しく不当な立場に置かれる外国人犯罪者にはこの措置を行わない」という例外を追加する形で、同案の実施を承認した。

スイスの直接参政制度

国民発議(イニシアティブ)

国民発議では、憲法改正案を提案することができる。国民発議を成立させるには、有効署名10万筆を申請後18カ月以内に連邦内閣事務局に提出しなければならない。提案はその後、政府および連邦議会で議論される。政府および連邦議会は、提案に賛成するか、反対するか、対案を出すかどうかを判断する。いずれの場合も、提案は国民投票にかけられる。国民投票で可決された提案は憲法の条文に制定される。連邦議会はそれを実施するための法整備を行う。

レファレンダム

連邦議会が承認した法律の是非を国民投票で決める制度を、任意的レファレンダムという。法律の公布後、国民は100日以内に5万人分の有効署名を連邦内閣事務局に提出すれば成立する。ちなみに強制的レファレンダムは、連邦議会が憲法改正を行う際、自動的に国民投票でその是非を問う制度。

新しい手法

 「連邦議会の決議を無効または強化しようとする点において、(国外追放強化案は)新しい手法だ」と、政治学者のマルク・ビュールマンさんは話す。「こうした目的を果たす手段には、かつてはレファレンダム(議会で可決された法律に対し、必要数の署名を集めれば国民投票でその是非が決められる制度)が用いられたものだ。今回の提案は強いて言えばレファレンダム的国民発議だ」

 国民発議に必要な署名数は10万筆だが、レファレンダムではその半分の5万筆。なぜ国民党はあえて国民発議の方を選んだのだろうか?「連邦議会はこれまで任務をきちんと果たしてこなかった」とブルンナー党首。「連邦議会で可決される法案には、国民が可決した憲法条項に則さないものがある。その場合、我々はレファレンダムを起こさなければならなくなる。我々はそのような事態を危惧していた」。そのため、「国民の意思を貫徹させる」には、連邦議会に委ねるよりも自ら新しく国民発議をする方が良いと判断したのだという。

 「国外追放強化案は党略的になかなか賢い手段だ。(同案が国民投票で可決されれば)ほぼ国民党が望む形で(10年の)国外追放案が実施されるようになる」とビュールマンさんは分析する。

 一方、バーゼル大学のマルクス・シェーファー教授(憲法・行政法)はこうした国民発議に懐疑的だ。「(国民党は)このような手段を使って、国際法違反や著しい法律違反を助長するような選挙キャンペーンを行っている。(国民発議と政治キャンペーンとの)組み合わせは新しいが、私は遺憾に思う」

 シェーファー教授はまた、スイスの法体制には比例原則(目的を達成するために用いる手段はそれ相応の規模・内容でなければならないという原則)が貫かれており、国外追放強化案は「この原則を大幅に傷つけることにもなる」と付け加える。

権力分立を空洞化?

 国外追放強化案にさらに厳しい目を向けるのが、ベルン大学名誉教授(政治学)のヴォルフ・リンダーさんだ。「問題は、(国民が)国民発議を通して連邦議会、政府、裁判所に指示や命令を直接出すようになると、権力分立が危うくなるという点だ。『法律を作る者は、法律を自ら押し通すべきではなく、また法律を実施する者は、独立機関による監査を受ける必要がある』という原則は(権力分立の)根幹を成している」

 また、国際比較研究では「権力分立のない国に憲法はなく、憲法が失われた国は独裁政権へと移行する危険性があること」が明らかになっていると付け加える。

 連邦議会議員は今回の提案をどう考えているのだろうか。国民議会国政委員会の委員を務めるクルト・フルーリ議員(急進民主党)は、国外追放強化案を契機に連邦議会に圧力がかかっているとみる。「国民はこの国民発議で憲法を変え、法律を制定しようとしている。だが、国民が立法府の役割を担うとしたら、憲法は確実に元来の体を成さないだろう」

 こうした指摘に対し、国民党のブルンナー党首は「権力分立が危うくなると?ちょっと待ってほしい。立法府自身、どんな権利でも主張できるというわけではない。それに裁判所。我々が把握しているところ、スイスでは裁判所が突然、国際法や国際条約を持ち出して国民の決断を無視するという傾向が強まっている」と反論する。

立法府の裁量の余地

 連邦議会は立法府として、国民投票で可決された提案を法制化するという任務を担っているが、今回の案が可決されれば「連邦議会の持つ裁量の余地が大幅に狭められてしまう」とフルーリ議員は危惧する。「(憲法改正案の中で)これほど詳細にルールを定めてしまうと、憲法が本来の意味からずれてしまう」

 政治学者のビュールマンさんは「私も最初は(連邦議会に裁量の余地がなくなるのではないかと)危惧していた。これは直接民主制の理念を踏みにじるものではないかとも思った」と話す。しかし、「(国民の)決定が神聖だったことは今まで一度もない」。客観的かつ冷静に考えれば、国外追放強化案は「下からの提案以外の何物でもない。国民投票で可決されれば、連邦議会は裁量の範囲で議論するだろう」。

 国民党は今後も、自分たちの提案が望み通り実施されていないと感じたら国民発議を行うつもりなのだろうか?「国外追放強化案のような国民発議を今後行う必要がなければいいと思う」とブルンナー党首。「だが確約はできない」

 今のところ、国外追放強化案は16年に国民投票にかけられる見通しになっている。

可決される提案の数が増加

国民発議で出された提案が国民投票で可決された場合、連邦議会はそれを実施するための法整備について議論をする。近年では可決された提案の数が増えており、連邦議会の負担も増えつつある。国民発議制度が導入された1893年以降から現在までに可決された提案の数は22件。1893年から1949年にかけては7件だったが、1982年以降は15件。2008年以降はほぼ毎年1件は可決されており、14年は2件可決された。


(独語からの翻訳・編集 鹿島田芙美)

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