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女性権と男性性 — 敵を知らずして戦はできず                 

アルブレヒト・デューラーの「アダムとイブ」、男と女は昔から共存しなければならない定めに… Reuters

「女性の権利と男らしさ」とこんなミスマッチなタイトルのジェンダー会議が連邦外務省開発協力局の主導で6月にベルンで開かれた。

男女平等には「男とは何か」を理解するのが鍵だという新しいアプローチだ。これまで無視されていた男性の習性や考え方を理解することが、今後の女性の権利拡大にとって必須だと考える。

 スイスの海外開発プロジェクトを手掛ける開発協力局 ( DEZA/DDC ) にとってジェンダー平等は自国でも、開発協力国でも重要なテーマだ。しかし、多くの途上国では男性支配社会のなか、男女平等をプロジェクトに反映するのは容易なことではない。

女性の権利の反映はまだまだ

 開発協力局の副局長ビート・ウイルヘルム氏は「われわれの目的は男女を同じに扱うことではなく、平等なアクセス、パワーや影響力を与え、価値の平等を実現すること」と語る。

 貧困のまっただ中に暮らす、世界の多くの女性は意思決定プロセスに参加できない。そのうえ、男性が占めている立法府は女性に関係する政策を常に考慮するわけではない。 

 インドの南、ケララ州の女性グループは公共資金をどのように支援金として分配するかで戦っている。幼稚園のプロジェクトの資金を「女性基金」から出資すべきではないと主張している。

 ケララ州の「サキ女性資源センター」のアルヤマ・ヴィジャヤン氏は地元の男性政治家がこの女性グループの活動を認めたがらなかったという。会議では女性が発言中に拳でテーブルを叩いたり、野次が飛んだりした。

 サキ女性資源センターはこれをうけ、女性が静かにそれでも、断固として自分の意見が言えるように自己主張トレーニングを行った。同センターは政府当局に、ジェンダー平等に対応するプロジェクトにもっと予算を増やすように働きかけている。

配偶者からの暴力

 家庭内でも夫婦間の権力の問題が深刻化している。これは女性が配偶者から暴力を受ける形をとる。国連の推計によると世界の女性の3人に1人は夫または家族など近い人から叩かれたり、性行為を強要されたり、虐待を受けているという。

 開発協力局は多くの国で、ドメスティック・バイオレンス ( DV ) 防止プロジェクトを行っている。例えば、ベトナムでは男性に「怒りの対処法」を教えている。 

 タジキスタンでは市民戦争、経済崩壊、ソ連との分離によって伝統的な価値観が盛り返し、女性の社会的地位が下がり、家庭内の緊張が高まっている。このため、開発協力局は男性が支配的な政府や市町村などの機関でこの傾向を変えるように働きかけている。

男性の心理分析

 ジェンダー会議ではキューバのハバナ大学の男性心理専門家、フリオ・セサール・ゴンサレス・パヘス氏が「男性心理とは大きな不安定さを基本とする概念である。このため、暴力的傾向はエスカレートすることもあるから、暴力は初期のうちに対応しておかなければならない」と語る。

 ゴンサレス・パヘス氏によれば、これはセラピーだけの問題ではなく、男性と女性の関係を変えなければならないという。また、どの社会も男性がなぜ暴力的になるのかを積極的に考えなければならないという。

 開発協力局のアドバイザー、アンヌマリー・サンカー氏も平等議論を話し合うときに男性の役割が重要であるという視点だ。

 「ジェンダー議論をしていると『ああ、女性の話をしている』と言うのが先ず始めの反応です。われわれのジェンダー平等政策においては、ジェンダーは女性と男性の関係に関する問題であると強調します。ですから、平等問題において男性が大きな役割を担うので、ターゲットにするのは当然です」

swissinfo、イザベル・レイボルド・ジョンソン 屋山 明乃 ( ややま あけの ) 意訳

<ジェンダー> 

ジェンダーとは生物学的な性別を示す「性」に対して、社会的、文化的につくられる「男性像」「女性像」といった「社会的性別」を指す。

<ジェンダー平等> ( Gender equality )

男性と女性が同数でなければならないという考えではなく、女性と男性が同じように扱われなければならないということでもない。人生において均等の機会に恵まれなければならないということ。

<ジェンダー主流 > ( Mainstreaming gender )

女性と男性が多くの場合、違ったニーズや優先順位または抱負があることを認めそれぞれ違った形で、社会の発展に貢献するということ。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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