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多言語国家 連邦議会で4カ国語に同時通訳 一体どうやって?

通訳者ブース

スイス国民議会(下院)の、フランス語・ドイツ語の通訳ブース

(Keystone)

連邦議会は年に4回、政治家が首都ベルンに集まり、さまざまな政治課題を議論し、投票を行う。ただスイスは公用語が4つあり、政治家の母国語もドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語と異なる。議会の公式通訳の1人は、全員に現場で起きていることを等しく理解してもらうのはとても難しく、ストレスは多いがやりがいがあると話す。

「初めてやったときは本当に緊張しました」。国民議会(下院)の議場を見下ろすブースで、ハンス・マルティン・ヨリマン他のサイトへさんはそう語る。

読者の疑問に答えます 4つの公用語を持つスイス、不便じゃないの?

スイスの公用語はドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語だ。九州ほどの面積に4つの言語が共存し、車で2時間も走れば外国語のエリアに入り込んでしまう。日本人には特異に映るが、当のスイス人たちはどう感じているのだろうか。読者からの質問を現地在住の人にぶつけた。

「演説に圧倒されたのではありません。演説の内容と、あらゆる専門用語です。単語のジャングルを抜け出すのにかなり時間がかかりました。しかし、一度抜け出してしまえば、誰が何を言ったのかということに集中できる。仕組みを理解すれば、はるかに簡単です」

スイスインフォは秋季議会他のサイトへの期間中(27日に終了)、フランス語とイタリア語をドイツ語に通訳する仕事を14年間続けているヨリマンさんを訪ねた。

通訳ブース

ブースからの眺め。ハンス・マルティン・ヨリマンさん(左)が通訳中。イタリア語の通訳ブースは真正面の反対側にある

(swissinfo.ch)

「視覚的な要素は非常に役立ちます」。ヨリマンさんは完璧な英語で話す。 「画面などがないブースにいても、発言の解釈はできます。ですが、ここなら(発言者の)ジェスチャーを見ることが出来る。やじを飛ばしている人も見えるし、これから質問しようとしている人も分かる」

やじも翻訳するのか?「マイクは演壇上にあるので、通常は聞こえませんが、聞こえてきたら翻訳しますよ!」

下院の議場を一望できる通訳ブースは3つある。1つはドイツ語、1つはフランス語、1つはイタリア語に通訳する。各ブースには3人の通訳者がいて、45分ごとに交代する。ただし、ほとんどの発言はドイツ語またはフランス語のため(下院の200人の議員のうち、イタリア語を母語とするのは10人未満)、イタリア語通訳の負担は大きい。このためイタリア語のブースでは、30分の短いシフトを組んでいる。

第4の公用語ロマンシュ語の通訳は、事前に申請があった場合のみ配置する。

ヨリマンさんは「2017年、議員の1人が、ロマンシュ語で何か話しても大丈夫かと聞いてきました。事前にテキストをもらい、準備する時間をもらえれば大丈夫だと答えて、実際そうしました」と話す。ヨリマンさん自身もロマンシュ語を話すグラウビュンデン州出身。母親もロマンシュ語話者だ(国内で約5万人)。

同時通訳

ベルギー議会は1936年に同時通訳を導入したが、この手法が真価を発揮したのは1945年11月20日、ドイツで行われたニュルンベルク裁判だった。第二次世界大戦下のナチスドイツの戦争犯罪を裁くため開かれたこの裁判は、ドイツ、英語、フランス語、ロシア語への同時翻訳を可能にする最先端の技術(IBM提供)がなければ、とても11カ月では終わらなかっただろう。

1946年10月、スイス連邦議会で初めて行われた同時通訳は、4つのすべての公用語で行われたが、その1年後、3つの公用語(テキスト・スピーチを翻訳する言語)に設定された。

同時通訳は1948年初めに国民議会(下院)でドイツ語とフランス語が導入された。コスト上の理由により、イタリア語は2004年だった。

多言語の日

9月26日は、スイス連邦議会で最初のイベント「多言語の日」があった。

ヘルベティアラティーナ他のサイトへが主催。同団体は、議会と連邦政府内でフランス語、イタリア語、ロマンシュ語の促進を目指す。

「多言語の日」は、政治家に他の言語圏への理解を深めてもらうのが狙い。特に人口の7割近くを占めるドイツ語圏に、他の言語に目を向けてもらう。ドイツ語とフランス語を話す政治家は、その日は別の言語を話すよう奨励された。

インフォボックス終わり

現在、通訳が置かれているのは下院だけ(通常国会他のサイトへを開くため、上院議員46人が下院に加わるときも同様)。傍聴する人はヘッドフォンの使用が認められており、議会ウェブサイトも3つの公用語で議会をライブストリーム配信他のサイトへする。

全州議会(上院)では通訳は配置されていない。2014年の議会公報他のサイトへは「(上院の)議員は、これまで複数回にわたり、通訳の要請を却下してきた。上院議員は少なくとも母国語以外の1つの公用語で議論を理解できることが、市民から求められているからだ」としている。

同様に、議会の委員会他のサイトへで行われる議論も通訳が入っていない。政府は2007年、「スイスは同じ運命を共有するという『共通の意志』の下に誕生した。各連邦議会議員は出身地にかかわらず、言語、文化、他者の態度を理解するよう努めねばならない。(これは)議員たちが、対面して議論する際に言語の壁を克服できるという前提に立つ」。

では、実際に多言語を操る議員はどれくらいいるのか。「通常の討論では、(通訳を利用する人は)それほど多くはありませんね。ここに今座っている人の3人に1人と言ったところでしょうか。時々誰かが(通訳用の)ヘッドフォンを使います。でも、それを体系的に使用する人もいますよ」と、ヨリマンさんは説明する。

「(ヘッドフォンを使用しないのは)プライドの問題もあるかもしれません。でも、別の要素は、投票結果が決まったこと、そして議論は(議場ではなく)委員会で済んでいるという点です」

準備

9人の議会通訳者はすべてフリーランスだ。議会が開かれる年間55日間の契約を結んでいる。勤務時間は1日5時間「だけ」だが、準備にはもっと多くの時間がかかる。

「12年、13年やっているからもう準備が必要ないーというわけではありません。議論は毎回違うし、新しいイニシアチブ(国民発議)も出てきます。手続きに関しては、ある程度のルーティンが決まっていて、実施要項は常に同じですが、議題は毎回新しいものが出ます」とヨリマンさんは話す。

「個人的には国際政治が好き。スイスとEU(欧州連合)の間で何が起こっているかといったことですね。環境関係は難しい。特定の種の保護に関するもので、昆虫などのリストを勉強しなければいけませんから。私は環境に興味がないとは言いませんが、現場でどれだけ能力を発揮できるかは、どれだけ準備ができたかに比例します。あらゆる問題に興味を持つよう、自分の尻を叩かないといけない」

専門用語が分からない場合は、オンラインの議会データベースTERMDAT他のサイトへが参考になる。スイスの4つの公用語と英語で、約40万の法律・行政用語を収録した辞書だ。

課題

同時通訳はタフさが求められる。翻訳者のデビッド・ベロス他のサイトへの著書「Is That A Fish in Your Ear?」の言葉を借りれば、それは「人間の脳でできる最も疲労の多いものの1つ」だからだ。通訳者のストレスレベルは、航空管制官のそれとよく比較される。ヨリマンさんもそうだろうか?

「確かにストレスがたまりますよ!」彼は言う。 「(休憩中は)コーヒーを飲みに行くことが多いですね。天気が良いときは、しばらく外に座って日の光を浴びたり。でも、議場の状況を知るため、あるいは投票が行われる可能性があるときは、ブースにとどまることもあります」

最も難しいのは、誰からがジョークを言い始めたときだという。

「ジョークは難しいです。通常は翻訳不可能だから。言い換えるのですが、明らかにユーモアを失う」

「引用もやっかいですね。昨日、ある議員が(フランスの詩人)ラ・フォンテーヌの寓話の一節を読みました。天才か、その引用文を知っているか、はては光速でネット検索でもしなければ、『誰誰さんは今、寓話を引用しています』とだけしか言えませんよ」

ゴルバチョフ

2000年、スイス連邦議会で談笑する旧ソ連のゴルバチョフ元大統領とスイスのアドルフ・オギ元連邦大統領。通訳者(右から2番目)は、専門用語よりもちょっとした世間話に意識を集中する

(Keystone)

仕事のコツについて、ヨリマンさんは、常に一歩引いてみることだと話す。「個人的な意見や感情を追加したり、オリジナルのバージョンを歪めたりしてはだめ」

ただ、それが無理な時もある。 ベロスは、ニュルンベルク裁判で「通訳がアウシュヴィッツの氷のように冷たい司令官ルドルフ・ヘスの証言を聞き、涙を流したのは一度ではない」と指摘している。

自動翻訳

人々が異なる言語を話す限り、通訳の需要はなくならない。だが、その一方でコンピューターによる通訳技術は飛躍的に発展している。コンピューターの自動翻訳は数年前よりもはるかに精度を増し、音声技術も目を見張るものがある。ヨリマンさんは、それを不安に感じているのだろうか?

「ある程度、そうですね。ほとんどの通訳者は今後の行く末を静観し、『まあ、危なくなるまでにはあと20年かかるだろうな」と思うでしょう」

「実際その通りになるかもしれません。しかし、正直なところ、何が最初に起こるのかは分からないですよ。共通語としての英語―ここでもう私たちが余計なものになるんでしょうがーまたはコンピューター技術が私たちの仕事を奪うレベルに進歩するかもしれませんしね」

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(英語からの翻訳・宇田薫), swissinfo.ch

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