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トップ企業が教える、スイスで仕事を得るヒント

People at the foot of a Swiss flag in the Alps
英大手金融機関HSBCによると、スイスで働く駐在員の平均年収は20万2865ドル(約2300万円)だ Keystone

10カ国語でコンテンツを配信するスイスインフォには世界中から読者が集まる。読者が最も気になることの一つは、「スイスで就職先を見つける方法」だ。

スイスには国内外の多国籍企業が数千社ある。こうした企業の多くには、国際的な視野を持ち、多言語を操るプロフェッショナルが活躍できる魅力的な機会が用意されている。

スイスインフォは、様々な産業分野からスイス最大の多国籍企業を数社選び、「候補者に求めるもの」について質問した。回答からはいくつかの傾向が明らかになったほか、興味深い忠告も得られた。

就職マッチングの基礎

自分の名刺にネスレ、ロシュ、グレンコア、ABB、ラファージュホルシムなどの大企業の名前が載っていれば、すごいことかもしれない。ただ、こうした企業の採用条件に見合うスキルや経験がなければ、応募するだけ時間の無駄かもしれない。

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外国の資格の承認

このコンテンツが公開されたのは、 外国に移住する際、悩みの種になるのが、それまでの国で取得した職業資格を新しい国で承認してもらうこと。スイスの職業の多くは公的機関などが定める資格が必要で、そのような場合、働き始める前に手続きが必要となる。

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「スイスのロシュには約1万4千人の従業員がおり、140以上の職種があります。そのため、私たちが求める職務的および個人的な資質も様々です」と、バーゼルに本社を置くスイス製薬大手ロシュの人事責任者、ヴィーブケ・ブロイアー氏は話す。「一般的に言えば、弊社の価値観を共有し、将来的にキャリアを発展させられる人を求めています」

企業の実務を理解することは、どのように業務に携わるのかを理解するのと同じぐらい重要であろう。ロボティクスおよびオートメーション技術分野を手掛けるスウェーデンとスイスの多国籍企業ABBは、価値に基づく精密な能力モデルを作成した。能力モデルには、革新性、スピード力から顧客中心、品質重視にいたるまで全従業員に求める様々な仕事への姿勢が記され、すべての候補者はこれを基に評価される。

重視されるデジタル知識

「混迷の度を増す世界で技術分野の先駆的リーダーである弊社では、候補者に対して強靭さ、協調性、ラーニングアジリティ(学習機敏性)および学習の速さ、仮想世界と共に、その世界を通し、仮想世界の中で働く能力、そして、デジタル志向を求めています」と、ABBの人材・教育責任者のプラサド・スワミナサン氏は語る。同社は162カ国から13万5千人の従業員を抱え、今年6月時点で約270の製造所を構えるが、従業員の大半はホワイトカラーだ。

デジタル知識はラファージュホルシムも重視する。建築材とソリューションのグローバル企業である同社は世界中に8万1960人の従業員がおり、そのうち約2千人がスイスで働く。「品行方正で起業家精神があり、結果を重視し、協調性があり、デジタル分野に強い人を求めています」と、人材マネジメント責任者のクラウディオ・ナギブ・カルサダ氏は話す。

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注目ポイント

履歴書ではフォーマットよりも明確さが重視される。エントリーレベルまたはジュニアレベルのポジションへの応募では、候補者の学歴、学位、課外活動が注目される。シニアレベルのポジションでは、職務経験およびマネジメントとリーダーシップ能力がより重視される。国外の候補者には、新しい文化への適応能力と多文化の中で働く能力が評価される。さらに地域のタレントプールにないスキルも重視される。

「人事担当者が興味を持ち、受話器を取って、初回面接に来るよう誘ってくるような職務経歴書をまとめ上げるのが重要です」とカルサダ氏は話す。

未来の上司に好印象を与えるには、前の上司と良い関係を築いておくのが良い。ただ、照会先と推薦状を重視する度合いは企業によって異なる。ラファージュホルシムは両方を重視。ロシュは経験に比重を置くが、ポジションによっては「無犯罪証明書」の提出が必要になることもある。ネスレは、採用プロセスの後半段階で推薦状を組織的に評価し、飛び込み応募はほとんど検討しない。だが他の多国籍企業への飛び込み応募をためらう必要はない。少なくとも候補者の履歴書が保存されるかもしれないからだ。

面接にはよく準備して、自分らしく​​​​​​​

無事、面接に招待されたとしよう。候補者がスイス在住でない場合、最初の面接が電話かスカイプになる可能性は高い。だが多国籍企業の大半は採用プロセスの最後に対面形式の面接を設けて、候補者間で地理的な不公平さが生じないようにしている。面接のアドバイスは、しっかり準備して自分らしくいることだ。これに反論する人はいない。「弊社について知っていることは何か」といった質問にまごついてはならない。そして必ず自分から質問することだ。

「これは当然でシンプルなことにみえますが、それができない候補者は意外なほど多いのです」とグレンコアのゲルダ・シュヴィント人事部長は話す。スイス・バールに本社を置く同社は、商品取引および鉱山開発を手掛ける多国籍企業だ。

「弊社がどのような企業なのか、そして事業内容について情報を集めることです。そうすれば質問を受けても『グレンコアはマーク・リッチによって1974年に設立された』という点以外のことが答えられるでしょう」

見習いの強み

シュヴィント氏によれば、どの分野でもキャリアを始めたばかりか、多少経験を積んだ人には面接の準備不足が目立つという。反対に、スイスの職業訓練制度を通してグレンコアに応募する15、16歳の候補者や、是が非でも就職しようという大卒者は面接準備に余念がない。グレンコアは自社教育を優先するため、他社からのトレーダーは採用しない。専門職では、転職の動機と、非階層的な企業構造に馴染めるかどうかが特に重視される。

「金融業界とは違い、グレンコアではキャリアの階段を淡々と登っていけるわけではありません」とシュヴィント氏。「弊社の組織構造は無駄が省かれており、非常にフラットです。そのためポジションを発展させるには、企業と共にそこに価値を見出していかなければなりません」

面接にはどうやって臨むべきだろうか?キャリア未経験者は、企業を徹底的に調べ、仕事内容を十分理解し、自分がその会社にどの程度向いているかを把握する必要がある。

「企業研究をとことん行い、そこでの知識を面接で1回しか使わないのではなく、面接全体で生かせるよう準備するのです」とラファージュホルシムのカルサダ氏は強調する。「面接官の話をよく聞き、自分自身にも耳を傾けるのです。そしてボディーランゲージをよく観察し、自分らしくいることが大事です」

「単純ですが有効なアドバイスとしては、仕事内容を熟読することです」と、スイスで100カ国以上から1万人以上の従業員を抱えるネスレでメディアリレーション マネージャーを務めるインゲ・グラッツァー氏は語る。「企業の価値観と歴史については特によく知っておいた方が良いでしょう」と付け加える。

ABBのスワミナサン氏は、企業の戦略と構造に自分がどれほど合っているかを把握しておくべきだと語る。「なぜそのポジションに自分が適しているのかを、正直に自己分析するとよいでしょう」

言語スキルは必須、国際経験はプラス

多国籍企業に就職したいなら、言語スキルと国際経験は大きな武器だ。エスペラント語は世界に浸透しなかったため、多国籍企業の大半は特に本社で英語を社内公用語にしている。

ポジションと労働環境によっては英語以外の言語も重視される。スイスではフランス語とドイツ語は事務職や人事部門の従業員には不可欠だが、異文化出身の人と働く心構えも欠かせない。

「この点がジュニアレベルかシニアレベルに関わらず重要です」とグレンコアのシュヴィント氏は指摘する。「特定の地域で働く人でも、国際的な視野を持ち、異文化出身者と協働できることを、私たちは確かめる必要があります」

この点に関しては他の多国籍企業も同じ意見だ。「大抵の場合、言語スキルは不可欠です。ただ、国際経験を重視するかどうかは各ポジションの募集要項によります」と、ネスレのグラッツァー氏は語る。

ABBのスワミナサン氏は、言語スキルがあると国際的に協働しやすくなり、雇用者は必要に応じて候補者を新しい地域に配置することもできると言う。

「一般的に国際経験は高く評価されます。文化への敏感さ、多様な状況への対応力、順応性が判断できるからです」(スワミナサン氏)

(英語からの翻訳・鹿島田芙美)

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