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彗星探査機ロゼッタ


12日、チュリ彗星に探査機着陸か?生命の起源もやがて解明?




探査ロボット「フィラエ」の彗星着陸を2日後に控え、かたずをのんで見守る欧州宇宙機関。水と生命がどこから地球にやってきたのかが今解明されようとしている (ESA)

探査ロボット「フィラエ」の彗星着陸を2日後に控え、かたずをのんで見守る欧州宇宙機関。水と生命がどこから地球にやってきたのかが今解明されようとしている

(ESA)

彗星(すいせい)に探査機ロゼッタを着地させる。この人類初のミッションを、欧州宇宙機関が今まさに達成しようとしている。古代、神の力が空に姿を現したとして恐れられていた彗星。だが、実はもっと魅惑的な話、つまり世界と生命の起源の謎を秘めているのだ。その一部が、欧州宇宙機関に参加するスイス・ベルンの研究所で解読されようとしている。

「彗星は、惑星を構成する基本要素に似ている。少なくとも、そう信じさせる十分な根拠がある」と話すのは、ベルン大学の宇宙化学専門家のキャスリン・アルトウェッグさんだ。欧州宇宙機関(ESA)が進めるロジーナプロジェクト(ROSINA、Rosetta Orbiter Spectrometer for Ion and Neutral Analysis)の主任研究員でもある。

 ロジーナとは、彗星探査機ロゼッタ(Rosetta)に積載された機器の中で最も重い観測装置の名前だ。彗星から宇宙空間に放出されるガスや物質を分析するため2台の質量分析計と1台の圧力センサーを組み合わせている。

 「巨大な汚れた雪玉」と呼ばれる彗星は、最大50%ほどが水で、残りは塵だ。太陽系の限界温度帯に到達するまで彗星の水は固体だが、太陽に近づくにつれ、熱によって水が蒸発し塵が放出される。これが、数百万キロメートルもの長さに達し古代人を恐怖におとしいれたあの驚異的な光の尾の正体だ。

 惑星の構成要素と言ってもいい彗星だが、大量の水を含んでいるのは不思議ではない。宇宙には豊富に水が存在するからだ。原始の地球にも当然水が存在したはずだ。だが形成期の地球は溶解するマグマの塊で、非常に高温な環境下で原始の水は全て宇宙空間に蒸発してしまった。それなのに、今地球には水がある。どのようにして水が地球に戻ってきたのだろうか?それは、まさしく彗星によってなのだ。少なくとも、これが考えられる理由の一つだ。

 「理論では、多くの惑星(地球もその一つ)が形成されてから8億年後に大量の小天体や小惑星、彗星が惑星に衝突した」とアルトウェッグさんは説明する。「月面クレーターの年齢を調べると、その大半はおよそ38億年前に出現したことが分かる」。地球に天体が衝突した跡は浸食作用によってほとんど消えてしまっている。だが、地球の大海を満たした水は、彗星によって運ばれた可能性が高い。

 さらに、彗星が運んできたものは水だけではなかったと思われる。彗星は原始有機物質を含んでいることが分かっている。「それはまだ生命と呼べるものではないが、アミノ酸のような分子だ。原始有機物質が彗星に存在することから、彗星が衝突した1億年後という、宇宙の尺度から見れば一瞬の非常に短い間に地球に生命が現れたことへの説明がつく。孤立原子よりも、原始的な有機物の複合体からの方が生体細胞が生まれやすい」とアルトウェッグさんは話す。

10年間で60億キロメートルを飛行

 生命の起源が宇宙から飛来した?これが、ロゼッタ探査機が解明しようとする謎だ。欧州宇宙機関のミッションを遂行する探査機の名前は、古代エジプト学者のシャンポリオンが象形文字ヒエログリフを解読する鍵となったロゼッタストーンに由来する。

 2004年3月2日に打ち上げられたロゼッタは、今年8月初旬に67P/チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に到達したのだ。短く「チュリ」とも呼ばれるこの彗星は現在、地球から4億キロメートル離れた火星と木星の間を横切っている。彗星に到達するまでに、ロゼッタは何と10年の歳月をかけて60億キロメートルを飛行した。

 宇宙空間では直線飛行できないので(サイエンスフィクションに出てくるような推進手段を備えていれば別の話だが)、ロゼッタは太陽の周りを4周し、地球に3回、火星に1回スイングバイ(天体の公転運動を利用することで宇宙機を増速する)を実行した。彗星の軌道に達してからは、リアクターに8回点火して減速しランデブーを成功させ、彗星の周回軌道に乗った。

 「8月初旬に彗星のシグナルが送られてきたときは感動した」とアルトウェッグさんは話す。「時速2万4千キロで飛行していたロゼッタは、減速して広大な太陽系の中で幅4キロメートルの天体を見つけなければならなかった。見事な成功だ。だがそのために、ヒドラジンを600キログラムも使った。搭載していた燃料のほぼ全量だ」

臭気を放つ彗星

 チュリ彗星の軌道に到達して以来、ロゼッタから送られてくる画像は世界を魅了している。望遠鏡で見える光の陰影から、この彗星は不規則な曲面をしていると考えられていたがむしろ、風呂に浮かべる「アヒルのおもちゃの形」をしていることが分かった。「首」にあたる部分が燃え盛る太陽を周回する間に溶け、最終的にチュリ彗星は二つに割れるだろうと予想されている。

 ロゼッタが彗星の周囲を高度わずか数十キロメートルで飛行するようになってから、彗星の構成を知る手掛かりになる膨大な量の情報が送られ始めた。「さまざまな種類の分子が発見された。その中にはこれまでに他の彗星で見つかったことのない分子もある。分子の混ざり方を見ると、硫化水素のせいでこの彗星は腐った卵の臭いがし、そこにアンモニア臭が混ざったとても不快な臭気を放っていると思われる」とアルトウェッグさんは話す。「大量の原始生体物質も存在する。だがその全てはまだ分析されていない」

 そして「ロジーナ観測装置からは毎日データが送られてくる」と続ける。「1986年に探査機ジオットが銃弾の70倍の速度でハレー彗星に1時間半近接飛行した。その時に送られてきたデータを解析するのに10年もかかった。今回のデータ解析にも相当な時間がかかるだろう」

羽毛ほどの軽さ

 科学者が分析しなければならないデータの量は、ロゼッタが人類初の大きなチャレンジ「彗星の表面に着陸機を投下する」というミッションに成功すれば、さらに増える。着陸機「フィラエ(Philae)」は11月12日午前8時35分(GMT)、7時間かけて降下・着陸作業を完了する予定だ。このかつてない試みは、非常に慎重さを要する。

チュリ彗星の重力は非常に弱いので、着陸機フィラエはわずか1グラムほどの重さしかない。そのため、着陸の際宇宙空間に跳ね返る可能性も十分にある。あるいは、彗星がガスを噴き出し、羽毛に息を吹きかけるようにフィラエを吹き飛ばしてしまうかもしれない。このような万が一の事態に備え、フィラエは接地の際に銛(もり)を打ち込んで着地面に機体を固定する。だがそのためには、十分に固い地点に着地しなくてはならない。「彗星は硬い氷の塊ではなく、70%は塵だ。例えばさらさらとした粉雪のように。粉雪に何かを固定するのは困難だ」とアルトウェッグさんは強調する。

 だがこのミッションが成功した時の、プロジェクト関係者の喜びと、彗星の表面から直接採取されるサンプルを目の前にした科学者たちの探究心は計り知れないものになるだろう。

理解するためのミッション

 だが、太陽系、地球、生命体がどのように形成されたのかを知ることが、一体何の役に立つのだろうか?アルトウェッグさんはこう答える。「何の役にも立たない。より多くの食べ物を誰かに与えられるわけでもないし、環境問題が解決するわけでもない。ただ、これは人類の本質的な問題だ。私たちは地球に水と有機物質を運んだのが彗星なのかを知りたい。それが分かれば、なぜこれほど急速に(生命の誕生などを含め)全てが発展したのかが解明できる。太陽系に存在するものが宇宙のどこかでも起こり得るかどうか、そして『私たちは宇宙に存在する唯一の生命体なのか?』という疑問も解明できるかもしれない」

 「少なくともそれが私を研究に駆り立てるものだ」とこの科学者は言う。「それでも、これだけの大金をこの計画に使うことが正しいのだろうかと時々自問する。もっと身近で日常的な問題を解決するために使われるべきなのではないのかと。だがそれをいうならば、音楽も無益なものだが、音楽がなかったら世界がむなしくなるのと同じではないだろうか」

「スイスメイド」の質量分析計とカメラ

重さ35Kgの観測装置ロジーナ(ROSINA、Rosetta Orbiter Spectrometer for Ion and Neutral Analysis)は、ロゼッタ探査機に積載された機材の質量の20%を占める。サンプルから分子を探知して判別する2台の質量分析計と、1台の圧力センサーから成り、すでに67P/チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の尾を構成する物質について重要な情報を送信し始めている。ロジーナはベルン大学物理学研究所の指揮で複数の研究所や企業からなる国際的なコンソーシアムによって設計・製作された。

また、着陸機「フィラエ(Philae)」に備えられた7台のカメラによりパノラマ画像が撮影され、これまでにも美しい画像が送られてきている。後方に写った彗星とロゼッタの「自画撮り」の画像もある。ロジーナの開発・製作はヌーシャテル州の企業「スペースエックス(Space X)」とフランスの宇宙天体物理学研究所(IAS)、国立宇宙研究センター(CNES)の共同研究により実現された。


(仏語からの翻訳・由比かおり), swissinfo.ch

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