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干し草の香る頃 – スイスの酪農家の仕事

動物たちの放牧もいい干し草を作るために必須

(swissinfo.ch)

 戦前の話だが、かつてスイスで学校とは1年の半分しか行かないものだった事をご存知だろうか。学校は暇な冬の間に行くもの、夏は忙しいので学校どころではない。「猫の手も借りたい」夏の繁忙期、子供たちは農家の大切な働き手だったのだ。農家以外の子供たちも、長い夏休みにはわずかな賃金で農家に雇われた。当時を経験した人の話を聞くと、十歳ぐらいの子供たちがどれほどの重労働をさせられていたのか驚くばかりである。もちろん、現在のスイスでは、児童労働は禁止されている。(農家の家族がお手伝いをするのはその限りではない)

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 まだトラクターなど存在しなかった頃、農家の人たちは早朝五時には野原に出て、草を刈っていた。私が死神を連想してしまう大鎌は、干し草を刈るための大切な道具だった。これを使っての草刈りは力のある男の仕事で、女や子供たちは刈った草を小山にまとめたり、反対に拡げたりする。ひと働きした後、午前九時頃に休んで食べるのが「九時のおやつ」(Znuni)である。この休憩の習慣は今でもスイスに残っているが、現代のオフィスワーカーたちはそれほど体力を使わないので、朝ご飯をこの時間に食べる人も多い。

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 二日かけて太陽で乾かした干し草は、まとめられて納屋にしまわれる。ここで発酵プロセスが進むのだが、干し草が十分に乾ききっていないと、発酵が進み過ぎて発熱し、火事になる事もあるらしい。だから、たかだか干し草と言っても、経験に基づいた丁寧な仕事をしなくてはならないのだ。

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 現在は平らな牧草地では、かつて何人もの人手の必要だった事を、すべて専用トラクターが一度に作業してくれる。草を刈り、風を入れてひっくり返し、それから小山にする。また拡げて、ひっくり返したものを大きなロールにまとめ、ビニールで包み込む。発酵はこのビニールの中で進み、火事になる危険性も雨でダメになる事もない。

 けれど山間のトラクターが作業出来ないような牧草地では、いまだに伝統的な干し草刈りの作業を目にする事が出来る。家族総出でする作業は、重労働ながらも絆を深めるようだ。

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 酪農家は広い牧草地を持っているが、毎年同じところで農作物や牧草を作るわけではない。数年に一度、動物たちを放牧するだけにする土地が必ずある。動物たちの糞が自然の肥料となり、その土地が再び肥えるようにするのだ。また、高齢者など自分で庭の草刈りをするのが大変な場合は、農家から家畜を数頭借りる事も出来る。一般家庭の庭にヤギなどがいる光景にはびっくりするが、慣れてくると微笑ましくなる。

 さて、干し草はもちろん、冬の間の家畜たちの飼料にするため作るものだが、ベッドがない場合の簡易ベッドとしても長く利用されて来た。たとえば、夏のあいだ高地のマイエンセス(Maiensäss)と呼ばれる山小屋に寝泊まりする場合、十分な数のベッドがなければ納屋の干し草の上に寝る。また、戦前の下等兵は干し草の上に寝るのが普通だったそうだ。日本でも、アニメ「アルプスの少女ハイジ」の放映時は干し草ベッドに憧れた少年少女がたくさんいたものだ。

 その干し草ベッドに寝る経験ができる宿泊施設がスイス全土にあり、干し草ベッド宿泊施設協会と言える団体も存在している。動物との触れ合いも出来て、おしなべて安価なので、子供のいる家庭がよく利用する施設になっている。インターネットで所在地検索や予約も可能だ。実は干し草ベッドなるもの、普通のベッドより快適な寝心地ではないようだが、スイスに来るならものは試しで一晩でも経験してみるのも旅の一興だろう。

ソリーヴァ江口葵

プロフィール:ソリーヴァ江口葵

東京都出身。2001年よりグラウビュンデン州ドムレシュク谷のシルス村に在住。夫と二人暮らしで、職業はプログラマー。趣味は旅行と音楽鑑賞。自然が好きで、静かな田舎の村暮らしを楽しんでいます。

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